第2話 週末何しますか? 勉強会しませんか? その1
「朝から
「あいにくの雨模様なんだけどね。というか楓さん、自分の傘持っているんだからそっちを使いないよ?
「勇也君とこうして合法的に密着できる機会は逃したくないです! だからもっと勇也君も身体を寄せてください! 肩が濡れちゃいますよ?」
グイっと引っ張られて俺達の間にあった隙間はほとんどなくなる。こんなことならもっと大きな傘に買い替えるか?
「……朝から見せつけてくれるね、勇也。熱すぎて春を通り越して真夏になったかと思ったよ」
「ヒューヒュー! 朝っぱらから相合い傘なんてさすがだね、楓ちゃん! 今日も幸せいっぱいかな?」
伸二こと
その恋人である大槻さんこと大槻
「はい、朝から勇也君とくっつくことが出来て幸せです!」
「うん、うん! 幸せなのはいいことだよ! そういうわけでシン君! 私達も相合い傘をしようか!」
「どうしてそうなるの!? って秋穂、言いながら僕の傘の中に入ってこないで!」
狭いんだから! という伸二の訴えが聞き入れられることはなく、伸二と大槻さんの二人も俺達と同様に相合い傘をすることになった。
嫌がるそぶりをしているが伸二の口元は緩んでいる。大槻さんにくっつかれて心の中のリトル伸二はガッツポーズをしているに違いない。まぁ無理もない。大槻さんの双丘は楓さん以上だからな。二人のおかげで道行く男子生徒から怨念の視線を向けられる量は倍になったが。舌打ちも聞こえてくる。
『
『見ろよ、日暮の顔を。大槻さんに密着されてデレデレしていやがる。
『吉住だって澄ました顔をしているつもりだが、
登校中に地団駄を踏むな、お前達。あと明和台の三大美少女ってなんだよ。初耳なんだが。というか三大ってことはもう一人いるのか?
「そんなことより楓ちゃん! 再来週の期末試験の準備は進んでる?」
外野の声など一切気にすることなく大槻さんが尋ねた。
「はい。今年最後の試験なので範囲は少し広いですが、順調ですよ」
「さすが学年一位。言うことが違うぜ……あ、いいこと思いついたよ!」
大槻さんの頭の上にピコーンと効果音付きで頭に電球が
「ねぇねぇ、もしよければなんだけどさ、みんなで勉強会するっていうのはどうかな!? 楓ちゃんに教えてもらえたら私の成績もきっと上がると思うんだよね!」
勉強会か。確かにこの一年間、不動の一位に君臨している楓さんに勉強を教えてもらえれば百人力、成績アップ間違いなしだ。それは現在進行形で専属家庭教師をしてもらっている俺が保証しよう。
「いいですね、勉強会。すごく楽しそうです! それなら私達の家でやりませんか? 家の方が静かなので集中できると思いますし、合間の息抜きもできますよ?」
ちょっと楓さん!? そこはファミレスとかフードコートとか、もしくは放課後の教室とかでやったほうがいいと思うんですけど!?
「やっほー! 楓ちゃんのお
「いや、
この場にはいない明和台の王子様───ただし女子───こと二階堂哀。バスケ部の一年生エースで言動や立ち振る舞いが男よりイケメンなことから付いたあだ名が王子様。楓さんに次いで学年二位の座に君臨している秀才でもある。
「ヨッシー、それは誘ってみないことにはわからないよ? いつも一緒にいるメンバーなんだし仲間外れはよくないと思うなぁ」
「まぁそれはそうだけど……わかった。あとで聞いてみる」
楓さんがわずかに眉根を寄せているのが気になるが、まぁ二階堂のことだから誘ったところできっと断るだろうよ。
*****
「今週末に勉強会を一葉さんの家でやるの? いいね、それ。私も参加するよ」
「…………マジ?」
楓さん達と別れて教室に着いた時にはすでに二階堂は本を読んでいた。挨拶を交わして二言三言雑談してから勉強会のことを話したら予想に反して食いついてきた。
「なんだよ、吉住。私が参加したらダメなの? 一年間隣の席の友人を仲間外れにするなんてひどいな、キミは」
不満そうにプイっとわずかに頰を膨らませながら二階堂は言った。ダメというわけではない。どちらかと言えば驚いたというのが正直な感想だ。
「ダメってわけじゃないんだ。てっきりいつもみたいに断るものとばかり思っていたから少し驚いただけだよ」
「楽しそうじゃないか、みんなで勉強会するの。一度やってみたかったんだよね、そういうの。それに一葉さんの家がどんな豪邸か興味もあるし」
楓さんの家は俺の家でもあるが、実は二人きりで住んでいることは二階堂含めて誰も知らない。みんなには俺は〝借金を残して海外に逃げたクソッタレな父さんの旧友の楓さんのお母さんの恩情で一葉家に
「何なら私も吉住の勉強を見てあげようか? 学年一位の一葉さんと二位の私が教えれば毎回真ん中あたりをふらふらしている吉住でもいいところまで行けるんじゃない?」
丁重にお断りさせていただきます、と言いたいところではあるが二階堂にも教えてもらうことが出来れば俺の成績はうなぎのぼり間違いなし。上昇街道まっしぐらだ!
「フフッ。それじゃ覚悟しておいてね? 一葉さんがどうかはわからないけど、私は厳しくするからね?」
「……そこは優しくお願いできませんかね?」
「そうだね……優しくお願いします、哀先生って言ってくれたら考えないこともないかな?」
「優しくお願いします、哀先生!」
若干食い気味に俺は言って頭を下げた。俺は褒められて伸びるタイプなので
「あ、あぁ……うん、わかった。それじゃ優しく教えてあげようかな」
二階堂にしては歯切れ悪く応えてから、話はこれで終わりとばかりに読書を再開した。心なしか頰に朱が差しているように見えるのは気のせいだろうか。何やらぶつくさ
「名前で呼ばれた……吉住に名前で……」
結局、本を開いているだけで二階堂の読書が進むことはなく朝礼のチャイムが鳴った。
かくして、週末の勉強会のメンバーが決定した。