第一章 ちょっとそこに座りなさい!1



 ゴッ!

「いっ……たぁっ!」

 椅子いすから落ち、サヤカは全身を打つ。特に後頭部が痛い。椅子からころげ落ちただけのはずだが、予想以上に衝撃しょうげきが強かった。

「ぐおぉおぉぉぉ……!」

 涙を浮かべて後頭部を押さえ、女子高生にあるまじき苦悶くもんの声を上げて目を開けると、ふと天井てんじょうの様子が違うことに気付く。周囲もざわざわしている。

(……ざわざわ?)

 両親が仕事仲間でも連れて来たのだろうか。めずらしいと思いながら、顔を上げる。

 辺りがやけに暗い。いつの間にか眠っていて、日が暮れたのだろうか。照明も少なくてよく見えないが、明確にわかることは、ここが知らない場所であること。

「ど……どこ、ここ……?」

 後頭部の痛みも忘れ、辺りを見回す。男達が座り、その中心にサヤカがいる。サヤカは床に倒れているのではなく、テーブルの上にいるようだった。

 サヤカの目の前にいる男が、声を発する。

「なん、だ、てめえ……?」

 暗くて顔は見えない。しかし低くひびく声が、不機嫌ふきげんかつ困惑こんわくしていることはよくわかった。

(っていうか、この声、どこかで聞いたことあるような……?)

 よく見ようとしたサヤカの耳に、ガタガタと椅子から立ち上がる音が聞こえてきた。男達が立ち上がると、きたえ上げた身体からだがよくわかった。

 彼らに誘拐ゆうかいでもされたのだろうかと思ったが、そんな記憶きおくはない。

「どこから入り込んだ!? いや、今どうやって現れた!」

 混乱するサヤカだったが、相手もまた混乱しているらしかった。

「え、し、知らない! わかんないです! ここ、どこ? あ、すみません退きますね」

 とりあえず今現在使われているテーブルに乗っているのはよくない。彼らも困惑しているからか、サヤカの行動を止めなかった。

「いかがいたします……? 一応、人間のようですが……」

「突然現れやがったんだ。怪物のたぐいかもしれねえ。とっつかまえてすべてかせろ」

「か、怪物って……何言ってるん――」

「吐かねえ場合は、拷問ごうもんも許可する」

「……ごーもん?」

 やばい。それだけは確かだった。生まれて初めて、生命の危機ききを迎えているらしい。

 男達から後退あとずさると、金属のドアノブにれた。後ろ手に回してみると、とびらは開けられるようだった。だが、その前に男達のうでに捕まってしまいそうだ。

 サヤカは一瞬いっしゅんでも彼らの気をらせないかと、必死で思考をめぐらせる。そしてある考えにいたり、窓の外を指さして、全力でさけんだ。

「あ――――――っ!」

 思考は巡らせたが、こんな方法しか浮かばなかった。男達もサヤカの大声に驚いたのか、視線を窓に向けた。その隙にサヤカはドアを開けてけ出した。

(これに引っかかる人まだいたんだ! よかった! ありがとう!)

 ドアの向こうは、心地ここちよい夜風が吹く外だった。アスファルトではなく石で舗装ほそうされた道を、とにかく全速力で走る。あかりもろくになくて不安になる。

「あの女、やっぱりあやしい! 追え!」

 背後から先ほどのガラの悪い男達が追いかけてくるのがわかった。

「何なのぉ!?」

 辺りも知っている道ではない。それどころか、日本ですらない。煉瓦れんがや石造りの家が多い。ヨーロッパの町並みにしか見えなかった。

 もしかしたら、だれかに助けを求めたほうがいいんだろうか。

 サヤカが立ち止まろうとしたその時、路地から手が伸びてきて、サヤカの腕をつかんだ。

「こちらに」

 若い男の声がする。こちらもまた、どこかで聞いたことがある声だった。青年はサヤカを引き寄せると、サヤカの身体に上着をかぶせて背中をかべにつけさせる。そうしておいて、青年は大通りのほうをうかがっていた。

「い、一体、何な、の……――」

 不安で泣きそうになっていたサヤカだったが、その青年を見上げた瞬間、涙が引っ込んだ。

 暗い中でもかがやく月光のような銀髪ぎんぱつ。こちらを見下ろすすずしげな目元に収まるのは、髪と同じ銀色のひとみ。鼻筋はスッと通り、くちびる完璧かんぺきに整っている。

(な、何この美形……! 顔面の宝石箱ですか……!?)

