両親の借金を肩代わりしてもらう条件は 日本一可愛い女子高生と一緒に暮らすことでした。2

第2話 週末何しますか? 勉強会しませんか? その2

    *****


 今日は体育の授業がある。3限目と4限目の通しで他クラスと合同授業となる。

 男子は屋外でサッカー、女子は体育館でバスケの予定だったが朝から降っていた雨が強くなったため男子も体育館でバスケをすることになった。これには男子は大喜びだった。野球部のなんかは拳を天に突き上げていた。彼女持ちなのにいいのかそれで。

「男子と合同で体育をすることは初めてじゃないけど相変わらずだね」

 試合に必要な物を準備するため、体育館内にある備品倉庫に向かっているところで二階堂に声をかけられた。先ほどの茂木達の話を聞いていたのか、呆れてため息をついていた。

「しょうがないさ。男は普段見ることが出来ない姿を見るとテンションが上がる単純な生き物なんだよ」

 明和台高校の体操着は男女ともにジャージである。今は冬なので長袖長ズボンだが、夏になると半袖半ズボンになる生徒がほとんどだ。女子の体操着姿をこうしてまじまじと見ることが出来るのは春先の球技大会と体育祭だけなので貴重な時間だ。茂木達が興奮するのも理解できる。共感はできないが。

「そうなんだ。それじゃ吉住も私の体操着姿を見てテンション上がった?」

「ハッハッハッ。馬鹿言え。今更二階堂の体操着姿を見てテンション上がるわけないだろうが」

 得点板は備品倉庫の奥の方に置かれていたので引っ張り出すのが面倒だった。バレーやバスケのボールがぎっしり詰まっているカゴを乱暴に動かしていく。

「むぅ……それはそれでなんか腹立つんだけど……でも一葉さんの体操着なら違うんでしょう? 吉住のむっつりスケベ」

 言うにこと欠いてむっつりってひどいな! そもそも二階堂はバスケ部に所属しているから体操着姿どころかユニフォーム姿を見ているし、実際にプレーしているところも見ている。だから今更体操着姿でどうこう思わない。むしろユニフォーム姿の方が肌色多いだろうが。その点楓さんの体操着姿は見たことないから新鮮さから高まるものがあるな。ってかそんな話はいいから少しは手伝ってくれ。

「そうか……吉住は私のプレーをそういう目で見ていたのか……イヤらしい」

 おかしい。何を答えても批判される結果にしかならないのは理不尽ではないだろうか?

「そもそもの話、男子のテンションが上がっているのは女子の体操着姿を見ることが出来るからじゃなくて、女子の前でカッコいいところを見せることが出来るからだと思うぞ? 現にいつも以上にみんな気合いが入っているからな」

「なるほどね。ホント、男子って単純だね。でもそういうことなら私も人のこと言えないかも」

「ん? どういう意味だよ、それ?」

「ううん、なんでもない! 私もちょっと真面目に頑張ろうかなってだけの話」

 普段は真面目じゃないのか、と思ったが体育のバスケで二階堂が本気を出したらそれこそ授業どころではなくなるだろう。男子でさえ止めることができるかどうか。

「だから吉住、ちゃんと見ていてよね! ついでに応援もよろしく」

 そう言ってひょいっとストップウォッチを投げてきた。慌ててそれを受け取った時には、二階堂はガラガラと得点板を引きずって行ってしまった。何を考えているのかさっぱりわからないが、まぁ隣の席のよしみということで応援ぐらいならするさ。


    *****


「吉住だ! 吉住を潰せっ! あいつにこれ以上シュートを打たせるなぁ!」

 バスケ部所属の相手クラスの選手が声を張り上げて味方に指示を飛ばす。いや、これは公式選じゃなくて単なる体育の授業だよな? 潰せとか物騒で強い言葉を使うなよ。

「これ以上吉住に見せ場を許すな! なんとしてでも潰すんだ!」

 ゴールは正面だがシュートを打つには少し遠い。これが得意分野ならまだしも、バスケ素人しろうとの俺では二枚ついたディフェンスを引きはがすことはできない。ドリブルで切り込むにしても警戒されているし、万が一突破できたとしても後ろに控えているバスケ部員がヘルプに来て抑えられて終わりだ。なら俺が選択するのは───

