第五話 元・《魔王》様VS神の子
その後、俺は胃の痛みを覚えながら移動し……
広々とした運動グラウンドの
遠巻きにクラスメイト達とオリヴィア、イリーナがこちらを見守っている。
「おいおいおいおい」
「死んだわ、アイツ」
「エラルドは国内の歴史上、最年少で《
「下手すりゃあの大魔導士や英雄男爵よりも上なんじゃねーか」
遠方で貴族の子供達がこちらに
「運がねぇよなぁ、七光り。オリヴィア様がやってこなきゃ、決闘せずに済んだってのに」
まるで
まぁ、それも当然だろう。相手は神の子と呼ばれる天才。こちらは
しかし……なぜだろうな。神の子と呼ばれているにしては、あまりたいしたことがないように見える。ともあれ、まずは相手の観察だ。戦力の
「さて、そんじゃ──とっとと死ねや」
右の
口にした言葉に反して、相手もまずは様子見といったところか。
この程度であればなんの問題もない。こちらも下級の
我が目前にて魔法陣が
エラルドが放った《ライトニング・ショット》は《ウォール》によって
このやり取りは俺にとって、なんら特筆すべき点のないものであったのだが。
「エ、エラルドの
「アード君も負けてないわ! 《メガ・ウォール》を無詠唱で発動したもの!」
「もうこの時点でついていけねぇよ……! 二人ともレベルが
いや、ちょっと待て。なんだ、この反応は? なぜ無詠唱ができるだけでこうも驚く?
というか、《ライトニング・バースト》? 《メガ・ウォール》? なぜ誰も彼もが先刻の
「ハッ! なるほどなるほど。なかなかやるじゃねぇか、大魔導士のバカ息子。七光りって言葉は
「……先ほどの
「ふん。
「そうでしょうね。あの程度の魔法、
「……言ってくれるじゃねぇかッ!」
んん? なぜ
これもまた、下級防御魔法、《ウォール》で
「ほう。オレの《メガ・フレア》を受けて、まだ立っていられるとはな」
「は? 《メガ・フレア》?」……何を言ってるんだ、こいつは? 《メガ・フレア》は中級攻撃魔法だぞ? 先刻の《フレア》とは文字通り
……《フレア》を《メガ・フレア》と
これはつまり、そういうことなのだろう。
「くく。
「……そのように格好をつけても、
「あぁ? なに言ってやがんだ、てめぇ」
「もはや化けの皮は
「……あ?」
図星を
「まぁまぁ。お気持ちは理解できますよ。私にもかつてそういう時期がありました。
「どうやら死にてぇみたいだなあああああああああああああああッッッ!」
キレた。ということはつまり、完全に図星ということか。
やれやれ、
「ここまでオレを
「そうですか。私も初めてですよ。分不相応な異名を自らの手で拡散するような
「てめぇえええええええええええええッッ!」
それもまた、こちらからしてみればお
こちらの周囲に魔法陣が顕現する。《フレア》の多重発動だ。まさに幼児が
全身を覆う銅色の半透明な膜が、エラルドの多重発動型《フレア》を無力化する。
これもやはり、俺にとってはなんら騒ぎ立てるようなものではなかったのだが。
「えっ……!? ど、どうなってるの……!?」
「あ、あのバークス式《ギガ・フレア》を、アッサリ完封しやがった!?」
は? 《ギガ・フレア》? 今のが、《ギガ・フレア》だと?
