プロローグ
「このバカ……瀕死状態で担ぎ込むやつがあるか……っ!」
「こっちは一大事なんだ、状態なんて気にしていられるか」
「~~~ッ! それはわかっているが……! ったく、お前たちはいつもそうだ! 少しはこっちの身にもなってくれ!」
意識が朦朧としている中、クロとギフリッドの会話が、まるで水中にいるかのようにぼんやりと耳に届く。
「クローディア、本当にいいんだな!? 後戻りは出来ないぞ!?」
魔神は……封印できたはずだ。
ウガンの魔術も俺のサポートも上手くいったはずだ。
ウガン、エレナ……ジーク達は無事なのか?
何も思い出せない。思考がまとまらない。
四肢は完全に脳との回路を切断しているようで、ピクリとも動かない。
幸いなことに、恐らく痛みを感じる神経が麻痺でもしているのか、痛みも感じない。
ただ何となく、このままでいれば俺は死ぬ。それだけはわかる。
生まれて二十一年。魔術の才能に恵まれ、最強の魔術師、完全無欠の魔術師とまで言われ、魔神の討伐にまで抜擢された。そして六英雄として世界を背負って戦った。
その結果は…………。
その時、気を失う直前、俺自身に掛けられたであろう言葉が頭に反芻する。
『生きて、ギル――!!』
白い髪を靡かせ、俺を押しのけるか細い腕。
そうだ……エレナ……。
エレナに助けられたんだ……俺だけが。
他の皆は死んでしまった。
俺も、もうすぐか……。
「――準備はいいか、クローディア。いつ目覚めるかもわからんのだぞ。……本当にいいんだな?」
「舐めるんじゃない、人間。私の時間感覚で見ればほんの一瞬さ。それより早く。ギルが死んじまう」
「……成功するかは保証出来ないからな! 確率は1%未満だぞ!」
「それでも、このままだと助かる確率は0%だ。私の血まで使ったんだ、さっさとやれ」
「こっちの気も知らないで……! どうかしてる……。――あぁもうそんな目で見るな、わかったよ、やればいいんだろ! やらなきゃ殺すって眼してるもんな!!」
相変わらず、クロは気が強い。
クロとギフリッド……こいつらが何をしようとしているのかは分からないが、俺はもうただただ二人に身を任せるしかない。
すると、徐々に意識が遠のいていく。
殆ど光しか見えていなかった視界すら、ゆっくりと暗くなっていく。
あぁ、寒い……これが死か。
その時、そっと俺の手に触れる何かを感じる。
暖かい、何かを。
「違うさ、ギル。今はゆっくり休め。――――また後で」
そうして、俺の意識は途絶えた。