告白予行練習 HoneyWorks・香坂茉里


『文化祭前の二人』



 文化祭の前日は授業も午前中で終わり、午後からはそれぞれクラス企画や模擬店もぎてんの準備をすることになっていた。

 いつもは仕事があるため、放課後に残って手伝うことができなかった勇次郎ゆうじろう愛蔵あいぞうも、この日はジャージに着替えて作業に加わる。

 中庭のすみで作っているのは『ホラー・ハウス』の大道具だ。二人のほかにも、数人のクラスメイトが作業をしている。

 教室では、女子たちが衣装いしょう作りを行っているだろう。

 二人が着る吸血鬼きゅうけつきの衣装を作ると随分ずいぶんと張り切っていた。

 それはいいのだが――。

 メジャーを手に追いかけてきた女子たちの鬼気迫ききせま形相ぎょうそうを思い出し、勇次郎は疲れたようにため息をく。

 ようやく彼女たちを振り切って、この中庭までげてきた。

 今、作っているのは、『ホラー・ハウス』の壁だ。

 となりを見れば、愛蔵がいつになく真面目まじめな顔つきで、レンガの一つ一つを慎重しんちょう刷毛はけっている。

 三十分ほどたつが、一言もしゃべらない。

 少し離れたところでは、クラスの男子たちがワイワイ言いながら段ボールを組み立てている。どうやら、それは『棺桶かんおけ』らしい。


(………………眠い…………)


 天気がよく、十一月にしてはあたたかいから、あくびがもれそうになる。

 いつもなら教室の机にして寝ている時間だが、クラスの一員なのだからサボるわけにもいかない。

 赤いペンキの缶をとり、その中にベチャッと片手を突っ込んだ。

 愛蔵が丁寧ていねいに塗っているレンガの上にベタンッと手を押しつけると、赤い手形がつき、ツーッとペンキがれる。それがいかにも『血の手形』っぽく見えた。

 少し面白おもしろくて、またベタッと手形をつける。

 り返していると、愛蔵がとうとう我慢がまんできなくなったのか、かたをふるわせた。


「おいっ!」

「なに?」


 ふりむくと、愛蔵がキッとするどにらんでくる。


「なんで、人が綺麗きれいに塗ってるところにベタベタ、ベタベタ、手形をつけるんだよ!」

「だって恐怖きょうふやかたでしょ?」

「そーだけど! 他のところにつけろよ」

「そっちこそ、他のところ塗れば?」


 愛蔵が「はぁ!?」と、まゆをつり上げる。


「俺は最初からここを塗るって決めてたんだよ! そっちがどっかいけ!」

「やだ」


 プイッとそっぽをむいてから、愛蔵が塗りかけていたレンガの上に、容赦ようしゃなくベタンッと手形を押しつける。「ああっ!」っと、愛蔵がイラついたような声を上げた。


 刷毛をにぎった手をプルプルとふるわせている相方を見て、勇次郎はニヤッと笑う。


「あーそうかよ……そういうことすんなら……こっちだって!」

 愛蔵は煉瓦色れんがいろのペンキを付け足すと、刷毛で手形を塗りつぶそうとする。


「は!? なにしてくれてんの?」

「先にやったのは、そっちだろ~」


 仕返しだとばかりに他の手形も塗りつぶそうとする愛蔵に、勇次郎はややかな視線を向けた。

 赤いペンキの缶を引き寄せ、ベチャッと両手をつけてからベタベタと手形を押す。


「あっ、なにやってんだ! やめろ、バカ!」


 あわてたように、愛蔵がジャージのそでを引っ張ってくる。


「それだれに言ってんの? 聞き捨てならないんだけど」

「一人しかいねーだろ!」 

「あっ、よろめいた」


 わざとらしく言いながら、ドンッと愛蔵のかたに自分の肩をぶつける。

 中腰ちゅうごしだった愛蔵がぐらついて、「おわっ!」と声をあげながら地面に片手をついた。


「お前さぁ……ほんっと、いい性格してるよな……」

「そっちほどじゃないけど?」


 おたがにらみ合ったまま、白々しらじらしく笑い合う。

 この相方との日常は、まあまあこんなものだ。

 これでも仕事の時は一応、息がピッタリと合ったコンビということになっている。

 スタッフや、仕事関係の人に『仲いいなぁ』とよく言われることを思い出して、勇次郎は『どこが?』と心の中でつぶやいた。

 ユニットを結成して一年以上つが、生憎あいにくとまったく気が合わない。

 顔を合わせればケンカばかり。これでも、お互いよくもっているほうだろう。



「もぉぉぉ――――勘弁かんぺんならね――――っ!!」


 勢いよく刷毛を地面にたたきつけた愛蔵が、両手でジャージにつかみかかってくる。


「そっちこそ、邪魔じゃま!! 目障めざわり!!」


 思いっきり手で顔を押しのけると、愛蔵が「うあっ!」と声をあげた。


「今、ペンキ、顔につけただろ!!」


 見れば、愛蔵のあごからほおにかけて、赤い手形がベッタリとついている。

 勇次郎は思わず、「プッ」とふき出して笑った。


「今日の収録しゅうろく、そのまんま出なよ~~。注目集めるから!」

「そっちにもつけてやる!! 顔出せ!」


 ペンキの缶に手を突っ込んだ愛蔵が、その手を押しつけようとする。

 勇次郎は「絶対やだし!」と、抵抗ていこうしながら足でっ飛ばした。

 離れたところにいた男子たちが、「なにやってんだー」と笑っている。

 


