異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する 5 ~レベルアップは人生を変えた~

第二章 王都の異変(3)

 すると、今まで我関せずだったユティが口を開き、そう言った。

 その言葉に、佳織はどこか悲しそうな表情を浮かべた。

 ユティの詳しい事情を佳織は知らないが、それでもユティの瞳や、その声音から、ユティの抱えるモノの重さを察したのだろう。俺としても、『邪』のことを忘れて、生活してほしいとは思うが、こればかりは難しいだろうし、俺が簡単に口出ししていい内容でもないしな。

 ユティの態度に、オーウェンさんも軽く目を見開いた後、ため息をついた。

「はあ……私の立場としては、王国の法律に則って逮捕したいところですが……実力的にまず不可能ですし、何やら込み入った事情があるようですね。今はユウヤ殿とユティの言葉を信じましょう」

「あ、ありがとうございます!」

 よかった! これ、下手したらというか、普通なら間違いなく共犯扱いで俺まで捕まってただろうしね。

 ひとまずユティのことで安心したところで、俺は今の街の雰囲気の原因について訊くことにした。

「ところで、俺たちはさっきこの街に着いたばかりなんですけど、どうしたんですか? なんだか前に来た時と違い、慌ただしいようですが……」

「あ、ああ。そのことなのだが……」

 そこまで言いかけ、オーウェンさんは何かを思いついた顔をした後、俺に頭を下げた。

「ユウヤ殿!」

「え、何!? どうしたんです!?」

「どうか、ユウヤ殿の力を貸していただけないだろうか!?」

「へ?」

 話が分からず、思わずそんな間抜けな返事をしてしまう。

 困って佳織たちに視線を向けるも、ユティも佳織も同じく困惑していた。ナイトたちは……うん、いつもと変わらない。

「その、どういうことか説明していただけますか?」

「……実は、このアルセリア王国の近くに、伝説の竜が眠ると言われる渓谷があるのですが……」

「はあ……」

「はい。その伝承にある伝説の竜が、目覚めたかもしれないのです」

「…………はい?」

 え、伝説の竜が……目覚めた?

「……ええええええ!?」

「りゅ、竜って……ええええ!? 架空の生き物じゃなかったんですか!?」

 俺もこの世界に来て、一度も竜を見たことがないので、佳織と同じように驚いてしまう。しかも、ただの竜じゃない。伝説の竜だ。

「ちょ、ちょっと待ってください! 伝説のって……どういうことですか?」

「もちろん、おとぎ話の類の迷信だと思われていたのだが……どうやら実在したらしい……」

「なんてこった」

 オーウェンさんのげっそりとした様子から、嘘ではないことが見て取れた。おいおい、マジか。

 いや、俺からすると伝説だろうがそうじゃなかろうが、竜っていう時点で驚きなんだけども。

 しかし、やはり伝説と言われるだけあり、今まで興味なさそうだったユティですら、目を見開き、固まっていた。

「驚愕。話だけは聞いたことがある。でも、迷信だと思ってた」

「それで言えば、私としては『聖』や『邪』といった存在も十分おとぎ話の世界なのだがな……」

 はい、どうやら今さらみたいでした。

 俺はピンときてないけど、『聖』と『邪』って存在も普通に考えれば伝説クラスなのね。そう考えると、賢者さんってどんなレベルなんだろうか? 気になるな。

「えー……その、伝説の竜が存在したとか、しかも目が覚めたとか色々驚くことはありますが……街の雰囲気を見るに、あまりいいことではないんですね?」

「そう、だと思われる」

「思われる?」

 なんとも曖昧な回答に、思わず聞き返すが、オーウェンさんは険しい表情を浮かべつつ、答えた。

「情けない話だが、それが分からないのだ」

「え?」

「なんせ迷信だと思われていた存在ですからな。人間たちにとって友好的なのか分からないのです」

「な、なるほど……」

 オーウェンさんの言葉に思わず納得していると、後ろで聞いていた佳織が口を開いた。

「あの、伝説の内容ってどんなものなのですか?」

「む? 伝説の内容と言われても、『創世と共に存在する竜、ここに眠る』……ただそれだけなのだ」

「そ、創世って……」

 この世の始まりと同じだけの時を過ごす竜ってこと? 何歳なのさ。いや、むしろ寿命とかどうなってるんだ?

「それじゃあ確かに何もわかりませんね……」

「ああ。それに、目覚めたかもしれないと言ったように、それもまだハッキリと分からないのです」

「では、何故目覚めたと思われてるんですか?」

「世界が揺れたかと錯覚するほどの咆哮が轟いた後、その渓谷に生息する魔物が、何かから逃げるように移動を開始し始めたのです」

「そうなんですか?」

「ユウヤ殿の家まで聞こえませんでしたか? 王都ではその咆哮の衝撃だけで家の壁や、城の城壁が崩れるほどの被害だったのですが……」

「そんなに酷かったんですか!? でも、俺は聞いてないです。ユティも聞こえてないよな?」

「肯定。そんな声は聞いていない」

「おかしいですね……あの声の大きさであれば、確実に【大魔境】にまで届くと思ったのですが……」

 ブラッディ・オーガが賢者さんの家を襲ってきたときは、確かに声が聞こえたから、声だけ遮断するなんてことはないと思うんだが……いや、待てよ?

