【大増量試し読み】お姉さん先生は男子高生に餌づけしたい。1巻

裏 岸川先生は甘やかしたい 3

 土曜日と日曜日は部活の指導を行い、月曜日まで海原とは連絡を取らなかった。

 学校のある日に海原を見かけて声をかけたり、彼がパン食の日に栄養のバランスを摂るためにお弁当を一緒に食べようと提案をするのはいいとしても、休みに元気にしているかとか、そういうことを聞くために連絡するのは良くない。

 海原と二人で決めた、先生と生徒として接するためのルール。その中には、休みの日に連絡してはいけないというものはない――だが、もし海原が休みにも連絡してくるなんてと不愉快に思ってしまうといけないので自重している。

だがルールを厳守していると、いつ海原に声をかけていいのか分からない。

 体育の授業が終わったあとも、自然に話しかけられるときと、そうでないときがある。

 海原は同じクラスの上杉という男子と親しくしていて、体育の準備運動でも二人組を作っている。上杉が休んでいるときは私が代わりに海原と組んだのだが、生徒が休むことを期待するというのも教師にあるまじき話なので、それはあくまで緊急時の対処であると言わざるを得ない。

 他の生徒が休んだときはどうするかというと、三人組でやるので大丈夫だと言われる。海原は私と接することには慣れているので、一緒に体操をしても構わないのだろうが、年頃の男子は女性と接すること自体を意識して、忌避することも多いものだ。

海原はそういう意味では、肝が据わっている。やはり私がお姉ちゃんとして接しているので、身構えずにいてくれているのだろうか。

 よくよく考えなくても、海原が時々私といるときに緊張していたりするのは感じ取れるのだが、それは先生と接することに対して気を引き締めてくれているとか、そういうことなのだろう。

 しかし、海原にとって私だけが、近しい先生というわけではないと分かった。

杜山先生。去年から赴任された先生だが、まだあまり話していないから、どういった方なのか分からない。一度話してみたほうがいいだろうか。

海原との関係について急に聞いたりしたら、変な女だと思われてしまうか。そんなふうに、思わず考えが深みにはまってしまいそうになる。

 彼がお弁当を食べてくれるまでに私は何度も提案しないといけなかったのだが、杜山先生はすでに海原の家に行ったりする関係だったりするのだろうか。

 機会があれば杜山先生と話す機会が自然に見つかるかもしれない。なかなか機会がなければ、職員室で話しかけてみればいい。同じ学校の同僚なのだから。


 昼休み、今日は学食のテーブルを借りることにした。いつもは職員室で食事をしているのだが、たまに生徒たちで賑わう様子を見たくて、ここで食事をすることがある。

 海原に弁当を作ってきて一緒に食べたこともあったが、そのときは校舎の屋上に出た。人目につかないところを選ばなければならないのは仕方がないことだが、

 そのとき、学食のカウンターに二人の男子生徒が入ってきた――海原と上杉。

 じっと見ているわけにもいかないので、卵焼きを口に運び、食事を進める――そのとき、空野も友人と一緒にやってきた。

 しかし海原と空野は、近くを通っても言葉を交わすことはなく、別々のテーブルで食事をする。海原はカツカレーを頼んで、隣に座っている上杉から話を振られ、時々相槌を入れていた。

それを見て、良かったと心から思う。友達が少ないと言っていたから、今日も一人だったら、私が誘っていたところだ。

 それを期待して学食に来たわけではないが、海原と二人で食事をしたときのことを思い出してしまうと、少し胸が切なくなる。

「あ、あの……岸川先生、私たちもご一緒していいですか?」

「ん……ああ、席は空いているから遠慮はいらない。どうぞ、座りなさい」

 私が担任をしている2年D組の女子生徒たちが声をかけてくる。私が一人なので、寂しいと思ってくれたのだろうか――という予想は、少し外れていた。

「良かった……私たち、さっきから声をかけようか迷ってたんです、芽瑠お姉さま」

「ちょっ……な、何いきなり先生のこと名前で呼んでるのよ、それにお姉さまとかフライングしすぎ」

「ふふっ……まあ、私の方が年上であることには違いないが。少し照れるから、岸川先生と呼んでもらえるとありがたいな」

 私自身は普通の受け答えをしているつもりなのだが、三人の女子生徒はなぜか感激してくれているようで、緊張した面持ちで私を囲むように席に座る。

「岸川先生、そのお弁当って自分で作ってきてるんですよね。凄い……」

「昔から料理は嫌いではなかったからな。みんなも作ってみたいのなら、教えることはできるが……」

「っ……そ、そんな、芽瑠お姉さまにお料理を教えていただけるなんて……そんなこと、恐れ多いです」

「先生と仲良くしたいのか、そうじゃないのかどっちなの……すみません、この子、岸川先生に一年の時から憧れてたみたいで」

「そうか。それなら、こうして一緒できて良かった」

 答えながら、私は海原の様子を見る。遠くの席にいて、視線も合わない。私がここから見ていることに、彼は気づいていない。

カツカレーは野菜があまり摂れないから、サラダを頼むようにと言ったが。ちゃんと、守っていてくれることが嬉しかった。私が言ったからとか、そういうわけではないかもしれないが、それでも。

 早食いをしないようにとも言ったが、海原は上杉もいるからか、少し早めのペースで食べていた。それについては友達付き合いにおいては重要なことなので仕方がない。

 遠くから見ているだけでも、何か胸が満たされるものがある。話すことができなくても、見ているだけでもいい。そう思うのは、一方的な押しつけだろうか。

海原たちは先に食べ終えて学食を出ていったが、私は女子生徒たちと話をして、昼休みが終わる少し前に学食を後にした。

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