異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する 11 ~レベルアップは人生を変えた~

プロローグ(2)

   ***


 過去世界から呼び寄せられた『じゃ』を斬り、俺が一息吐いていると、空からラナエルさんがやって来た。

 ラナエルさんは、華麗に着地すると、笑みを浮かべる。

「いやー、無事にこちらの時代に戻れたようで何よりですねっ! あ、『邪』の方もありがとうございました! 無事、元の時代に戻しておいたので!」

「は、はあ」

 ラナエルさんの勢いに押されていると、彼女のことを知らないユティが警戒しながら訊いてくる。

「質問。誰?」

「ああ、彼女は――――」


「――――ユウヤ君ッ!」


「へ?」

 ユティにラナエルさんを紹介しようとしたところで、突然声をかけられた。

 驚いてその方向に視線を向けると、猛スピードで迫ってくるイリスさんの姿が!

「ユウヤ君、無事なの!?」

「は、はい、大丈夫ですけど……何故なぜここに……?」

 予想外の人物の登場に驚くが、やって来たのはイリスさんだけではなかった。

《おい、一人で突っ走るな!》

「ぜぇ……ぜぇ……わ、私がいることを……忘れているんじゃないか……?」

《……オーディス、貴様は体を鍛えろ》

 なんと、ウサギ師匠とオーディスさんまでもが姿を現したのだ。

「あ、あの……何故、皆さんがここに?」

 確か、ウサギ師匠たちは他の『せい』の人たちに『邪』が消えたことを伝えに回っていたはずだ。

 また『邪』が消えたとはいえ邪獣じゃじゅうは残っており、それの対処にも追われていたはずだが……。

 すると、ウサギ師匠が警戒しながら教えてくれた。

《この場所から強烈な『邪』の気配を感じたからに決まっているだろう》

「そうよ! だからユウヤ君の身に何かあったんじゃないかと思って、急いで来たんだから!」

「あ……」

 色々ありすぎてすっかり忘れていたが、俺と、賢者さんが生きていた時代の『邪』を入れ替える形で、あの『邪』がこの時代に呼び出されたのだ。

「す、すみません。心配をおかけしました……その件に関しては、もう大丈夫です」

「大丈夫って……前のアヴィス、だっけ? あれよりも強い『邪』の気配だったわよ?」

「そうですね。でも、何とかなりました」

「何とかって……」

 俺の言葉に唖然あぜんとするイリスさん。

 しかし、本当に色々ありすぎたので簡単には説明できないのだ。

 すると、イリスさんはラナエルさんに視線を移した。

「まあいいわ。それよりも……その子は誰かしら?」

 な、何だろう……イリスさんの雰囲気が微妙に刺々とげとげしい感じがするけど……。

 困惑しつつも、改めてラナエルさんのことを紹介しようとする。

「えっと、こちらはラナエルさんです。その、説明すると長くなるんですけど……」

「あ、ここからは私が自分で説明しますよ!」

 ラナエルさんはそう言うと、俺が過去世界に飛ばされていたことや、上の次元の世界で行われている観測者と虚神うつろがみとの戦いについて説明してくれた。

 まあ、俺がゼノヴィスさんと修行したとか、そんな俺が倒した相手が虚神の尖兵せんぺいとなった創世竜そうせいりゅうであることなどは伏せている。というのも、そこら辺はこの世界から情報が消されているだろうから、説明するのが大変なのだ。

 当然、突拍子もない話だったので、そう簡単に信じられるものではないはずだが……。

『……そうか。ヤツに会ったんだな』

 オーマさんだけは、納得した様子で静かにうなずいていた。

「ちょ、ちょっと待って! 創世竜は何で今の話をそんな簡単に信じられるのよ!? それに、過去世界がどうとか以前に、上の次元って何!?」

「理解不能。私も分からない……」

《こいつは、出歩けば厄介ごとに巻き込まれる星の下にでも生まれたのか?》

 もはやウサギ師匠の言う通りな気がしてきた。

 しかし、ラナエルさんはあくまで上の次元での戦いに俺が呼ばれているということだけの説明にとどめ、俺と賢者さんの契約に関しては触れなかった。

 すると、オーディスさんが静かに口を開く。

「ふむ……要約すると、観測者という神のような者たちが、上の次元で虚神とやらと激しい戦いを繰り広げており、その戦力としてユウヤ殿を連れていく、ということかな?」

「そうです!」

「な、なら私も連れていきなさい!」

「イリスさん!?」

 まさかの発言に俺が目を見開くと、イリスさんは真剣な表情で続ける。

「ユウヤ君は私の弟子よ。そんな訳の分からない場所に一人で向かわせるなんてできないわ! それに、戦力が足りてないって言うなら、私たちも力になれるはずよ」

「そ、それはもちろん、俺としても心強いですけど……」

 ゼノヴィスさんと一緒に虚竜きょりゅうを倒したから分かるが、恐らくあれよりも強い存在と戦うことになるのだ。

 当然、ドラゴニア星人たちと戦った時以上に危険な戦いになるだろう。

 だからこそ、こんなことに巻き込んでいいのだろうか?

