告白予行練習 HoneyWorks・香坂茉里
『ローストビーフの行方』
その日、
「あのマネージャー、仕事多すぎだろ……」
そうぼやきながら、フラフラとリビングに向かう。
電気を
それを拾い上げるようにして
「こっちは学校だってあるってのに」
今日のダンスレッスンが遅くなったのは、自分たちにも多少の責任がある。
振り付けをめぐって
人の話を少しも聞かない
「たまには人の意見も聞けよな……あいつは~!」
「これはお前のじゃないって」
そう言い聞かせても、期待いっぱいの
仕方なくお皿を持ってきてドライフードを入れてやると、待ちきれないように横から食べ始めた。
「さてと……やるか」
愛蔵は
帰宅途中、急に『肉、食べたい……』という気になって、二十四時間営業のスーパーに飛び込んで買ってきたものだ。
二時間後――。
愛蔵はできあがったローストビーフのできばえに、思わず「よしっ!
「って……なにやってんだ。こんな時間に」
急に
なんだって
足もとをウロウロしていたクロが、ちょこんと座って見上げていた。
時計を見れば、もう二時半だ。
せっかく作ったのはいいけれど、食欲よりも眠気のほうが勝ってあくびがもれる。
「明日の弁当にするか……」
ため息まじりに
「とっ、その前に」
エプロンのポケットにいれていた携帯を出し、ローストビーフの写真を
それを相方に送信した。すぐに
なんの反応も返ってこないから、イラッとしているのだろう。
その顔が簡単に想像できて、ニヤ~ッとする。
ダンスレッスンの時、散々『リズム
ご飯やおかずと一緒に弁当箱に詰めると、「よし、できた」と満足して
「風呂入って寝るか……」
包んだ弁当をテーブルにおき、愛蔵はクロを
***
眠そうな顔のまま二階からおりてきた
「なんだこれ……」
包みをほどいてカパッと蓋を開いてみると、ローストビーフがご飯やおかずと一緒に
「ここにおいてあるってことは、食べてくれってことだよな~?」
そばにやってきたクロを
クロを下ろし、「ラッキ~」と独り言をもらしながら弁当を包みなおした。
それを自分のバッグにつっこむと、少し思案してからクリームパンをかわりに残しておく。
「じゃ、
飼い猫にそう言い聞かせ、
***
「うわっ、まず……!」
リビングに入るとキッチンに行き、冷蔵庫から水のペットボトルを取り出す。
それをグラスにそそいで一気飲みすると、テーブルのほうに移動した。
しかし、そこにおいていたはずの弁当の包みがない。
何度見ても、やっぱりどこにもなかった。
「えっ、なんで……?」
かわりに残されているのは、コンビニで買ってきたらしいクリームパンだけだ。
こんなことをするのは、一人しかいないだろう。
クリームパンをつかんで、「あいつ~~~!!!!」と
リビングを飛び出して
いつもは一限目が始まるギリギリの時間に家を出るくせに、今日に限って早く出たらしい。
(
リビングに急いで戻り、ソファーに投げていたバッグにクリームパンを押し込む。
玄関に出て
「絶対許さねーっ!!!」
仕事が終わってから、フラフラになりながら焼いた
(意地でも、取り戻す!!!)
愛蔵は勢いをつけて坂道を下り、交差点の角を
***
午前中の授業が終わると、クラスの女子たちが「愛蔵君、いっしょにお弁当食べない?」と席にやってきた。
愛蔵は
ココアのパックを手にしていたうしろの席の勇次郎が、「ん?」と眠そうな顔をあげた。
(朝、つかまんなかったし……どこ、フラフラしてんだ!)
それを振り切って、段飛ばしで階段を駆け上がった。
その途中、
「こらーっ、柴崎。廊下は走ってはいけません」
思わず「うわっ!」と声を出して振り向くと、万年白衣姿の
(こうしてる間にも、俺のローストビーフが~~!!)
「先生、ちょっと、今、急いでるんで……っ!」
あせって言うと、明智先生は襟をはなしてくれた。
けれど、まだ解放してくれる気はないらしい。
「そういえば、進路指導の希望用紙、出してないの柴崎と
「それ、今すぐ!?」
「提出期限とっくにすぎてるでしょーが」
明智先生は白衣のポケットに両手を入れながら、「まったく」という顔をする。
「あー、愛蔵君が先生に怒られてるー」
クスクス笑いながら、他のクラスの女子たちが横を通り過ぎていった。
(なんで、俺がこんな時にこんな説教を……)
愛蔵は気まずい顔をしながら、ジリジリと逃げる体勢を作る。
「いや、進路は決まってるんで……というか、俺らもうアイドルなんで!」
「だから、走るなー」
明智先生のあきれている声を無視して、階段を駆け上がっていった。
***
(ったく、どこに……)
廊下を見まわしながら歩いていると、「キャーッ!」という女子の悲鳴が飛んでくる。
二年生の教室のほうにはほとんどこないからだろう。「愛蔵君、どうしたの!?」、「なになに、
(うわ、やばっ!)
