勿論、慰謝料請求いたします!/soy

※こちらはビーズログ文庫「勿論、慰謝料請求いたします!」の書き下ろしショートストーリーです。


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タイトル『たまには静かに読書でも』



私、ユリアス・ノッガーにも、土砂降りの雨の上、外に出る用事のない日が訪れたりする。

 そんな日は新商品の開発や書類の整理をすることが多いのだが、この日に限って新商品の目処めどが立ち、さらに書類整理も直ぐに終わり一日暇になってしまった。

「たまには、ゆっくり読書でもいかがですか?」

 そう言いながら、私にお茶を淹れてくれたのはメイド長だった。

「そういえば、最近読書していなかったわね」

「では、ちまたで流行っている本を数冊お持ちいたしましょうか?」

 メイド長にお礼を言い、流行りの本を持ってきてもらうことになった。

 流行りを知ることは、商品開発のきっかけ作りにもなるので得しかないだろう。

「ノッガー家の出版物は抜いてございます」

 私は優雅にお茶を飲みながら、数冊積まれた本の一番上から順に読むことにした。


 しばらく本に夢中になっていると、メイド長が殿下でんかを連れてやってきた。

 私の婚約者である殿下は部屋に入ると、柔らかな笑顔を向けた。

「時間ができたから、顔を見にきた」

 たまにこうして甘い空気を出すのはドキドキするからやめてほしい。

 メイド長は手早く殿下にお茶を出すと部屋から出て行った。

 扉から目を外し殿下を見ると、私が今まで読んでいた本に手を伸ばした。

「……俺に不満があるなら、口で言ってくれ」

 殿下が手にした本には『浮気男を呪術じゆじゆつで理想の男に変える方法』という題名が見える。

「殿下は浮気するご予定がおありで?」

「あるわけないだろ」

「では、関係ないかと」

 私の言葉を聞きながら、殿下が二冊目の本を手に取った。

 そこには『呪術で操る恋人の心』と書かれているし、その本の下には『呪術のススメ』と題名が大きく書かれていた。

「……呪術はやめろ」

「……勿論もちろんですわ」

「今の間はなんだ」

 殿下に疑われたのは心外だが、呪術で客足が増えるなら興味はある。

「私が使うことはないと思いますわ」

 安心させるためにそう言えば、殿下は口元に笑みを浮かべた。

「君なら客を呼び込む術を知るために読んでいるのではないかと邪推じやすいしてしまった」

「人の心を読むのはやめてください」

 私の言葉にじっとりとした視線を向けた殿下に、その場にあった本をすべて没収されたのは解せない話なのだった。

 

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