「───伸二!」

 二度、三度、細かくステップを踏みながら手元でボールを操り、強引に突破を仕掛けると見せかけて右サイドで待機している相棒にノールックでパスを出した。フリーでボールを受けたとった伸二はそのままゴール下へと進んでレイアップシュートを決めた。

「吉住! 日暮だけじゃなくて俺にもパスをよこせぇ! シュートを決めさせろぉ!」

 伸二とハイタッチをする横で茂木が不満そうにしている。そりゃパスを出したいけど、茂木はシュート上手うまくないからな。まぁ授業だし、勝ち負けは二の次だな。

「わかったよ、茂木。次はちゃんとパスを出すから決めてくれな?」

「おっしゃぁ! さすが吉住、話が分かるぜ! ばっちりダンクを決めてやるぜ!」

 いや、それは無理だろうと突っ込む前に茂木は守備位置に着いた。鼻息荒くして敵が攻めてくる。得点は20対18で俺達がリード。ここを守ってカウンターを仕掛ければ勝ちが見えてくる。

「よ───し───ず───み! 積年の恨み……今こそ晴らす!」

「待ってくれ。そこまで恨まれるようなことをした覚えはないぞ?」

「だまぁれ! 毎日毎日男子生徒全員の憧れである一葉楓さんとのイチャイチャをこれ見よがしに見せつけやがって! そればかりかついさっきも二階堂さんとも……! 許せん! 明和台三大美少女の二人をはべらすお前が憎い!」

 なるほど、やっぱりというかなんというか明和台三大美少女の最後の一人は二階堂だったんだな。

「お前がいなくなれば俺達だって───覚悟しやがれ!」

 どうしてそうなる!? と言い返すよりも早く、この怨念に取りつかれたバスケ部員はドリブルを仕掛けてきた。

 だが俺への怒りで心と頭が同時に燃え上がっているこの選手の動きは単調だった。動きのキレはさすがだが身体からだの重心がき手側に傾いている。これでは自分が進む道を自ら教えているようなもの。そうなればドリブルのタイミングに合わせて進路に腕を伸ばせばボールは簡単に奪える。

「───なにぃ!?」

「頭は冷静にしておかないとダメだぞ───速攻!」

 がくぜんとするバスケ部員に一言告げてから声を張り上げる。伸二と茂木はすでに敵陣目掛けて走り出している。さすが運動部員だ。

「茂木ぃ───決めてこい!」

 約束通り俺は茂木にパスを出した。相手陣内には誰もいない。ダンクを決めるならここしかないぞ!

「おっしゃぁぁぁぁぁ行くぜぇぇええええ!!」

 ボールはつながり、たけびを上げながら茂木が勢いそのままにゴールに向けてジャンプするのだが、

「……あっ」

「……あのバカ」

 しくも俺と伸二の声が重なり、それと同時にピピーと反則を告げる笛が鳴った。

「トラベリングです」

 初歩的な反則で茂木の見せ場は終わった。ちなみにジャンプしたところまでは完璧だったがリングに届くことはなかった。ギャグかよ。


    *****


「チクショウ! 一世一代の俺の見せ場が! ダンクシュートがぁ!」

 茂木が地団駄を踏みながら悔しそうにしているのを聞き流しながら、俺は額にいた汗を袖で拭った。サッカーが本職だけどバスケも中々楽しいな。二階堂のようにれいなシュートフォームとはいかないが、ようで何とかなるもんだな。