 サヤカは疲弊ひへいした自分の体力と精神力が回復するのを感じていた。

(あの、あなたは?)

「顔がいい……!」

 うっかり言いたいことと心の声の出力を間違え、あわてて口をふさぐ。

 幸い青年はよく聞こえなかったのか、首をかしげてから、口元に人差し指を当てた。

「静かに。あなたはじっとしていてください」

 口元に指を当てたまま、彼はサヤカに上品に微笑ほほえみ、その顔を近づけてくる。

(何そのイケメンにしか許されない仕草! ……ていうか近い近い顔が近い! スチルでもこんなに近くないんですけど!?)

 ほおにそっと触れられ、鼻先がくっつきそうなほど、綺麗きれいな顔が近づく。サヤカがになっていると、青年はくすりと笑い、もう一度口元に指を当てる。

「何もしませんから、このまま」

 そっとささやかれ、さらに顔に熱が集まる。

 その彼の背後から、追ってきていた男達の声がして、サヤカは身体を硬直こうちょくさせる。

「おいお前達! 女を見なかったか!?」

「知らないな。邪魔じゃましないでくれ。お前達は人の情事を見て興奮こうふんする趣味しゅみでもあるのか?」

 青年の言葉に、男達から舌打したうちが聞こえた。その後、彼らの足音が遠ざかっていく。

(えっ、何かしてると思われた!? 違いますけどー!?)

 しかし今は誤解ごかいくより、ここからげたい。

「……行ったか。早くここから離れましょう。状況じょうきょうの説明はあとでしますから」

 なぞの美青年に手を引かれ、サヤカは彼について走り出す。しばらく走っていると、不意にこの町に見覚えがある気がした。

(ここって、もしかして……ううん、確かに……)

 ゲーム『星の聖騎士せいきし』の舞台――アルジェント王国のとある町に似ている……気がする。

 そこまで思って、サヤカは自分の考えに笑って首を振った。

(いやいや、夢よね~。あの世界でこんな美形に助けてもらうなんて、夢でしかありえない。ていうか私ののうみそグッジョブ! この調子で聖騎士達にも会えないかな~。……いや、会うのよ私! がんばれ私の妄想力もうそうりょく!)

 気合を入れたところで、ふと、自分の手を引く青年を見上げる。

「ところであなたは……誰ですか?」

 こんな美形、『星の聖騎士』には出てこない。いたら絶対攻略キャラのはずなのに。

 人気が少ないことを確認して、青年は立ち止まる。そしてサヤカの前にひざまずいて、こうべれた。

「あなたをこの世界に呼んだ者です。私のことは、ジルとお呼びください、サヤカさま」

 ジルと名乗った青年は、顔を上げてにこりと微笑む。その目映まばゆいまでの笑顔はまるで王子さまだ。そんな人に――いや、そんな人でなくても、さま付けで呼ばれるのは、庶民のサヤカには何だか居心地が悪い。

「あの、さま付けは、あんまり慣れてないんですけど……そんな身分でもないですし……」

「私は執事しつじとしてあなたをお守りする者ですから。私に敬語は結構ですよ」

「執事キャラ……ですって……!?」

 王子さまフェイスなのに執事。悪くない。むしろいい。すごく。しかしあまりにもサヤカの好みすぎて、自分の脳がおそろしくなる。

「やばい。脳が勝手に好みの美形キャラ創り出しちゃった」

「? 何だかよくわかりませんが、喜んでいただけたようで何よりです」

 これがサヤカに都合つごうのいい夢なら、自分は今『星の聖騎士』の主人公になっているのではないか。そんな期待をしてしまう。アルジェント王国の姫として生まれ、十二人の聖騎士に星の力を与える『聖女』で、そしてこれからそのうちの一人と恋をする――ということは。

(一人だけ選ばなきゃいけないの? そりゃ推しはいるけど、全員大好きだし選べない! ゲームだと何周もできるから選べるのに! つまりこれはハーレムエンドを目指すしか……?)