「「ふざけんな――――っ!!」」


 取っ組み合いをしていると、「わぁぁ!」とあわてふためいた女子の声が耳に入る。


「またケンカ~~~っ!!」


 血相けっそうを変えてけ寄ってくるのは、ペンキを二缶かかえた同じクラスの涼海すずみひよりだ。

 振り向いた二人の顔が、「え?」とこわばった。

 イヤな予感がしていると、あんじょう――。 

 木材につまずいた彼女が、「うきゃ――っ!」と声をあげながらペンキの缶を放り投げた。

 危ないっと二人とも反射的はんしゃてきに足が一歩前に出る。

 その瞬間しゅんかん、ガボッと缶が頭に落ちてきた。

 


 地面に倒れたひよりが、「いたたた……っ!」と顔をしかめて起き上がってくる。

 それぞれ赤と緑のペンキをかぶった二人は、ぼう然として顔を見合わせた。

 頭からポタポタと色のついたしずくが垂れてくる。

 缶がゆっくりとすべり落ちてきて、足もとにガランッと転がった。


「あ、あ、あの…………えーと…………」


 顔を強ばらせたひよりが、おどおどしながら口を開いた。


「うちの…………せい……かな?」

「「涼海さーん」」


 二人が呼ぶと、ひよりは青くなってギクシャクした動きでクルッと後ろを向く。

 彼女は二人の事務所でマネージャー見習いの秘密のアルバイトをしているが、学校内ではただのクラスメイトということになっている。

 普段ふだんはできるだけ関わらないようにしているのだが――。


「う、うち……タオルをとってきます…………」


 逃げようとするひよりの肩をつかむと、勇次郎と愛蔵はニッコリとみを作った。


「「ちょーっと、話があるんだけど??」」

 

***


 学校を終えて事務所にやってきた二人を見た途端とたん、マネージャーが「ヒ――ッ!」と悲鳴をあげて、手に持っていたコーヒーのタンブラーを落とした。事務室から出てきたスタッフの女性もあんぐりと口を開けている。


「あ、あ、あ、あんたたち――――っ、な、なんで急に……そんな…………トマトとピーマンみたいな髪になってんの――っ!!」


 そう絶叫ぜっきょうされて、勇次郎と愛蔵はしかめっつらのままお互いを見る。

 顔のペンキと手のペンキはなんとか落とせたものの、髪はすっかりまってしまっていた。


「だいたい、あんたたちのイメージカラーと違うじゃないの! 今日はテレビの収録があるってのに、どうすんの、そのピザトーストみたいな髪!!!」


両手を腰にあてたマネージャーが、鬼の形相ぎょうそうになる。


「すみません……」

「ごめんなさい……」


 二人ともしゅんっとして、口ごもりながら謝った。

 それから、ドアが少しだけ開いている休憩きゅうけい室のほうをキッと睨みつける。

 のぞいていたひよりが、「ひえっ!」と声をもらして転がるように廊下に飛び出してきた。


「う、うち…………青と黄色のペンキ、買ってきま――――す!!」


 そう言いながら、彼女はあたふたとエレベーターのほうに走っていく。


「「そうじゃないだろ――っ!!」」


 二人は思わず、そう声をそろえた。


  

 面倒な相手が一人から、二人になって早数ヶ月。

 騒々そうぞうしい日常にも、そろそろ慣れつつあった――。



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HoneyWorksプロデュース

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角川ビーンズ文庫

『告白予行練習 ノンファンタジー』

原案:HoneyWorks

著者:香坂こうさか茉里まり イラスト:ヤマコ、島陰しまかげ涙亜るいあ

監修:バーチャルジャニーズプロジェクト


【あらすじ】

田舎から上京したばかりの高校1年生、涼海ひより。

たまたま同じクラスになった愛蔵と勇次郎が、実は大人気アイドルであることを知り……?

LIP×LIPの大人気楽曲「ノンファンタジー」がついに待望の小説化!



角川ビーンズ文庫

『告白予行練習 ヒロイン育成計画』

原案:HoneyWorks

著者:香坂こうさか茉里まり イラスト:ヤマコ、島陰しまかげ涙亜るいあ

監修:バーチャルジャニーズプロジェクト


【あらすじ】

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