魔王学園の反逆者 ~人類初の魔王候補、眷属少女と王座を目指して成り上がる~

第一章 はじめての魔王学園 5

 その二人を見て、リゼル先輩は困ったようにいきいた。

みやび、れいな、話は私がすると言っておいたでしょう?」

「いやーだって待ちきれなくて、シュパーッて来ちゃった。えへへへ」

 そう言うのは、金髪のツインテール。思いっきり着崩した、露出度の高い制服の着こなし。派手なアクセサリーとメイク。

 ギャルだ。

「アタシはゆうがお雅っ! 一年D組だよ。ぎゃるっとヨロシクね!」

 明るい笑顔がまぶしい。シャツの合わせからのぞく、胸の谷間も。

 何というか、元気とおっぱいがシャツのボタンをはじき飛ばしそうだ。胸の大きさなら、リゼル先輩より上かも知れない。

 もう一人は実に対照的。

 背も低いし、体の凹凸もささやか。恐らくは中等部の生徒だろう。

「あの、あの、れいなは、いわれいなっていいます。中等部の二年生で……え、えっと~ふつつかものですが、どうぞよろしくですです」

 銀髪ロングヘアの頭を、深々と下げた。

 何というか、小動物っぽくて可愛かわいい女の子だった。挨拶するだけでテンパって、あわあわしてる。

 一方、夕顔瀬の方はまったくものじしていない。ずいっと、俺に顔を近付けると、ニカッと笑う。

「──じゃユート? 正式にカードに採用する儀式をしてくれる? スパッとしちゃお? ササッと」

 何か、さっきから擬音の多い人だな……。

「えっと……カードの儀式って? 夕顔瀬さん」

 すると雅は唇をとがらせた。

「呼び方カターイっ! カチカチだよ。雅でいいよっ、み・や・び!」

 ウインクすると顔の前でピース。確かに初対面でいきなりユート呼ばわりされてるわけだし、こっちも雅でいいか。

「分かったよ、雅。でもカードにするしない以前に、俺は魔王大戦のこともよく分かっていないから……」

「えーっ!? ねーセンパイ、まだユートと話がついてないの?」

 不満そうな雅に、リゼル先輩は腕を組んで溜め息を吐いた。

「雅たちが飛びこんで来なければ、今頃私は正式に契約していたわ」

 れいなはビクッと体を震わせると、「すみません」を連発して頭を下げた。

 しかし雅は悪びれる様子もなく、再び俺に顔を近付ける。

「まーいっか。ね、ユート。魔王候補はカードを使うことは聞いてるでしょ? アタシらすごくいいよ! 優良物件ってやつだよ! さあ、バシッとキメちゃお!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。だって、それってみんなが俺の部下みたいな立ち位置になるってことだろ?」

「そーだよ? ま、部下っていうより……眷属とか、戦力とか……あ」

 にや~と笑うと、雅は胸を持ち上げるようにして、腰をしならせた。

「奴隷とか? カードにしてくれたら、アタシのこと好きにしていいし」

 ──す、好きに!? だとっ!?

「雅!」

 リゼル先輩がたしなめるように名前を呼んだ。

「えーだってそうでしょ? 身も心もささげるわけだし、特に『恋人ラバーズ』のアルカナは、そーゆーことするし」

「そうだけど、もっとデリカシーというものを持ちなさい。品がないわよ」

「まったくセンパイはマジメぶっちゃってもー」

 そっぽを向いて、ぺろりと舌を出す。

 しかしリゼル先輩も、そんなことはお見通しらしい。

「雅? 何か言いたいことがあるのかしら?」

「いーえ、全然。ただ、アタシたちの魅力で、男の子なんて押し倒しちゃえば話が早いのにって思っただけでーす」

「そんな態度だから信用されないのよ。それに、ユートは他の男とは違うの」

 雅はくるっと俺の方を向くと、ただでさえ開いている胸元のボタンをさらにはずし、襟を開いた。戒めの一部が外れたように、おっぱいがふるんと前に飛び出た。寄せられた胸の谷間と膨らみがさらにあらわになり、ピンク色の下着が見える。

「そんなことないよね? だって男の子だもん。女の子とエッチなことしたいよね?」

 甘えるような上目遣い。

 危うく心が折れそうになる。しかし──、

「いや……ちょっと考えさせてくれ」

「へ?」

「まだ俺には、この学園と魔王大戦のことが分かっていない。君たちをカードにするってことは、多分君たちの人生とか運命を左右することになるんじゃないか? だとしたら、そんな簡単に背負えることじゃないよ」

