〇第一章 救助隊員の仕事 8
翌日──事件があった。
「起きたら俺のベッドで勇者が寝ていた件について!?」
ベッドの中で俺を枕のように抱きしめる勇者がいた。
一体、昨日、何があったのか。
「ぇ……ああ、おはよ……レスク」
「っ!?」
少しドキッとしてしまった。
そのまま、俺をぎゅっと抱きしめてくる。
「う〜ん……レスク、あったかい……」
「いやいやいや、お前、寝惚けてるんじゃない! お、起きろ!」
「もうちょっと、このまま〜……」
勇者の身体は柔らかく温かい。
その、なんというか、すごく女の子らしかった。
(……こ、これは、まずい! 非常に──」
なんとかしなければ──と、思った時だった。
──コンコンと、ノックが鳴った。
「レスク、起きてる? 入るわよ」
「っ!? カレン、待っ──」
俺の声は、願いは届かず、扉が開かれた。
「……ぁ……──っ!」
見られた。
いや、やましいことがあるわけじゃないんだが──。
「これはどういうことよ! なんで勇者ティリィがいるの! 説明しなさいよね!」
「い、いや、説明も何も!?」
「レスク〜……もっと、ぎゅって……」
「むぅっ、れ〜すぅ〜くぅ! あ、あたしにだって、そんな、ぎゅっ! なんてしたことないくせに!」
「さ、されたいのか!?」
「さ、され!? ……さ、された……され、されえっ……!」
カレンがバグった。
「レスク〜……もっと、いっぱいして……」
「れ、レスク! あんた、やっぱり──!」
勇者に強く抱きしめられる俺を見て、カレンが涙目になりながら真っ赤になっていた。
早朝からとんでもない騒ぎになっていて、俺の部屋の前に人が集まっていく。
「あなたたち……何をしてるのかしら?」
結果──俺たちは徹夜明けで帰って来たユリフィ副隊長に説教をくらったのだった。
※
早朝の騒ぎのあと。
俺はアーマの入院する医療機関に顔を出した。
「……あんたは?」
「レスクさん!?」
病室に入ると、ベッドに横になるアーマと、それに寄り添うオルフィナの姿が見えた。
大丈夫と聞いていたが、二人の無事をこの目で確認すると、
「治療が無事に終わったと聞いて安心しました」
「レスクさんも無事でよかったです! あ、あの……一緒にいた女性隊員のかたは……?」
オルフィナは、カレンがここにいないことが気になったようだ。
「昨日の今日ですが、ちょっとした仕事をこなしてます」
実は俺もこの見舞いが終わり次第、その助っ人に向かうことになっている。
それは『虚偽の
内容は隊員全身の夕食の準備だ。
罰という名目にしているが、今日は休めという隊長の気遣いでもあるのだろう。
「そうでしたか。良かった……本当になんとお礼を言っていいのか……」
「お礼なんていいですよ。アーマさんが一日でも早く完治することを願ってます」
「……」
アーマが口を開くことはなく、俺から顔を背けた。
彼らが過去に受けた仕打ちを考えれば、
恨みや憎しみの感情、その禍根は簡単に消えることなんてない。
だから、二人が助かってくれただけで、俺には十分だった。
「……二人の無事も確認できましたから、もう行きますね」
「レスクさん、本当に……ありがとうございます」
深く頭を下げながら、オルフィナが心からの感謝を口にした。
俺も軽く会釈をして、その場を離れようとした。
その時だった。
「……ダンジョンで口にした言葉──全てじゃないが、訂正する」
思い掛けない言葉に俺は足を止める。
「あんたたちみたいに、命を懸けて俺たちを救ってくれる
予想もしなかったアーマからの感謝。
決して誰かから感謝されたくて、この仕事に就いたわけじゃない。
だけど──それでもやっぱり、嬉しかった。
自分たちの行動は間違っていなかったと信じることができた。
だからこれからも俺は──。
「もし何かあればいつでも頼ってください。助けての声を、俺たちは聞き逃したりはしませんから」
オルティナとアーマから微笑を向けられ、任務をやり遂げられた実感が胸に湧く。
これにて無事に
そして今日も
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試し読みは以上です。
続きは2020年9月25日(金)発売
『勇者の棺桶、誰が運ぶの? ポンコツ娘は救われ待ち』
でお楽しみください!
※本ページ内の文章は制作中のものです。実際の商品と一部異なる場合があります。
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