三章 『二振りの巨剣』その3

 中庭に戻ってきた俺は、再びその中心に立つ。手には、光を反射し鈍い光を放つ二振りの長剣。アホみたいに重いはずの剣だが、全く苦にならない。むしろ異様に手に馴染むくらいだ。

「どーれ、じゃあやってみるか」

 剣の柄を人差し指と中指で挟み、ペン回しの要領でクルクルと回しながら俺はその場で二、三回軽くジャンプをして身体の重心を調整する。

「……なぁ、お嬢ちゃんよ。ドラゴンよりもアイツの方がよっぽど化け物じゃねえのか?」

「そ、そんな事無いですよ! ムサシさんはその……色々と規格外ですけど、根は優しい人なんです! 規格外ですけど!」

 ねぇ何で二回言ったの? 大事な事だから? 大事な事だから二回言ったの? まぁいいけどさ……今から更に規格外な事するけど驚くなよ。

「よし……フッ!」

 息を吐くと同時に、虚空に剣を奔らせる。さっきのように最初から全力で振り下ろすのではなく、横薙ぎ・斬り上げ・袈裟斬りといった感じに次々と剣を振るう。

 その太刀筋はお世辞にも美しい物とは言えないだろう。今の俺の剣技は、自分の本能に従った我流。

 型もクソも無いので、ただひたすら力任せに、己の最速を以って剣を振るう。一応、二刀流の利点である手数を生かせるように左右交互に振るように意識はしているが。

「おいおい……アイツはドラゴンをみじん切りにでもするつもりか?」

「剣が見えない……」

 ある程度振るったところで俺は柄の根元を親指と人差し指で握り、大きく振りかぶった。

「――破ッッ!」

 一瞬の脱力。その後全身に力を入れ、両手剣の時のように全力を以って振り下ろす。踏み込んだ右足が地面を砕き、剣が風を切る音が響いた。

「……うん、いいね。最高だ」

 俺の手元には、持ち出した時と寸分たがわぬ姿の双剣。折れる事も、曲がる事も無く見事に俺の力に応えてくれた。

「ゴードンさん! これ買います!」

「お、おう……もうなんか、いいよ。無料であげるわソレ。もともといつかは処分しようと思ってた物だし、どの道お前しか使えん」

「マジすか!? あざっす!」

 やったぜ、まさかタダでこんな素晴らしい武器が手に入るとは……俺のスレイヤー人生、中々幸先がいいかもしれねえな。

「しかし、何から何まですみませんね……あの、やっぱり代金は支払いますよ。ここまでして貰って無料で譲り受けるのは流石に心が痛むというか……」

「ああ? 気にするな……と言いたいところだが、それじゃお前さんは納得しなそうだな。うむ……それなら、一つ頼み事がある」

「頼み事、ですか」

「うむ。お前さんはスレイヤーだ。これからドラゴンと腐るほど戦うだろう? だったら、偶にでいいから店に来て戦った時の剣の使用感や戦いの中で気付いた事があればワシに教えてくれ」

「……うーん、それが代金の代わりでいいんですか?」

「ああ。ワシにとって鍛冶とは生き甲斐であり、人生だ。お前さんがもたらした情報の中に、ワシ自身の鍛冶能力を向上させるキッカケがあるかもしれん。それは、どんな金銀財宝よりも価値がある」

「なるほど、そういう事であればいくらでも話を持ってきますよ」

「それとだ、その剣に名前を付けてやれ。初めて手にした剣、名無しでは可哀想だ」

 そう言い残してゴードンさんは倉庫のある方へと消えていく。名前、名前ねぇ……。

「……俺の名前は武蔵で、振るう剣は二本」

 だったら、名前なんて決まってる。いるよな? 日本人なら誰でも知ってる大剣豪が。

「――金重」

 かつて、天下無双と謳われた二天一流の開祖・宮本武蔵が使用したと言われる名刀。

 俺がその名を与えた瞬間、微かにその刃が鈍く光った気がした。

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