「……」

 雅の表情から軽薄な笑いが消えてゆく。

 ドン引きされたかな? と思いつつも、俺は続けた。

「でも、そこまで言ってくれるってことは、俺にも何かの可能性があるのかも知れない。だから、学園や魔王のことを知って、考えてみて、それから答えを出したいんだ。それでもいいか?」

 雅が澄んだ瞳で、じっと俺を見つめていた。

「ふーん……確かに、他の男とは違うかも」

 不思議なことに、雅の容姿はさっきと同じなのに、理知的な雰囲気に変わっていた。

 どこか高貴さや、上品さといったものすら感じさせる。

 これが、雅の本当の顔なのか?

 と思った次の瞬間、再びへらっとした笑みを浮かべた。

「しゃーない。じゃ、しばらくはアピール期間ってことにしとくね♡」

 れいなに視線を移すと、

「れいなも、れいなも、ユートさんの心が固まるまでお待ち致します。でも、その間もれいなを頼ってくださいね? れいなはユートさんの味方ですから!」

 そう言って天使のような微笑ほほえみを浮かべた。悪魔に「天使」っていうのもヘンだけど。

「あの、ホントにホントに、御用があったら、何でも言って下さいねっ。疲れてませんか? おなかとかいてませんか? あ……学園の中をご案内しないとですよね?」

「れいな、あなた中等部でしょう?」

 冷静なリゼル先輩のツッコミに、れいなは肩を落とした。

「……ですです」

 リゼル先輩は、ふっと肩の力を抜くと、

「それでは、私たちをカードにしてくれる決心がついたら、正式に契約をしましょう。それまでは、私たちが色々とレクチャーしてあげるわね」

「はい、ありがとうございます……あと、一つきたいことがあるんですが」

「何かしら?」

「さっき、俺には素質があると言ってくれましたけど……リゼル先輩は引く手数多あまたみたいだし、他にも魔王候補はいるのに……ただの人間の俺を、なぜ?」

 リゼル先輩は腕を組むと、俺を優しい瞳で見つめた。

「私たちの先祖は、代々『恋人ラバーズ』のアルカナに仕えてきたの」

 ああ、なるほど。殿様に代々仕えている武士みたいなものか……それで──、

「でも、それだけじゃない。私の意思もあるわ」

「え?」

 先輩が、一歩、二歩、俺に近付く。

「今朝のやり取りで分かったわ。あなたには、相手がどんなに強大であっても屈しない心、そして敵わない相手でも立ち向かおうとする心がある」

「そ、それは……無謀なだけですよ」

「そして正義を愛する心を持っている。あなたは他人のために怒ることが出来る、戦うことの出来る人。そんな魔王候補、なかなかお目にかかれないわ」

 顔が近い。でもそれよりおっぱいが近い。

「はは……悪魔としては、それって欠点?」

「いいえ。私は恐怖と暴力だけで世界を支配するのは嫌なの。一人の価値観と欲望だけを押し付けられる世界なんてお断りだわ」

「先輩……」

 その瞳は真剣だった。

「確かに恐怖と暴力は必要。でもそれだけでは駄目なの。そこには、他人への愛がなければならない。だからこそ次の魔王は……ユート、あなたでなければならないの」

 大きく前に飛び出した胸が、まず俺の胸に触れた。

「あなたが持つ『恋人ラバーズ』のアルカナ……それは唯一、愛の力を持つ魔王」

 愛の、魔王?

 れいなが発言を求めるように手を挙げた。

「『恋人ラバーズ』のアルカナの意味は、人との結びつき……きずななのですです。それと──」

 雅が割り込むように言葉を引き継ぐ。

「情熱と選択ね。あとは……」

 ちらりとリゼルを見る。

「運命的な出会い。そして、未来への期待」

 ──未来への、期待。

「さっきも言った通り、私たちは暴力と恐怖だけの統治には納得しない。愛の力で世界を治める、そんな未来を期待させてくれる王に私たちは仕えたいの」

「先輩……」

 天使のような微笑みを浮かべ、悪魔な先輩は俺にささやいた。

「この出会いが、運命的なものだって……私は信じているわ」

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