思わず顔を
「いや……ちょっと」
さがしていることは、さがしているが、この集団にはききづらい。
「ごめんっ、間違えたみたい……です!」
愛蔵はクルッと身をひるがえして、急ぎ足でその場をはなれる。「かわいい~~!」と、先輩の女子たちが笑っていた。
その声に赤面しながら、階段を駆け下りていく。
(二年の教室ハードル高っ!)
これでは、二年生の教室に近づけもしないだろう。
(って……そーいえば、俺、あいつの教室知らなかった~!)
一階までおりたところで不意に思い出し、
「だいたい、どこで昼食ってんだ!」
思わず顔をあげて言うと、通りすがりの男子生徒が「なんだ!?」というようにこっちを見る。
(中庭か!? 中庭なのか!?)
愛蔵は走りながら、渡り廊下に向かった。
「俺の、ローストビーフ~~~~~!!!!」
***
昼休みになり、同じクラスの
「シバケン、今日弁当?
いつもは、健も購買のパンかコンビニで買った弁当やおにぎりだ。
「朝、起きたら、おいてあったんだよ」
「うわっ、うまそー」
おにぎりを食べようとしていた虎太朗が、横からヒョイッと弁当を
「誰が作ったの? シバケンじゃないよね?」
「誰だか知んねーけど。たまに家ん中に出没する人?」
笑いながら答えると、幸大にジトーッとした目で見られた。
「それ……怒ってると思うけど」
「大丈夫、大丈夫。ちゃんとかわりはおいてきたから」
ヒラヒラと手を振ってから、さっそくパクパク食べる。
(うまっ……)
「あいつ、料理とかできたっけ……?」
首をひねってから、「まあ、いいや」と笑顔でご飯を
***
「どこだ――――っ!!!!」
そう
「柴崎弟じゃない」
声をかけられて、愛蔵はつまずきそうになりながら足を止める。
(うちのクロを連れてた……!!)
家の近所で一度会ったことがある人だ。
どういう関係の人かは知らないし、あまりききたくもないが、兄の『知り合い』であるのは確かだろう。兄と同じ二年の先輩のようだ。
「どうしたの?」
「いや……あの……さがしてんだけど……あの人」
視線をそらしたまま、ボソボソと言ってみる。アイドルをしているけれど、実のところ女子は苦手だ。それにうかつに話をしているところなど見られたら、どんな
いつもなら素通りするところではあるが、今は『
「なんだか知らないけど……大変そうね」
事情を察してくれたのか、その先輩は同情するようにそう言った。
顔を見合わせてから、同時にため息を
「多分、屋上だと思うけど……さがしてみたら?」
「屋上……」
愛蔵はパッと顔をあげる。
学校の屋上は、
(そっちか!!)
「ありがとう、先輩!!」
ニカッと笑って、愛蔵は身をひるがえした。
***
屋上に通じる階段を駆け上がると、愛蔵はバンッと勢いよくドアを開いた。
強く吹いた風が、ブレザーの
「俺の、ローストビーフ!!!!」
そう言いながら飛び出すと、屋上で弁当を食べていた三人が「ん?」と振り返った。
兄の健と、その友人の二人だ。
健が手にしている弁当箱を見れば、もうすでに
「俺の…………俺の~~~~っ!!」
ガクッと、愛蔵は両手と
(遅かった――――っ!!)
幸大が『ほら、やっぱり』というように健を見る。
「ん? シバケンの弟かー?」
虎太朗がおにぎりを
「いや、知んねーけど?」
首をひねりながらしらばっくれる兄に、ブチッとキレる。
「なんで、人の弁当、勝手に持っていって、勝手に全部食ってんだよ!!」
怒りに声を
「返せ――っ、俺の弁当!!」
そう手を突きつけながら言うと、健がわずらわしそうにため息を吐いて立ち上がった。
スタスタとこっちに歩いてくるから、つい体が後ろに逃げそうになる。
「なんだよ……っ!」
けんか
「ごちそうさん」
ポンポンと愛蔵の頭を
(なんだよ、それ……っ!!)
