異世界拷問姫 綾里けいし
『酔っ払いヒナと愉快な大騒ぎ』
玉座の間の壁には、巨大な穴が開いたままになっている。ゴーレムを使用し、塞ぐことは可能なはずだが、億劫なのか、エリザベートはそのままにしていた。雨が降り込む度、櫂人は掃除に追われ、うんざりしている。だが、月が見える日にはいいこともあった。
今宵、ワインに月を映しながら、エリザベートとヒナ、櫂人は酒盛りをしている。
ヒナが手早く用意した簡単な冷菜の中心には、エリザベートが酒蔵から出してきたボトルが置かれていた。それを実に適当に注いでは、エリザベートは満足げな顔で傾けている。
「そう言えば、ヒナって酔うのか?」
ふと気になり、櫂人は三杯目のグラスを空けながら尋ねた。ヒナは銀髪を揺らして頷く。
「本来、私の体には毒物は一切の効果を及ぼしません。口にした食物、飲料水も消化ではなく、ただ分解されます。ですが、主の希望とあらば酔うことは可能ですよ? それぞれ、人形ごとに個体差もあるとのことですので、お楽しみ頂けるかもしれません」
「ほー、そんな機能もついておるのか。試しだ、ヒナ。酔ってみよ」
「はい、承知しました。では、ヒナ、脱っぎま―――――――すっ!」
「なんでぇっ!」
櫂人は思わず叫んだ。ちょっと頼むからそれは止めてと、彼はメイド服を脱ぎかけたヒナを止める。すると、彼女は腕を下ろし、頬を赤く染め、全力で櫂人に抱き着いてきた。
「ドーンッ! カイト様ぁ! 捕まえましたぁっ! ふふふふふふ、逃がしませんよぉ」
「駄目だ、コイツあれだ、凄く駄目な酔い方だ、助けろエリザベエエエエエエトッ!」
「はっ、耐えよ、耐えよ。これもこ奴を恋人に設定したお前の責任というものだ」
「カイトしゃまぁ、カイトしゃまぁ、カイトしゃまはかわいいれしゅねぇ」
「ちょおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「あっ、思ったより駄目な奴だなこれ」
ヒナは櫂人を胸で窒息させながら後頭部に頬ずりをしまくっている。これ、ヒナ流石に死ぬから止めてやれと、エリザベートは彼女を引っ剥がした。だが、次の瞬間、エリザベートの顔は豊かな胸に埋まっていた。へっ? となったエリザベートにヒナは笑顔で言う。
「えりざべーとしゃまもいいこれしゅねえええええええええええ!」
「にゃあああああああああああああああっ!」
「えっ、何この状況。ちょっ、ヒナやめえっ!」
「かいとしゃまあああああああっ! しゅきいいいいいいいいいいいいいいっ!」
「うわあああああああああああああああっ!」
三人の声が交互に響く。こうして酔っ払いの宴は、ヒナが華麗に酔い潰れるまで続いた。
初出:『異世界拷問姫①』アニメイト様特典