【2022年10月20日(木)発売!!】じつは義妹でした。4 ~最近できた義理の弟の距離感がやたら近いわけ~

第2話「じつは義妹にまさかまさかの出来事が……」(1)

 さて、『まさかまさかの出来事』が起こる二時間ほど前。

 放課後、演劇部の部室——ここでもちょっとした『まさか』があった。

 俺が部室にやってきてすぐ、部員全員が部室の真ん中に設置されたテーブルに集められた。なにやら重々しい空気が漂っている。

 廃部の危機を脱したというのに一体なにがあったのか?

 俺含め部員たちが戸惑う中、この重たい空気を惜しみなく垂れ流している張本人は、全員がそろったところでようやく口を開いた。


「二十四日のクリスマス・イブ……終業式の日の昼過ぎからですが……クリスマス会兼二学期お疲れサンタ祭りをやりま〜す……」


 この世の不幸を全て背負しょい込んだような顔でそう伝達したのは、我が演劇部の部長こと、とにかく明るい西山にしやま和紗かずさである。

 今はこれみよがしに暗いが、これが俺にとっての『まさか』であった。

 一人で三人分うるさいはずの西山がやけに暗い——そんなことがありえるのか?

 かえって不気味である。

「なにか用事があって参加できない人は西山のところまで来てくださ〜い……」

 ——なんと言えばいいか、激しく参加したくない……。

 なんだかすごく楽しくなさそうな催しだ……。不幸を共有させられそうだ……。

 それよりまず『お疲れサンタ』祭りってなんだ?

「詳細はプリントにまとめておきましたので確認しておいてくださ〜い……。——じゃあ私はちょっくら職員室に行ってきま〜す……」

 西山はよろよろと立ち上がって部室を出て行った。

 さっそく事情を知っていそうな副部長の伊藤いとう天音あまねに声をかけてみるか。

「伊藤さん、西山あいつ、妙にテンション低いけど、なんかあった……?」

「ええ、まあ……和紗ちゃん、クリスマスのことでちょっと……」

 伊藤は苦笑いを浮かべ、声を潜めた。

「じつは、和紗ちゃん、クラスでいつも仲良くしてる友達が二人いるんですけど——」


 ——今日の昼休み。


『——クリスマスの予定? あ、ごっめ〜ん! 私、カレピくんと予定があって〜……』

『うちもカレシと予定があるから、誘ってもらったのにごめんね、和紗〜……』

『え、あ、そうなんだね? 彼氏くんか〜? いいじゃんいいじゃ〜ん! ——……で、二人、いつの間にカレシできたの?』

『和紗が合宿行ってるあいだに合コンがあって〜』

『うちらそこで知り合った男子から告られちゃってさ〜』

『へ、へ〜……合コンしたんだね〜? 合コンあるとか知らなかった〜……』

『ほら、和紗って私らと違って演劇部の部長で超忙しいっしょ〜?』

『いいなぁそういうの! うち、みんなでアオハルするとか超なんだけど〜!』

『そ、そうかな〜……。私的には、合コンとか彼氏とか、そっちがなんだけどなぁ〜』


 なんだけどなぁ〜……けどなぁ〜……なぁ〜……なぁ〜……——

 

「——ということがありまして……」

 ——なるほど。

 まとめると、か……。

 羨ましい……いや、どっちかっていうと「うらめしや〜」だな……。

「で、俺たちはあいつの慰霊会兼鎮魂祭に付き合わされることになったのか……」

「あ、いえ、クリスマス会兼二学期お疲れサンタ祭りは演劇部の恒例行事でもともとあったみたいで、今日の昼休みの件がなくてもやるつもりだったらしいですよ?」

「しっかし、あの雰囲気じゃあな〜……。参加しないとたたられそうだし……」


 ——ちなみに、そのあと職員室から帰ってきた西山なのだが……——

「期末テストに向けて来週から部活停止です……。あと放課後の部室の使用許可はとっておきましたので、下校時刻までは勉強するために使っても大丈夫だそうです……。自主練する人は各自家でやってくだ……くだ……く、だ……さい——」