 オーウェンさんの話通り、家の壁だけでなく、城の城壁さえ壊してしまうような咆哮なら、それは攻撃とみなされ、賢者さんの家の効果として遮断されてもおかしくないのか? もしそうなら伝説の竜の咆哮すら軽々と防げる賢者さんは本当にヤバいというか、すごいというか……。

「とにかく、その伝説の竜が本当に目覚めたかどうかを確認するため、我々騎士団が渓谷を調査することになったのです。しかし、先ほども言った通り、渓谷の魔物が何かから逃げるように移動した結果、周辺の村々が襲われ、その対応に追われ、渓谷の調査にまで手が回らないのです。さらには元々その渓谷の奥地にはより凶悪な魔物が多く生息しているため、調査自体が難しく……そう言った場所だからこそ、伝説の竜が存在したのかどうかを今まで調べることすらできなかったのですが……」

「なるほど……」

「そこで、伝説の竜が眠る渓谷以上に危険な【大魔境】で生活しているユウヤ殿に、ぜひともその調査を手伝っていただきたいのです!」

「……え? 【大魔境】ってそこよりヤバいんですか!?」

 危険だとは散々言われてきたけど、本当にどうなってるんだ、【大魔境】。

 オーウェンさんの言葉を聞き、そんな危険な場所に俺の家があることを知らなかった佳織が、顔を青くした。賢者さんの効果で守られてると説明したところで信じてもらえるかどうか……。

「その……お話を聞いている感じ、俺の力が通用するとはとても思えないんですが……」

「そんなことはないですぞ! 出てくる魔物は【大魔境】のブラッディ・オーガクラスばかりですから」

「あ、それなら大丈夫そうですね」

「……まあ、我々からするとブラッディ・オーガは死を覚悟する魔物なのですが」

「え?」

 オーウェンさんが小さい声で何かを呟いていたが、俺は聞き取ることができなかった。なんて言ったんだ?

 それはともかくとして、俺としては困っているのならオーウェンさんたちの手伝いをしたいが……。

「あの、その渓谷って王都からどれくらいの位置にあるんですか?」

「そうですな……【大魔境】とは反対側なのですが、だいたい半日かからない程度でしょうか」

「半日ですか……」

 今から行けば、渓谷にたどり着けはするが、今日丸一日かかってしまうだろう。そうなると、今日は王都の観光ができなくなってしまう。

 そんなことを考え、ふと佳織のほうに視線を向けると、佳織は真剣な表情で俺を見ていた。

「あの、優夜さん」

「ん?」

「もしよろしければ、その依頼を受けてください」

「え?」

「今こうして困っている方たちがいて、優夜さんの力を求めているのであれば、ぜひその力になってあげてほしいと思うんです。王都の観光はまた別の機会にすればいいですし」

「佳織がそう言うなら、俺としても力になりたいからありがたいんだけど……」

「それに、私もその伝説の竜が気になりますしね!」

「「え?」」

 佳織の言葉に、俺だけでなくオーウェンさんまでもが目を点にした。伝説の竜が気になるって……まさか!?

「佳織もついてくるのか!?」

「ダメですか?」

「ダメっていうか、普通に考えて危ないだろ?」

「大丈夫ですよ。優夜さんから頂いた指輪もありますし!」

「うーん……」

 でも、さすがに伝説の竜とかとんでもない存在がいる場所に連れていくのは気が引けるというか……。

「ユウヤ。私も行く」

「え、ユティも?」

 すると、ユティも変わらぬ表情でそう告げてきた。

「肯定。伝説の竜、私も気になる。それに、危険な場所なら、戦力になる」

「ううむ……私としては複雑だが、ユティの実力は我々より圧倒的に上だからな……今の状況としては非常に助かるが……」

 渋面を作ったオーウェンさんが唸る中、ユティは気にした様子もなく続ける。

「便利。私がいれば、カオリの護衛もできる」

「え、佳織のこと、守ってくれるのか?」

「当然。カオリ、あの世界で、私に色々教えてくれた。だから、守る」

「ユティさん……」

 佳織はユティの言葉に感動した様子で、そう呟いた。

 うーん、ここまで言われたら、俺としても断るのは難しいというか……確かに、佳織には俺たちが渡した指輪もあるから、大丈夫なのかな?

「……分かった、佳織も一緒に行こう」

「はい!」

「というわけで、オーウェンさん。俺たちもその調査に参加しますよ」

「おお、そうですか! それは非常にありがたい!」

「ただ、できればこれから出発してしまいたいのですが……」

「そういうことでしたら、渓谷までの地図をお渡しします。あと、本当に今すぐ行かれるのでしたら、食料なども用意しておくことをお勧めしますぞ」

 そんな忠告を受けつつ、俺たちはオーウェンさんから地図をいただいた後、さっそく渓谷に向けて出発した。

 オーウェンさんが言っていた食料は、転移魔法で家に帰ればなんとかなるので、大丈夫だろう。

 それよりも……本当に竜がいるのか、少しワクワクする俺がいるのだった。 


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試し読みは以上です。


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