《何を悩んでいるかは知らんが、その上の次元での戦いで、観測者とやらの陣営が負ければ、この世界も危ういのだろう? ならば、この世界の『聖』としても、俺たちが力を貸すのは当たり前のことだ》

「あ……」

「挙手。私も行く」

「わん!」

「ふご? ぶひ」

「ぴぃ!」

 すると、ユティをはじめ、ナイトたちもついて来てくれると言ってきた。

 そしてオーマさんも、あきれた様子で口を開く。

『はぁ……まさかとは思うが、ぬし一人で向かうつもりだったのか? これに関してはユウヤだけでは手に負えんだろう。我も手を貸そう』

 なんと、オーマさんまでもが手を貸してくれると言うのだ。

 これは何よりも心強く、ふと見ればオーディスさんも力強く頷いてくれた。

 しかし、この中で唯一、俺と同じ地球出身の神楽坂かぐらざかさんは、気まずそうに告げる。

「その……話を聞いた感じ、かなり大事そうだけど、私じゃ足手まといだろうから……ごめんなさい」

「い、いえ! そんな気にしないでください。元々、こんな大変なことが立て続けに起きてる方がおかしいんですから……」

 自分で言っておいてなんだが、どうしてこんなにトラブルに巻き込まれるんだろうか。

 ともかく、そんな危険なことに神楽坂さんを巻き込むわけにはいかなかった。

「代わりと言っては何だけど、イリスさんたちがこの世界を離れている間、私は邪獣を少しでも減らせるように頑張るわ」

「それは……ありがたいです」

 すると、俺たちのやり取りを黙って見ていたラナエルさんは考え込む。

「ふむふむ……皆さん、ユウヤさんと同じように、我々に手を貸していただけると……その気持ち、本当にありがたいです。ただ、元々ユウヤさん一人を上の次元にお呼びする予定だったので……」

「それじゃあ、私たちはダメってこと?」

「……いえ。少し時間をいただけますか? 観測者様に確認して、一度調整してきます。というのも、皆さんはこの世界においてかなり重要な役割をになっているでしょう? そんな存在をこの世界から簡単に引き抜いてしまうと大きな支障が出てしまうとか……」

「なるほど……」

「というわけで! 私は一度、上の世界に戻ります! あ、皆さんをお呼びする際は個別に私がお迎えに上がりますので、心配しないでください! それではっ!」

 ラナエルさんはそう告げると、その場からすごい勢いで上空へと飛翔ひしょうしていった。

 その様子を見送ると、イリスさんはため息をく。

「ひとまず、これから大きな戦いに参加するわけよね……宇宙での戦いでも少し思うところがあったし……今一度、『聖』としての力を見直すために、ウサギ、オーディス、少し付き合いなさい」

《む?》

「わ、私もか?」

「当然でしょ? どんなのが相手なのか分からないけど、生半可な相手じゃないはずよ。なら、私たちも力をつけておくべきじゃない?」

「い、いや、その通りだと思うが、私はお前たちと違って体力が……」

《確かにな。オーディスに関しては体力がなさすぎる。そこも含めて修行するか》

「ウサギ!?」

 驚くオーディスさんの首根っこをウサギ師匠は一瞬でつかみ上げた。

「というわけで、私たちは修行してくるわ。何ならユウヤ君も来る?」

「い、いえ、俺はその、地球での生活もありますから……」

「あら、残念。それじゃあまた会いましょう!」

《フン》

「お、おい、ウサギ! 私は自分で歩け――――!」

 オーディスさんが何かを言いかけるも、イリスさんとウサギ師匠は空中に跳び上がり、そのまま空を蹴ってどこかへと行ってしまった。もちろん、オーディスさんを引きずりながら。

「……ひとまず、神楽坂さん、一緒にレガル国まで行きましょうか」

「え、ええ」

 俺たちは当初の目的通り、神楽坂さんを送るため、レガル国へと向かうのだった。

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