 そこで西山はいよいよ地面に膝をつき、手を地面についた。

「——それで、クリスマス会兼二学期お疲れサンタ祭りの件ですが……クリスマスは……クリスマスは……——クッソリア充どもがぁあああ〜〜〜っ! うわぁ〜〜〜ん!」

 涙ながらに連絡事項を伝えたが、悔しそうに地面を叩いているところがなんとも無様で見てられなかった。

 俺は西山に気を使って(?)話しかけることはしなかったし、周りの部員たちもおろおろと声をかけづらそうにしていた。

 ありゃ声かけるのムリだって……。


       * * *


 部活の中盤、一息つきたかったので伊藤に一言断って俺は廊下に出た。

 晶たちが芝居の稽古に励んでいるのを尻目に伊藤と一緒に雑務をこなしていたのだが、なにせやることが多くて敵わない。

 伊藤は主に俺の苦手な細々とした物の管理や書類作成、台本の準備などをしてくれている。

 一方の俺はというと力仕事がメイン。大道具や小道具の作製が多く、たまにうちで専門家の親父に訊いたりしてものづくりに励んでいた。

 まあ、すっかり慣れたものの休憩は大事。トイレを済ませ、自販機で缶コーヒーで一息ついてから部室に戻った。

 すると、廊下にひなたがぽつんと佇んでいた。

「あれ? ひなたちゃんも休憩?」

「あ、いえ……涼太先輩に用があって……」

「俺に用? なに?」

 最近の俺たちの関係からして、ちょっと気まずいが、なるべく明るく振る舞った。

 ところがひなたは「あの、その……」と自信がなさそうな感じで口籠る。

 さっきまで堂々と主役を張っていた女の子にはとても見えない。

 今は自分に自信がない、か弱い女の子。こっちが「頑張れ!」と応援したくなる。

 すると、胸の前でちょんちょんと人差し指同士を合わせながらようやく口を開いた。

「ク、クリスマスの件です……上田家うちでやる、いつもの……」

「あ、ああ、そのこと……?」

 朝のうちに光惺には断っておいたが、まだひなたには伝えていなかったな。

「お兄ちゃんからLIMEが入ってて、その件で私と話したいって……なんですか?」

 光惺のやつ、これまた中途半端なLIMEを……。

 そこまで送ったなら俺が断ったところまで伝えてほしかったのだが。

「ごめんひなたちゃん。今年は家族で過ごすことになって、断ろうと思ってたんだ……」

「えぇっ⁉︎ あ、そ、そうなんですか……?」

「毎年お世話になってたのに、ごめんね……?」

「いえ、そういう事情ならいいんです……。でも、良くないといいますか……」

 ひなたが困ったように俯いた。

 やはり楽しみにしてくれていたのか、落ち込んだ顔をしているようにも見える。

「だから今年は光惺と二人で楽しんで——」

「あのっ!」

「はいっ⁉︎」

「だったら二人でご飯に行きませんかっ⁉︎ クリスマス前に二人きりでっ!」

「え、あ……はいっ⁉︎」

 突然のこの申し出に俺は心底驚いた。

「わ、私とじゃ、嫌ですか……?」

 ひなたは顔を真っ赤にしながら、気まずそうにまたちょんちょんと指先を合わせる。

「い、嫌じゃないよ! わかった、じゃあご飯行こう!」

「は、はい! よろしくお願いします! また日にちとか場所はご相談しますね⁉︎」

 俺が「うん」と頷くとひなたは急いで部室に入っていった。

 ——とりあえずひなたちゃんに嫌われてなくて良かった〜……。


 ひなたからの唐突な申し出に多少気後れしてしまったが、こうして俺はひなたと二人で食事に行くことになった——


       * * *


「——てことで、クリスマス前にひなたちゃんと出かけることになったから」

 部活が終わったあと、俺は晶と結城学園前駅に向かいながら、先ごろのひなたとの件を

報告した。

「兄貴、それって……ひなたちゃんとデートっ⁉︎」

「違う! 一緒に飯を食いに行くだけだ!」

 ひなたは俺のことが好きではないことはわかっている。

 単純に、彼女は良い子で、昔から俺のことを信用してくれているのだ。

「でももしひなたちゃんがデートのつもりだったら……」

「やめろ。なんか人から言われると余計に意識しちゃうから……」

 すると晶は「あれ?」と腑に落ちない顔をした。

「でも、ひなたちゃんって……あれ……?」

「ん? どうした?」

「あ、ううん! なんでもないのだっ!」

「のだ……? あ、そう……?」

 晶は真っ赤になって慌てているが、なにかを隠しているのか?

「でも、そっか……。ご飯に誘われたってことは、べつに嫌われてなかったんだね?」

「そこが一番ほっとしたポイントだ……」

「僕はてっきり兄貴がひなたちゃんになにかしたんだと思ってた」

「そんなはずないだろ? これでもだいぶひなたちゃんには気を使ってるんだぞ?」

「本当かなぁ〜? 男友達だと勘違いしてお風呂に誘ったりしてない?」

「んな勘違いするかっ! 四年の付き合いでなんで今さらっ!」

 冗談半分でそんなことを言ってきたが、とりあえず晶も少し安心したらしい。

「それともう一つ報告があってな——」

 俺は今朝決まった勉強会について晶に話した。

「——ってことで、来週から光惺たちと四人で勉強会をすることになったんだ」

 星野が光惺になんちゃらな情報は伝えず、端的に事実だけを話しておいた。

 すると今度はなぜか訝しむような視線を向けてくる。

「へ〜、女子とね〜……。二対二か〜……。楽しそ〜……」

 どうやら勉強会を合コンかなにかと勘違いしているらしい。

「うちのクラスの月森って子が理数得意で一緒に勉強するってだけだからな?」

 多少言い訳がましい感じになったが、本当に、なにも、恋愛要素的なものはない。

 あるとすれば光惺のほうで、俺は下手に首を突っ込んだことを今さら後悔していた。

 ——星野さんに助け舟を出したのはあまり良くなかったじゃないか……?