「サヤカさま?」

 自分の考えに、ついうっかり顔がニヤけていたらしい。ジルが不思議ふしぎそうに呼びかけてきた。小さく咳払せきばらいをして誤魔化ごまかし、サヤカは話を戻す。彼はサヤカを「この世界に呼んだ」と言った。『星の聖騎士』の主人公は異世界召喚しょうかんものではなく、生粋きっすいのお姫さまのはずだ。

「えっとそれで……私を呼んだって、どういうこと?」

「この国には、十二人の聖騎士がいて、彼らは星の力という特殊とくしゅな能力を持っているんです」

「知ってる知ってる! 聖女に星の力を与えられるんだよね!?」

素晴すばらしい。その通りです。あなたには――」

 その星の力を彼らに与えてほしい。そう言われるのだと思って、サヤカは期待する。彼の言葉と、自分の期待がみ合っていないことには気付いていなかった。

「聖騎士から星の力を奪い、彼らを倒してほしいのです。そのために、私が異世界からあなたを召喚しょうかんしました」

「なるほど、事情はわか――んっ?」

 事情はわかった、と言うつもりだったが、言葉の途中で、全然わかっていないことに気付く。何か今、彼から不穏ふおんな言葉を聞いた気がする。

「聖騎士達の、星の力を、奪う……? えっと、与える……じゃなくて?」

 期待を込めて言ってみたが、ジルは少し目をみはって首をかしげた。

「? 聖騎士達はすでに力を与えられています。だから力を奪うあなたを呼んだのですよ?」

「えっ、じゃ、じゃあ怪物かいぶつは? テュポンは? 倒さなくていいの?」

『星の聖騎士』の本編では、この世界に巣くう怪物の王テュポンがラスボスだった。テュポンを倒すために十二人の聖騎士に力を与えるのが主人公の役割。その主人公が今の自分のポジションではと期待していたサヤカだったが、ジルは真面目まじめな顔で言った。

「テュポンなら、三年前に聖騎士が倒しましたが」

「さ……三年前えええええ!? じゃあこの世界平和じゃん! 何でそんなとこ選んだの私の脳!? ……ん?」

 この展開に、サヤカはわずかに聞き覚えがあった。

 舞台は、怪物の王テュポンが倒されてから三年後のアルジェント王国。

「もしかして、ここ……『星の聖騎士2』の世界……!?」

(何でー!? あっ、もしかして『2』をプレイするのが楽しみすぎて夢に見てるの!? 『星の聖騎士』の世界ならストーリー完璧に覚えてたのにー!)

