プロローグ
教室のドアを開けるとパンツがあった。女もののパンツだ。誰かが拾ってきたのだろうか?
返すに返せず、危険な爆弾を処理できず、
女子用パンツという、この場においては麻薬のような危険物……いったい誰が持ち込んだのだ? 俺は周囲を見回し、犯人を捜す。
くっ……あたり一面思春期ボーイだ。どいつもこいつも
いや、先入観にとらわれるな。思春期ボーイだからと言って、パンツ不法所持をしているとは限らないじゃないか。
はっ! もしかしたら不法所持ではなく――合法なのか!? 高校入学間もないこの時期に彼女と一戦交え、その戦いの証として持ち帰った戦利品!? だとすれば……犯人はイケメンの誰かなのか!?
このクラスにいるイケメンは……だめだ! 全員イケメンじゃないか! どいつもこいつも彼女がいてもおかしくない。おのれ神さま。
容疑者が三十名のまま減らない現状。
圧倒的な存在感を放つ女もののパンツ。
尻尾を見せない真犯人。
謎は深まるばかりである。
《一年A組学級日誌 四月十日 日直(
俺は推理小説風に書いた学級日誌を閉じると、その場で大きく伸びをした。
授業終了後、三十分も格闘したものだから精神的にボロボロだ。
いくら生徒の成績向上が目的とはいえ、日誌を小説風にまとめろという学級課題は、なかなかに難易度が高いと思う。
日常に教育を盛り込むのが最も効率が良いとはされているけど、盛り込むものは選ぶべきではないだろうか? じゃないとこんなクリーチャーが生まれる。
普通の学校なら、こんな日誌を提出したら先生方はともかく、女子から大ヒンシュクを買うこと間違いなしだぞ。昨今の女子はパンツに厳しい。
ウケを狙うにしろ狙わないにしろ、こんなものを書いた時点で、ヘイト集中まっしぐらだ。
女子にはハブられ、その結果友達からは距離を置かれ、残りの高校生活が非常に寂しいものになること請け合いだろう。
しかし、ここではそうならない。
こんな文章を提出したところで、絶対に誰も気にしない。
それどころか、笑って続きを求められる可能性すらある。
毎朝教室のドアを開けて見られる光景からも、それは確定的に明らかだろう。
スマホから大音量でエロゲー&エロ動画を流す生徒が。
趣味全開の同人誌交換会(R指定)に参加する生徒が。
オタトークに華を咲かせる生徒が。
チ〇コのデカさを語り合っている生徒が。
そんなものを気にするわけがない。
俺が通うこの学校――ある意味世間から隔離された異世界では、このような日誌が許されるのだ。
その学校の名は――
今年できたばかりの新設校で、通称オノコーと呼ばれている、男子校である。
そう、ここは男子校――。
女子がいない代わりに、自由と平等がある魂のフロンティア――。
これは、そんなアメリカ以上の自由と平等とフロンティアスピリッツ溢れる学校に、とある理由から進学せざるを得なかった俺こと灰原傑が語る、男子校ライフの物語だ。
登場人物は全員男、ヒロインはいても男の娘、女っ気なんて微塵もないスクールライフのお話――になる予定だったのだが、どうも手違いがあったらしい。
これについては、神様のイタズラというべきか。
それとも詐欺というべきか。
はたまた集団催眠というべきか、非常に悩むところである。
そんなわけで――、
これから語るのは、アメリカ以上の自由と平等とフロンティアスピリッツ溢れる学校に、とある理由から進学せざるを得なかった俺が語る、登場人物は全員男、ヒロインはいても男の娘、女っ気なんて微塵もないスクールライフ――にならなかった物語だ。
ぶっちゃけありえないと思うだろうが、実際あったのだからどうしようもない。
興味があるなら来年受験してくれ。
まあ、その時はどうなっているかはわからないけどな。