◇◇ プロローグ
転校という言葉は、なぜか特別だ。
特にフィクションでは、妙に誇張されていると思う。
やれ朝の通学路で衝突した子が転校生として現れたとか、やれ時期外れの転校生は潜入調査のために訪れたスパイだとか。とにかく物語に転校生が登場した後、何の変哲もないモブキャラで終わることなんて滅多にない。
そのせいか、転校生という肩書きには、謎の期待感が寄せられる。
昨日までの退屈な日常に一石を投じて、物語の幕開けを告げる存在であるかのように。
今日、この教室にやってきた、彼女のように。
「えーっと、
第一印象──普通に可愛い。
体形は長身で細い、薄く染めた茶髪は肩口までの長さ。
やや切れ長の目が特徴の顔には、過不足ない化粧が施されている。
声音はハキハキとしてよく響き、背筋の伸びた立ち姿が目に映える。
そんな彼女と──目が合った。
彼女は一瞬だけハッとして、しかし自己紹介を続ける。
「本当は新学期からこの教室に来る予定だったんですけど……ちょっと立て込んでいて、何日か遅れました。タイミングを逃して緊張気味ですけど、よろしくお願いします!」
我らがクラスの新しいお友達こと朝陽悠乃は、そう言って頭を下げた。
初登校が遅れた理由に言葉を濁したことが、かえって興味を惹く。
転校生で、可愛くて、事情がありそう。
朝陽悠乃はそういう『転校生』だった。
──季節は春、四月の上旬。
高校生として迎える二度目の新学期。
僕が転校するまで、およそ一ヶ月……という頃のこと。
もしこれが、転校生で幕を開ける物語だとしたら、それはきっと──
この教室に来た彼女と、この教室を出ていく僕の、長くて短いすれ違いの話だ。