 基礎きそ知識ほぼゼロの世界だ。せめて誰かのストーリーをクリアしていれば、まだ何をすれば正解なのかわかったのに。

「そんな……私は、どうすれば……」

「あなたは奴らを倒すために、聖騎士の力を奪ってくださればそれでいいんです。厄介やっかいな星の力さえなければ奴らもただの人ですからね。当然私も協力しますから」

 サヤカの絶望的な声を聞いて、ジルがにこやかに、こともなげに言った。

「や、やだ! そんなの、絶対いや! そんな力ないし!」

「いいえ。あなたにはその力があります。私は『力を奪う者』を召喚したのですから」

「ていうか、力を奪うって何!? それ絶対聖騎士の敵にあるスキルじゃない!?」

「そうですね。ですから聖騎士達の力を奪って、奴らを倒しましょう」

 王子さまフェイスとかがやく微笑みではっきり言われると、まるでこちらが正義のようだ。が、絶対違う。聖騎士を倒すなんて、間違いなく悪役のやることだ。

「だーかーらー! それが嫌なんだってば! だいたい、何で私なの!?」

「質問の答えを聞いて、あなたが最適だと判断したからです」

「質問……? って、もしかして、ゲーム始める前の、あれ……?」

 そういえば、いくつか質問があった気がする。聖騎士を愛しているか、とか。

(聖騎士を愛してる私に力を奪わせるってどういうこと!? めちゃくちゃ性格悪いのでは!?)

「と、とにかく、そんな役目は嫌ー! それじゃまるで今流行の悪役令嬢れいじょうじゃん!」

「ええ、無論むろんあなたに不自由な暮らしはさせません。令嬢の地位もご用意しておりますよ」

「問題はそこじゃない! 嫌だって言ってんの! 聖騎士は私のあこがれよ!?」

 そう言った瞬間、ジルの瞳がれ、笑みが消えた。が、彼はすぐにその目を細めて微笑む。しかしその笑みは決して今までの優しいものではなく、底冷えするようなおそろしい笑顔だった。

(ひいっ……!)

「憧れ? ……に、あなたは憧れているんですか?」

 綺麗な人が怒ると怖いというが、事実だった。迫力はくりょくが違う。つい逃げそうになったが、サヤカの足はその場にまだあった。ジルの笑顔は確かに怖いが、憧れの聖騎士をこんな風にけなされるのは、我慢がまんできなかった。

「……そ、そうよ。だって私は、聖騎士達に勇気をもらって、それで今の私があるんだもの」

 たとえ次元の壁を越えていても、それはまぎれもない事実。

 銀色の瞳をぐに見上げ、サヤカは視線と声にいかりを込める。

「あの人達を貶すなら、あなたも許さないから」

 サヤカの言葉を聞き、ジルは一瞬真顔になって再び微笑んだ。今までの怖くて冷たい笑みではなく、どこか温かい――いや、あわれみを多分に含んだ、生温なまぬるい目でサヤカを見つめてきた。

「なるほど。あなたは今の奴らのことは知らないんですね。すみません、てっきり知っているものだと思っていたので、つい苛立いらだった物言いをしてしまいました」

「? どういう意味?」

「彼らは三年前とは別人なんです。――富と名声におぼれ、傲慢ごうまんになり、堕落だらくしきっている。もはや騎士と呼べる代物しろものではありません。とはいえ、私の力ではとても奴らには及びません。奴らを倒すには、星の力が邪魔じゃまなんです」

「そ、そんなはずない! 聖騎士は高潔こうけつで気高くて、何よりみんなを守る優しい人達で……」

「現在の聖騎士達を見ても、同じことが言えるでしょうか」

 サヤカの愛を試すような言葉に、ムッとする。

「言ーえーまーすー!」

「ご冗談じょうだんを」

 ジルはそう言って口元を吊り上げたが、目は笑っていない。

(こ、この人、本当に何なの!? 顔は良いし一見優しそうだけど、性格悪いし……)

 憧れの聖騎士をバカにされて気分が良いはずがないのに、わざわざ笑うなんて。

 サヤカの怒りの視線に気付いているだろうに、彼は話を続けた。

「それに……先ほど平和だとおっしゃいましたが、それも間違いです。確かにテュポンは倒されましたが、今現在、この世界が平和だとは言えません」

「ちょっと待って、どういうこと? だって、テュポンは怪物の王で、親で、怪物はテュポンから生まれてたんでしょ? それを倒したんだから、もう怪物はいないはずじゃない」

「おくqしいのですね」

「それはもう。やりこんだから」

 やりこみすぎて、一度危あやうく親にゲームを没収ぼっしゅうされそうになった。だから必死になって勉強し、成績上位者になったのだ。聖騎士のおかげで成績が上がったと親に主張し、許してもらった。