パセリだけが残された弁当箱を手に、愛蔵は
その姿を、兄の友人二人が同情するように見ていた。
***
翌週の土曜日の朝、愛蔵は
「俺、天才かも」
上機嫌でつぶやきながら、包んだ弁当をバッグにしまう。
今日は学校が休みだから、兄はまだ寝ているのだろう。下りてくる気配はない。
(前回と同じ失敗は、
愛蔵はフッと笑って、「今度こそ、俺は……ローストビーフを食う!」と
「じゃ、行ってくる!」
椅子の上に
今日の仕事はレコーディングと打ち合わせ、それに雑誌のインタビューだ。その後はレッスンもあるから、帰るのはいつもと同じ深夜近くだろう。
家を出ると、マネージャーの車がエンジンをかけたまま門の前で待っていた。
***
午前中の仕事が終わって事務所に戻ってくると、つかの間の昼
一階のロビーにおかれている自動販売機で缶コーヒーを買うと、鼻歌まじりにエレベーターにのった。
事務所の入っている階でおりると、「愛蔵君、お疲れー」とスタッフの男性に声をかけられる。
「お疲れさまでーす!」
にこやかに
「午前中のレコーディング、調子よかったのかい?」
「んー、まあ、そんなとこ!」
ニカッと笑って、手を振りながら休憩室に向かう。
(ローストビーフが待ってるし!)
ドアをガチャッと開いて中に入ると、勇次郎が先に昼食をとっているところだった。
「お疲れ~」
一応、そう声をかけると、「お疲れ」と
パイプ椅子を引いて座りかけた愛蔵は、ふと勇次郎が食べている弁当に目をやった。
「…………!!!!????」
思わず二度見したが、それは自分が持ってきたはずの弁当箱だ。
しかも、中身はほとんど残っていない。
勇次郎はモグモグと口を動かしながら、
かわりに、コンビニのおにぎりが二つほどおかれていた。
マネージャー見習いが買ってきたものだろうが、どちらも『梅干し』だ。
(俺が……俺が、机の上においてたのを…………っ!!)
バッグから弁当を取り出して、缶コーヒーを買いにおりていたわずかな間のことだ。
事務所の中だから、前回のようなことにはならないだろうと安心していたのに。
愛蔵は机に両手をついて、ガクッとする。
(こいつもか――――っ!!)
「ピーマン、いらない」
勇次郎はそう
「いらないじゃなねーよっ、せめてピーマンも全部食え!!」
「苦いから、やだ」
勇次郎は顔をしかめてプイッとそっぽを向いた。
「食えーっ!! こうなったら、意地でも食わせる!」
「絶対、やだ。なんでピーマンとか入れんの!?」
「お前のために作ったんじゃねーんだよ。人の弁当勝手に食っといて、ケチつけんな!」
ブチッとキレてつかみかかると、勇次郎も負けじと
「ローストビーフって、こんなにパサパサじゃないし。焼きすぎ!」
「はぁ!? どこがだよ。完璧なローストビーフだろ!」
(もーっ、今日という今日は、絶対許さね――っ!!)
「思い知らせてやるっ!!」
「はぁ!? やってみなよ!!」
つかみ合いのケンカを始めていると、ガチャッとドアが開いた。
「二人とも、お疲れ~~…………っ!?」
マネージャ見習いとして入った
「またケンカしとる~~!」
「「こいつが悪い!!」」
愛蔵と勇次郎はお
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HoneyWorksプロデュース
アイドルユニットLIP×LIPがついに小説化!
角川ビーンズ文庫
『告白予行練習 ノンファンタジー』
原案:HoneyWorks
著者:
監修:バーチャルジャニーズプロジェクト
【あらすじ】
田舎から上京したばかりの高校1年生、涼海ひより。
たまたま同じクラスになった愛蔵と勇次郎が、実は大人気アイドルであることを知り……?
LIP×LIPの大人気楽曲「ノンファンタジー」がついに待望の小説化!
◆
角川ビーンズ文庫
『告白予行練習 ヒロイン育成計画』
原案:HoneyWorks
著者:
監修:バーチャルジャニーズプロジェクト
【あらすじ】
LIP×LIPのマネージャー見習いとして日々頑張っているひより。
慣れない仕事で失敗を重ねながらも、少しずつ2人との絆が深まっていた。
そんなある日、ある運命的な出会いがひよりに変化をもたらして……?
◆
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