第三章

【勝者】

「そういえば、ももさんがあさくらさんを『サクラ』って呼んでたけど……朝倉さんの名前って『サクラ』じゃないよね?」

「ああ、あれはニックネームよ。私が『桃井』から『井』を抜いて『モモ』って、呼ぶようにモモは私のみようの『朝倉』から『あ』を取って『サクラ』って呼んでいるの♪」

「そうなんだ……」

「え、ええ……」


((か、会話が続かない…………))


「……全然ダメね! なんか白々しいわ。二人ともやり直しよ」

「何で! 委員長の言うように、朝倉さんと『ともだちみたいに親しく会話』したじゃん!」

「い、委員長! これ以上は流石さすがに私も……」


(ダメだわ! 委員長の前だとうかつにラノベの話題出せないし、あんどうくんに食べている所を見られているのが恥ずかしくて、そもそもく話せないのよぉおおお!)

(委員長は何でいきなり『朝倉さんと仲良くなるために、ずは友達みたいに親しく会話しなさい』なんて言ったんだ?)


「何言っているのよ? 二人は最近よく話しているから『友達なんでしょ?』って聞いたら二人とも『そ、それはちょっと……』とか、ふざけたことを言うから、わたしが『じゃあ、今ここで話し合って友達になりなさい!』って言ったんじゃない」

「いや、だから……そもそも、何で俺が朝倉さんと友達になるの?」

「逆に言うけど、安藤くん。わたしからしたら貴方あなたと朝倉さんはもう十分に『友達』よ?」

「「えぇええ!?」」

「何で二人ともそれで驚くのよ! はぁ……だから、わたしからしたらいまだにお互いが『友達』だって言い切れていないことの方が問題なの」

「うぅ……」

「そう言われても……」


(いや、だってそもそも『学校一の美少女』の朝倉さんと『ぼっち』の俺とじゃ身分がつりあわないというか……こんな俺が朝倉さんと『友達』だなんて言うのは──)

(だってだって! 安藤くんは私なんか、ただの美人なクラスメイト程度にしか思っていないのよ? わ、私はあんどうくんのことを異性として見ているわけで……そんな下心満載の私が安藤くんと『ともだち』だって言うのは──)


((なんだか、おこがましい気がする…………))


「……あ、あははは」

「……え、えへへへ」

「はぁ、これだから……」


(いや、どう見ても貴方あなたたち……お似合いだからね? でも、だからこそ私が二人をけしかければいいのよ! あの二人に必要なのは……そう! 既成事実!)


「──って、ことで二人の仲を深めるために、ゲームでもしてもらおうかしら?」

「何、ゲーム……だと? ふふふ、ぼっちにゲームを仕掛けるとは……。ぼっちは一人の時間が多いからゲームが強いことを知らないな? いいぜ、その勝負受けてやる! どんなゲームが相手だろうと、ノーコンティニューでクリアしてやるぜ!」

「委員長、それでどんなゲームをするのかしら?」

「丁度この前、中間テストに向けた実力テストがあったでしょう? 二人でじゃんけんをして勝った方が好きな教科を言って、その教科の点数が高い方が勝ち。って、ルールよ」

「ちょっと、待ってぇええ!?」

「何よ? ノーコンティニューでクリアするんじゃなかったの? ちなみに、ばつゲームは『あーん』とかどうかしら? 勝った方が相手に『あーん』で食べさせるのよ」

「いやいやいや! そもそも、それゲームじゃないじゃん! 大体、それどっちが勝っても罰ゲームだよね!? 大体そんなゲームをあさくらさんがやるわけ──」

「やるわ!」

「──ぇええええええええええええええ!?」


(朝倉さん、何でやる気になってるのぉおおおおおおおおおおお!?)

(実力テストで学年一位の私からしたら、このゲームは勝ったも同然よ! 圧倒的な点数で安藤くんをねじふせて『あーん』してあげるんだからね!)

(朝倉さんは思ったよりやる気ね……。安藤くんはすごい嫌がっているけど、こんな美少女に『あーん』で食べさせてもらえる罰ゲームなんだから別にいいんじゃないの……?)


「因みに、これを拒否したらこの前、安藤くんが提出した図書室の入荷希望リストのラノベ全部却下するから」

「くっ、それをたてに取るとか……この悪魔! サタン! ルシファー!」

「どれも同じじゃないの……? ほら、あさくらさん。やっておしまい!」

「うん! ありがとう、委員長!」

「朝倉さんも何でお礼言うのかな!?」

「あ、あんどうくん、いくわよ!」


「「じゃんけんぽん!」」


「私の勝ちね! じゃあ、教科は『数学』よ」


(私の成績は学年トップ! この勝負もらったわね!)


「二人の点数は?」

「『98点』よ!」

「『100点』」

「「…………」」


((……え?))


