こちらの試し読みには、
前作『グランドール王国再生録 破滅の悪役王女ですが救国エンドをお望みです』
1巻の内容が一部含まれます。ご了承ください。
「みんな、聞いてくれ! 『グランドール恋革命』続編の制作が決まったぞ!」
若い男の歓喜に満ちた叫びがオフィスに響く。
よく知った声でありながら、今となってはなつかしい、かつての自分自身の声。そのセリフが脳裏によみがえった瞬間、ラルスは「ああ、これは前世の夢だな」と自覚した。
あの時の気持ちは、今でもよく覚えている。何しろ、初めて企画からシナリオまで手がけた乙女ゲームがヒットしたのだ。言葉にならないくらい嬉しかった。
しかし、そんな歓喜の思い出はすぐ別の記憶に塗り替えられた。
あれは続編の展開について仲間たちと語り合い、最高の気分で会社を出た晩のこと。居眠り運転だったのか、突然歩道につっこんできたトラックにはねられた。
そのあとのことはラルス自身もよく覚えていない。血で真っ赤に染まった全身が近くのショーウィンドウに映って見え……「この画像、何かのスチルに使えるな」と痛みの中で考えたのが本当の最期だったか。
次に気づいた時、ラルスは「グランドール恋革命」の攻略キャラに生まれ変わっていた。
そう、自分が愛情を込めて創ったゲームの世界に転生したのだ。そして……。
「囚人番号二四六〇一、起きてるか? 来客だ」
看守の野太い声で、ラルスはハッと目を覚ました。
視界に飛び込んできたのは、ショーウィンドウに映る血まみれの姿ではない。硬いベッドの周りは、ごつい鉄格子のはめられた扉と冷たい石の壁で囲まれている。
ここは監獄だ。見た目も設定も、前世の自分が決めた通りに再現されている。ただしゲームがシナリオ通りに進んでいれば、今ここに入っているのは別の人間だったはずだ。
(ヴィオレッタ……彼女はなんの権利があって、俺の世界をめちゃくちゃにしたんだ?)
シナリオ通りにいかなかった過去を思い出し、ラルスは奥歯をギリッと噛みしめた。その耳に、コツコツと規則正しい足音が近づいてくるのが聞こえた。ああ、まただ。
ラルスはベッドから起き上がり、背筋を正した。やがて鉄格子を隔てた先に、一人の男が現れた。漆黒の髪を後ろで一つに結び、銀縁の細い眼鏡をかけている。その整った顔には作り物のような笑みが貼りついていた。それもまた、前世の自分が考えた通りに。
「連日このような場所までご足労いただき恐縮です、スヴェン先生」
「いいえ、これが私の仕事ですので、お気になさらず。それより、あなたがこの監獄に入ってからもうすぐ一ヶ月が経ちます。そろそろ真相を話す気になってくださいましたか?」
このやりとりも何度繰り返したことだろう。スヴェンが笑顔の下に若干の苛立ちを隠しながら聞いてくる。ラルスはこみ上げてきたため息を吞み込み、肩をすくめた。
「何度ご足労いただいても、俺から言えることは一つだけです。ことの真相はヴィオレッタ様にお尋ねください。彼女がすべてをご存知です」
スヴェンの笑顔がわずかに曇って見える。しかし、ラルスとしては他に言えることがない。自分が国王の暗殺に手を染めたのも、今こうして投獄されているのも、すべてヴィオレッタがゲーム一周目のラストをめちゃくちゃにしたせいなのだから。
ラルスとしては、ヴィオレッタが破滅を回避したあげく、ヒロインのアナリーを差し置いて攻略キャラの誰かとくっつく未来なんて許せるはずがない。それは作品に対する冒涜だ。なんとしても阻止しなければならない。そのためにも……。
(俺はゲーム二周目にかける)
大丈夫、あきらめるにはまだ早い。
この世界には、ゲーム制作者の自分しか知らない真実がまだ隠されているのだから。それこそゲームの二周目以降で明かされる、とびきりの真実が……。
ラルスは監獄での尋問中だということも忘れ、口の端を笑みの形につり上げた。その姿を目にしたスヴェンの笑顔がめずらしく引きつって見えたのは、きっと気のせいではなかった。