第一章 カトウ、異世界転移する 6
「だ、誰ですか貴方!」
「アンタこそ誰よ!? というかぐるじい! なによこの恰好!?」
朝食を作り終えると、タイミング良く二人が起きたようだった。
まさに阿鼻叫喚である。
カトウは朝食が載ったトレイを運びながら、二人のいる寝室へと入った。
「さ、二人とも、朝食だぞ」
「「この状況で!?」」
息ぴったりな二人を無視し、カトウは朝食をテーブルに並べていく。
納得がいかない表情の二人ではあるが、カトウが持ってきた朝食の匂いに釣られ、ユミナたちは渋々といったようすでテーブルへと座った。
「わあ、美味しそうですね!」
「…………」
今日の朝食はシチューとパン。
食欲をそそる、良い匂いが漂ってくる。
見た事もない料理だろうに、ユミナはなんの躊躇もなくそれを口にした。
「美味しい! 美味しいです! 私のハンバーグよりも美味しいですよ! ノブユキ様!」
ユミナの言動、そして表情を見て、これは食べられるものだと判断したのか、今度はエルフが恐る恐るシチューを口にする。
「……うちのシェフより美味しいわね」
どうやら二人は、カトウが作ったシチューとパンを気に入ってくれたようだ。
まあ、それは当然なのかもしれない。
なぜならこれは、お湯を沸かし、その中にレトルトパックを入れて待つだけで完成するという最強のレトルトシチューと、食パン専門店のもっちりふっくらが売りの最強の食パンなのだ。
美味しくないわけがない。
……それとユミナ、お前は後で説教な。
「いやいや、俺なんてまだまだだよ」
しかしここは、ハーレム主人公として謙遜しなければならない。
彼女たちがカトウを褒めやすくさせる為の工夫も、ハーレム主人公として大事なのである。
謙虚こそが、人を褒めやすくするのだ。
「はぁ……美味しかったです。お腹いっぱいになりました」
「そうね。まあまあ美味しかったわ」
二人が完食するのを見届け、カトウは二人の食器を片付ける。
そして寝室に戻ってくると、またユミナたちが言い合いを始めていた。
カトウはそれを止める為、エルフに事の顛末について説明を始めた。
◇
「……つまり、私はアンタの魔法によって、強制的にここへ転移させられたってわけね? そしてその力を、アンタ自身は制御する事が出来ない。この服装も、その副作用って事でいいのかしら?」
「まあ、そんなところだ」
エルフに大体の事情を説明すると、彼女は動揺しつつもその事実を受け入れた。
その服装に関しては、カトウが着せたものなので全然意味が異なるのだが、まあ、面倒なのでそういう事にしておく。
「……大体の事情は分かったわ。本来ならこの時点で、アンタたちには然るべき処分を受けてもらうわけなんだけど……まあ私も、習い事ばかりで退屈していた所だし、外の世界を知れたって事で、今回は大目に見てあげる」
エルフは自らの髪を「ふぁさあ」とさせながら、そう言ってのけた。
それに対し、ユミナがムッとした表情をする。
「……何だか、偉そうですね」
「当たり前じゃない。だって私、偉いもの。皇女だし」
「こ、皇女!?」
エルフの皇女発言にユミナが怯む。
しかし、凄んでいるところ悪いのだが、エルフのその恰好はどこからどう見ても皇女ではない。
ただの変態だった。
「こ、皇女って、何か証拠でもあるんですか!? ないならただの変態ですよ!」
「なっ!?」
エルフはさっきまでのすました顔とは一転、顔を真っ赤にさせて、自らの胸を両手で抱き寄せた。
うむ。やはり羞恥心があってこそ、エロというものは引き立つのだろう。
我ながらいい仕事をした。
などとカトウが自画自賛をしていると、エルフが慌ててベッドを漁りだした。
一体何をしているのかと後ろから覗いてみると、エルフは緑色の絹らしきものを右手に持ち、それをカトウたちに見せてきた。
それは、エルフと一緒に転移してきた、彼女の私物のようだった。
「ほ、ほら! これを見なさいよ! これはエルフの国にしかない上物のシルクよ! これで私が皇女だって事は分かったでしょ! 謝りなさいよ!」
「別にそんなの、皇女じゃなくたって持ってますよ」
「確かに」
「ッ!? えっと、他には……他には――あ! じゃあこれはどう! これは皇族にしか付ける事を許されていない、大地の指輪よ! 流石にこれなら文句ないでしょ!」
次にエルフは、茶色い指輪を見せてきた。
しかしそれはお世辞にも、皇族の証に見えるような、そんな代物には見えなかった。
「……何だかばっちいですね」
「ば、ばっちいッ!? 地の精霊王に賜った、この指輪がばっちい!? …………わ、分かったわ! なら今度こそ、今度こそ私が皇女という確かな証拠を見せてあげようじゃない! この皇女たる! リーファ・メルティアナの究極魔法をね!」
エルフ――リーファはそう言って立ち上がると、カトウたちを連れて外へと向かった。