「《ギガ・フレア》が、効かない、だと……!? そ、そんな馬鹿なことがあるかぁッ!」
いや、先刻の魔法は単なる《フレア》の多重発動だろう。
それを火属性の上級攻撃魔法呼ばわりするとは……
ルーン言語を用いた魔法の創造者たる俺にとって、まことに
つまらぬ下級魔法を上級魔法と
「……エラルドさん。貴方は大きな
「あぁッ!? な、何を言って──」
「ご存じないようなので教えて差し上げましょう。本物の《ギガ・フレア》というものを」
宣言してからすぐ、俺は脳内に魔法陣をイメージし、
「うおおおおおおおお!?」
「な、なんだ、あの魔法ッ!? ここまで熱が伝わってくるぞッ!?」
「ひいいいいいいいいいいい!?」
どうやらエラルドはこちらの魔法発動前に《ウォール》を展開したようだが、その程度ではお話にならない。消し炭さえ残らないだろう。
仕方ないので、俺は《ギガ・フレア》を操作しつつ、中級防御魔法《メガ・ウォール》をエラルドにかけてやった。それも五重構造で。
しかしそれだけやっても、《ギガ・フレア》の熱には
発動限界を
焼死体寸前の火傷を負ったエラルドが、地面に
「うわ……し、死んでる、のか……?」
「当然でしょ。大魔導士様のご子息に
「自業自得よね」
いや、死んでない。ちゃんと死なないようにした。
……それにしても。なんでどいつもこいつもショッキングなものを見たような顔をしてるんだ? あの程度、
下級魔法、《ヒール》を発動。陣がエラルドの全身を覆い、そして──
「あ……!? オ、オレ今、死んで……!?」
正確には、死にかけた、である。
目を丸くしながら、うわごとのように
「「「い、生き返ったぁっ!?」」」
いやだから、殺してないってば。
というか、よしんば俺が死者
名門校に通うような者達であれば、その程度は常識だろうに。
ともあれ。俺はエラルドの
「ご理解いただけましたか? 先ほどの魔法こそが、本物の《ギガ・フレア》です。今後、お間違いのなきよう」
ゆっくりと、
エラルドはブンブンと首を縦に
「さて、エラルドさん。
ブンブン首を縦に振るエラルド。
「よろしい。それでは約束を守っていただきましょうか。ジニーさんに謝罪を──」
「今までごめんなさい、ジニー様っ! もう二度と傷付けたりしません!
しかし、残念だが友達にはなれそうにない。エラルドが俺を見る時の目は完全に、かつて多くの配下、人民が俺に向けていたそれと同じだ。……即ち、強い
こういう目を向ける者とは、友好な関係は結べない。まっこと悲しいものである。
一つ
「なぁ、大
冷然とした声に、思わずビクッとしてしまった。
「な、なんでしょうか、オリヴィア様。私は別に、
「貴様、先刻の魔法発動時、別の魔法をエラルドにかけたな?」
「え、えぇ。それが何か?」
「つまり、貴様は
「そ、それが何か?」と、口にした直後。
「ダ、
「い、いくら大魔導士のご子息でも、そんなこと……!」
な、なんだ、この反応は?
「あ、あの。私が用いたのは、たかだか
「この時代ではな、そのたかだか
「……は?」
ロ、《
わけがわからない。自然と、
オリヴィアがこちらの
……あっ、
「なぁ、大魔導士の息子よ。貴様がやってみせたことはな、ほとんどが《
「ロ、《
これは《
「《魔王》の死後、大気中の《魔素》が年々
「そ、そう、だったのですか」
「あぁ。それでな。貴様が普通だと考えている
オリヴィアは、
「貴様にとっての普通は、古代世界であれば通じる考えだろう。しかし──あの頃よりも魔法的に大きく
先ほど貴様が《ギガ・フレア》として扱った
そう、貴様の両親である大魔導士でさえ不可能な技術なんだよ」
ここで一度区切ると。オリヴィアは黒い
「さて──お前はいったいなぜ、古代世界の常識を、この時代の常識として認識していたのだろうなぁ?」
………………
…………
……あぁ、そうか。そうだったのか。
だから
確かに、俺は平均的な人間になるよう、転生用の魔法術式を構築した。しかしそれは「古代世界の平均値」であり……あの頃よりも魔法文明が遥かに
ははは。いやぁ、まいったまいった。
はははははは。ははははははははははは。
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………誰か、助けてくれ。
「いやぁ、それにしても。不思議だなぁ? 貴様の魔力からは、どこか
そして、オリヴィアはニッコリと笑いながら、言った。
「なぁ、アード・メテオール。…………貴様、何者だ?」