「あ、安藤くん……今、なんて言ったの?」

「『100点』だけど……」

「ちょっと、安藤くん。いくら負けたくないからって、委員長であるわたしの前でうそをつくのはどうかと思うのだけど……? だって、朝倉さんは実力テストで学年一位なのよ?」

「それ、全科目の合計点でしょ? 数学だけは俺が一位だから。それより……委員長、朝倉さんが総合一位って分かってこの勝負けしかけたよな……?」

「そ、それは──」


(……安藤くんが『100点』? まさか、安藤くんが朝倉さんよりも点数が高いなんて……あ! あんな所に数学の先生がいるわ! ちょうどいいから、確認を──)


「おう、安藤か。なんだ学食で食べてるの珍しいな」

「あ、先生。こんにちは……」

「今回も、数学のテスト『100点』だったな。次の中間も頑張れよ」

「はーい」

「……え、あんどうくん。本当なの? と言うか『今回も』ってことは」

「ああ、委員長。いつも数学だけは俺『100点』だよ」

「安藤くん、すごいわ! 私、いままで『100点』なんて取ったこと無いもの!」

「──え!? でも、あさくらさん点数高いじゃん!」

「……その、どの教科もケアレスミスで満点は取ったことが無いのよ。それに数学はいつも最後の文章問題が難しくて……」

「へぇ、そうなんだ……。なら『100点』取ってみる?」

「「え?」」

「その……良ければ俺が数学を教えるけど……? 点数取れなかったのって、単純なケアレスミスと最後の文章問題なんだよね? 朝倉さんなら、少し教えるだけで『100点』取れると思うけど……」

「ぜ、、お願いするわ!」

「うわっ!」


(そ、即答!? 朝倉さんってば、そんなに『100点』取ってみたいんだな……)

(安藤くんと勉強ですって!? ま、まるで、夢みたいなシチュエーションじゃない!)


「いやいや……むしろ、安藤くんの方が朝倉さんに勉強教えてもらいなさいよ……。

 貴方あなた、数学以外はどうせ赤点でしょう?」

「だ、だまらっしゃい! そ、それに……いつも、赤点はギリギリで回避してるしぃ~?」

「「…………」」


((ギリギリなんだ……))


「──じゃ、じゃあ! 数学を教えてもらう代わりに、私が安藤くんに他の教科の勉強を教えてあげるわ!」

「あ、それは別に──」

「「拒否しない!」」

「はい……」


(何で言い切る前に、拒否するって分かったんだ……?)


「じゃあ、後は安藤くんが朝倉さんに『あーん』してお昼休みは終わりね」

「「んんん!?」」

「二人とも何を驚いてるのよ……。そもそも、これはテストの点数を競うゲームでしょ?」

「「そうだった!?」」

「はぁ、だと思ったわ……」


(フフフ……でも、おかげで最後に面白いイベントが見れそうね)


「い、委員長……? でも、もう時間ないわよ?」


(まさか、私があんどうくんに『あーん』をしてもらう側なの!? え、そんな……まだ心の準備が──)

(はぁ……もう周りの男子の殺意の波動にも慣れたし、こんな茶番さっさと終わらせよう)


「はい、あさくらさん。口を開けて『あーん』……」

「──って、安藤くんは何で急にそんな乗り気なのよ!?」

「朝倉さん、早くしないとお昼休み終わっちゃうよ? ほら『あーん』」

「ッ!? あ、安藤くんそれ……」


(ちょっと待って! それ、さっきまで安藤くんが食べてたチャーハンじゃない!? スプーンも安藤くんのだし──って、つまりこれは間接キス!? ななな、なのに──何で安藤くんはそんなに堂々としているのよぉおおおおおおおおおおおお!)

(朝倉さん、どうして急に黙り込んじゃったんだろう? 委員長もか笑いをこらえているし……ああ、そうか! さては朝倉さん! 自分が『あーん』される立場になって、今頃恥ずかしさに気づいたんだな?)


「え? 朝倉さん、どうしたの?」

「──いや、安藤くん……だってぇ……」

「フフ……安藤くんってば、やるわね」

「朝倉さん、まさか……あれほど威勢がよかったのに、いざ自分が『あーん』されると恥ずかしいなんてないよね?」

「!? そ、それは──」

「ヒュ~♪ ヒュ~♪」

「委員長は黙って! ああ、もう! 分かったわよ! た、食べればいいんでしょう!? い……いただきま──うぅぅ~~~~……っ!」

「あ、あさくらさん? 顔、真っ赤だけど……大丈夫? 無理しなくてもいいよ?」


(……あ、あれ? 少しあおり過ぎたかな? やっぱり、俺に『あーん』してもらうなんて嫌だよね?)

(こ、こんなの……恥ずかしすぎるでしょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!)


「勝者、あんどうくん」


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試し読みは以上です。

続きは製品版でお楽しみください!

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