 ひなたにこの件を話すかどうかも迷う。

「ねえ、その月森さんって可愛いの? 可愛いの?」

 俺の制服の袖を引っ張りつつ、プクッと頬を膨らませている。

「可愛いというより美人かな? 文系コースじゃ珍しいけど、理数が得意らしいぞ?」

 俺はあっさりと答えたが、晶はさらに面白くなさそうな顔をする。

「むぅ〜……。美人の理系女子リケジョかよ〜……」

「理系女子って感じはしないけどな? まあ、あまり話したことないけど」

「性格は? どんな感じなの?」

「まあ、ちょっとドライな感じ? とっつきにくいっていうか、まあそんな感じ……」

 ——なんとなく晶と最初に出会ったころを思い出した。

 そういえば晶も会ってしばらくはとっつきにくいやつだと思ったが、逆に俺からとっつきまくったのであまり気にならなかった。……まあ、弟だと勘違いしていたからだが。

 ただ、月森のとっつきにくさとは少し違う。

 月森はミステリアスな雰囲気で、どことなく冷めていて、感情をどこかにしまっているようで、晶のような隙や気安さがない——そういうとっつきにくさだ。

「むぅ〜むぅ〜! 兄貴のその顔、さては月森先輩が気になってるなっ⁉︎」

 晶が素直で可愛くて良かった。……まあ、たまに素直すぎて可愛すぎるのだが。

「いいや、つくづく晶が妹で良かったな〜って思っただけだ」

「な、なんだよ、いきなり……! そんなこと言われても僕は誤魔化されないぞ! 兄貴、その月森先輩のこと——」

「ただお前を褒めてるだけだ。なにも誤魔化してない」

 やれやれと晶の頭を撫でると、「もう」と言って、真っ赤になって口を尖らせた。

 ただ、晶の頭を撫でながら少しだけ月森のことが気になった。

 月森にもそれなりに交友関係はあるようなので、もしかすると女の子の前だけ、友達同士なら、あるいはもっと違う表情を見せるのかもしれないが——

「——月森、もっと笑ったらいいのにな……」

「むぅ〜むぅ〜むぅ〜! 兄貴は美少女禁止ぃーーーーーーっ!」

「……はい? なんで急に禁止令が出た?」

 さっきから「むぅ〜」のスリーカウントは気になっていたが……義妹の顔も三度まで?

「兄貴の周りは美少女が多すぎるからっ!」

「それ、自分も含めてって言いたいのか?」

「ぼ、僕は、美少女とかじゃないし! 男っぽいし、誰かさんが弟って勘違いしちゃうくだいだし……、べつに可愛くないもん……」

 声が尻すぼみになっていく。

 まったく、こっちは可愛いすぎて困っているというのに……。

「転校初日に三年からナンパされてただろ? ひなたちゃんと一緒に校門の前で……」

「あれは、ひなたちゃんが可愛いから」

「それもそうなんだけど、晶だって——」

 ——と、言いかけたところで、急に誰かが俺たちのところに近づいてきた。


「——あ、やっぱり。姫野ひめの晶さん、だよね? 良かった〜! ここで待ってて正解♪」


 知らない女の人だ。キャリアウーマン風のスーツ姿の三十〜四十代くらい。

 おっとりとした美由貴さんとはまた違った美人だ。

 ——美少女禁止令が発令されたと思ったらすぐにこれか……。

 まあ、美少女ではなく美女だし、俺ではなくて晶に用があるらしい。

 その晶に目配せすると小首を傾げている。……晶も知らない人のようだな。

「あ、いきなりごめんなさい。私、こういうものなの——」

 ——と、女性はポケットから名刺入れを取り出すと、手慣れた感じで名刺を取り出して名刺入れの上に置き、そっと両手で晶に差し出した。

 晶は「どうも」と名刺を受け取ると、怪訝そうな顔でそれを眺めている。

「君はお兄さんだよね? たしか、真嶋涼太くんだったかな?」

「はい、そうですが……」

 俺も晶と同じように名刺を渡される。おそらくついでなのだろうが、人から名刺を渡されたのは人生初だ。その丁寧な渡し方に「これはどうも」と思わずかしこまる。

「株式会社、フジプロA……?」

 頂戴したばかりの名刺に目をやると、聞き慣れない社名の下には『新田にった亜美あみ』と名前が記されていた。役職には『マネージャー』とあるが……マネージャー?

 マネージャーってまさか……⁉︎

「はじめまして。芸能事務所フジプロAの新田亜美と申します。よろしくね。——あ、二人ともちょっとだけお時間いいかな?」

 新田さんはそう言って、にこっと笑ってみせた。

 ——が、まだこの時点では『まさか』の出来事である。

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