「無視か!? 無視なのか!? どうしてお前ばっかり黄色い声援を浴びるんだよ……世の中不公平だ……」

 怒りが一転して悲しみへと変わり、茂木はがっくりと膝をついた。感情の起伏が激しい愉快なやつだが、こう見えても茂木は野球部の次期主力候補なんだよな。

「お疲れ、吉住。想像以上に上手でびっくりしたよ」

 コートの隅で汗を拭っていると二階堂が声をかけてきた。

「いや、バスケ部エースと比べたら俺なんて全然だよ。たまたまシュートが全部入っただけで、もう一度やれって言われてもできねぇよ」

 ドリブルをカットしての茂木へのロングパスにしても、相手が頭に血が上っていたからこそできたことであり、少しでも冷静であれば結果は違っていただろう。三歩歩いた馬鹿は知らん。

「バスケ部じゃない吉住にカッコいいところを見せられたんじゃ、バスケ部の私はもっとカッコいいところを見せないとね」

 名誉ばんかいしないと、と言い残して二階堂はチームメイトが待つ輪へと加わった。あの口ぶりからすると、もしかしてあいつ本気を出すつもりじゃないだろうな?

 そんな俺の不安は見事に的中した。相手チームの中にもバスケ部所属の子がいたがエース級の二階堂が相手では役不足がいなめない。結果どうなったかと言えば明和台の王子様の独壇場となった。

 二階堂は悠然とした笑みを浮かべながらボールを中央へと運んでいく。二階堂のポジションは司令塔。本来はバシバシ得点を稼ぐフォワードらしいが、この状況においては自分がボールを回したほうがいいと判断したのだろう。それに、司令塔が攻撃参加できないわけではない。

「さぁ、もう一本。取りに行くよ」

 リズムよく、ゆったりとした歩調でドリブルをしながら敵陣へと向かう二階堂。相対するバスケ部の選手はすでに肩で息をしている。それほどまでにエースのプレッシャーはすさまじいのか。

 警戒する相手選手に対して、二階堂はボールを手足のように自在に操りながら前後左右に細かく、緩急を付けながら舞うようにステップを踏んで翻弄する。

「───さぁ、行くよ?」

 素早くくるりと回転してディフェンスを軽々突破し、勢いそのままに二階堂がゴールへと突き進む。こうなってしまっては誰も止めることはできない。せいぜい時間をわずかに稼ぐだけ。

「これ以上好きにはさせない!!」

「───くっ!?」

 わずかな時間稼ぎの間に追いついた選手がシュート体勢に入っていた二階堂を妨害するために飛ぶ。だが走ってきた勢いがあったので思っていた以上に身体が前に流れて───

「───きゃっ!」

 二人の身体が衝突した。相手の女の子はお尻から落ちるが二階堂は不自然な倒れ方をした。すぐに立ち上がろうとしたがもんの表情を浮かべて右足首を押さえた。体育館がにわかに騒然とする。男子もプレーを中断して息を吞む。

「二階堂さん、大丈夫!?」

「あ、あぁ。うん、大丈夫。ちょっとくじいただけだから」

 接触した子が慌てて声をかけに来るが、心配かけまいと二階堂は笑顔で答える。だが本当は痛いのに迷惑をかけたくないからやせ我慢をしている、そんな風に俺には見えた。

「大丈夫。アイシングをして少し安静にしていればすぐに痛みも引くと思うから。だからそんな思い詰めた顔をしないで。いいね?」

「う、うん……ごめんね、二階堂さん」

 二階堂はポンポンと女の子の頭をでてからゆっくりと立ち上がる。こういう時でも王子様のような振る舞いをするからファンが増えていくんだぞ。

「先生、念のため保健室に行ってきてもいいですか?」

「あぁ、もちろんだ。付き添いはいるか?」

「いえ、結構です。一人で行けますから」

 そう言って二階堂は体育館から出て行った。その足取りはどこも問題なさそうだったから、みな一様にあんして授業も再開された。

「……悪い、伸二。ちょっとトイレ行ってくる。長くなるかもしれないから先生になんか言われたら適当に誤魔化しておいてくれ」

「え、ちょっと勇也!? ふじもと先生を誤魔化すのは無理だよ!? あの人の圧は地味に怖いんだから───!」

 伸二の泣き言を背中で聞き流し、俺は二階堂の後を追った。

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