 ジルは「やりこんだ」というサヤカの言葉には少し首をかしげていたが、すぐに話を戻した。

「あなたの言う通り、三年前、聖騎士のおかげでこの世界から怪物は消滅しょうめつしました。ですが一年ほど前から、再び怪物が現れ始めたんです。その数はまだ少ないですが、徐々に増えてきています」

 また、どこかで覚えがある展開だ。

「そうだ思い出した! これも『2』の……」

 前作で聖騎士達はラスボスのテュポンを倒し、世界に平和が訪れた。しかし、三年後、再び怪物が現れたところから続編の物語は始まる。

「サヤカさまはこの状況をご存じなのですか?」

「ごめん、今ジルが言ったこと以外は思い出せない。っていうか、知らないん……だよね」

 しかしどうしてそこまでは知っているのかは、思い出した。

 前情報はできるだけ見なかったが、ゲームソフトの裏に書かれていたゲームのあらすじぐらいは読んでいる。

 主人公は――聖騎士の敵である、悪役令嬢。

 そこまで思い出して、サヤカは絶望でひざからくずれ落ち、地面に手を突いた。

「うっそでしょ……。夢なら敵じゃなくてもよかったじゃん……」

「夢ではありませんよ」

 ジルがはっきりとそう答えた直後。

 遠くで雷鳴のような、けもの咆哮ほうこうのようなものが聞こえた。しかしそのどちらも何か違う。聞いた瞬間、ぞくりと背筋せすじが寒くなり、不安におちいる。

「い、今の何……?」

 立ち上がってジルを見上げると、彼も笑みを消し、声がした方向を警戒けいかいするように見つめた。

「怪物の鳴き声ですね。ここからは距離がありそうですが……」

「怪物、って……」

 夢とはいえ、不安になる。……いや、これは本当に夢なんだろうか。

 ジルはふと何かを思いついた顔をして、こちらに笑いかけてきた。その目映い笑顔に、サヤカはなぜか不穏ふおんなものを感じた。

「……え? な、何その笑顔?」

「ちょうどいい。現状を理解するには、実際に見てもらうのが一番でしょうから。行きますよ」

 ジルはそう言って歩き出す。

「ええ!? 行くって、危ないんでしょ!? さっきの人達もいるかもしれないし……」

「ご安心を。先ほどの男達は、全員出払うでしょうから。怪物も遠くから見るだけですし、大丈夫ですよ。何の役にも立たずに死んでもらっては、私も困ります」

 どこか非情なひびきの言葉に、サヤカの胸に彼への疑念が深まり、恐怖きょうふさえもにじむ。

(や、役に立たなかったら、私はどうなるっていうの……!?)

 その表情を見て、ジルはにこりと優しく微笑み、サヤカに顔を近づけた。

「大丈夫ですよ。あなたのことは私が守ります」

 微笑まれて、サヤカの顔に熱が集まる。きっと彼は自分の顔の攻撃力をわかっていてやっている。サヤカは顔を逸らして耳をふさいだ。

「そ、そんな綺麗な顔といい声と甘い言葉にはだまされないんだから! 助けてもらったのは本当に感謝してるけど、あなたについて行ったらあなたの思うつぼじゃない。そんなの――」

「怪物が現れたということは、それを退治する聖騎士も来るということですよ? 会いたくないん――」

「行く――――っ!」

 ジルの言葉が終わる前に、自分でも驚くほどの大声を発していた。ジルも目を瞠っている。

「……欲望に正直すぎて、少々驚きました」

「う、うるさい! 私も今自分の大声にびっくりした! ごめんなさい!」

 ずかしかったが、とりあえず大声を出したことは謝っておく。

「では、行きましょう」

 ジルはサヤカに背を向けて歩き出す。その肩がわずかにれている気がしたが、サヤカが彼に追いついた時には、彼は作り笑いを浮かべているだけだった。



※次回:2019年2月14日(木)・17時更新予定

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