プロローグ

 ──ぼうけんしや

 それは、己と仲間を信じて地下迷宮ダンジヨンたんさくする者。

 それは、強大なものいどむ者。

 あるいは、人々の困りごとを解決したり、魔術のしんおうを求めたり、神秘の世界へちようせんしたりする者もいるだろう。

 そして危険な冒険を達成すれば、きよまんの富と名声が得られるという。

 そんな冒険者になる夢を見て、きみは冒険者ギルド支部〈青空の船出亭ブルーノーズ〉をおとずれた。

 ここに来た理由は、初心者にもサポートが手厚いという評判を聞いたからだ。これから冒険者になろうという者にとって、それが本当ならばありがたい。

 入り口のスイングドアを押し開けて入ると、そこは広いホールになっていた。

 向かって左手は、テーブルがいくつも並ぶ食堂けん酒場、右手は冒険に役立つ道具類をはんばいする雑貨屋だ。

 そして正面にはカウンターがあり、近くにらいしより出されたけいばんかかげられている。

 それぞれの場所に、武装した冒険者らしき男女がおり、食事をしたり、情報こうかんを行ったりしているようだ。うわさ通り、活気のある冒険者ギルド支部らしい。

「いらっしゃい」

 そんなけんそうって、正面のカウンターから、眼鏡をかけたたんせいな顔立ちの男性が声をかけてきた。

「おや、初めてさんですね。お仕事の依頼ですか? それとも、冒険者としての登録を?」

 カウンターの男は、このギルド支部を訪れる人々の顔を一通り覚えているのだろうか。にゆうな表情は見る者の気持ちをおだやかにさせ、知性あふれるひとみは安心感をあたえてくれる。

 きみはカウンターへ歩み寄り、「冒険者になりたい」ことを告げた。それを聞き、眼鏡の男性は小さく微笑ほほえむとうなずく。

「冒険者として活動するのは、初めてですね? 私は当ギルドの支部長、ロッソと申します。ようこそ、〈青空の船出亭ブルーノーズ〉へ。かんげいしますよ」

 ロッソと名乗った男性は、諸注意を述べると、ギルド登録証を差し出した。そこに名前を書くだけで、冒険者として登録されるらしい。

「冒険者ギルドの役目は、依頼人から仕事をけ、それを所属する冒険者へ優先的に伝えることが基本となります。冒険のじようそうなんしたり、場合によっては死に至った場合、救助や死体の回収も行っていますが……基本的には依頼すいこう中の生き死にに責任は負いません。よろしいですね?」

 そこだけは笑みを消し、しんけんまなしで伝えてくる。

 だが、冒険者を目指すきみの意志は固い。

 大きく、はっきりと頷くと、きみはカウンターに置かれていたペンを手に取り、ギルド登録証に自分の名前を書き記した。

「おお、新人か? がんばれよ」

 そんなきみの様子を見て、通りかかった背の低いひげづらの男が言った。それできみの存在に気づいたのか、何人かの冒険者が「しっかりな」「なにかあれば聞いてくれ」などと声をかけてくれる。

 中には、するどい目を向けてくる者もいたし、さげすむように鼻で笑う者もいたけれど。

「冒険者同士、ライバルでもありますからね。でも、みんな気のいい連中ですよ」

 言いつつ、支部長のロッソはしようかべた。

 そしてそのとき、きみはあることに気づく。

 どうしてきみが冒険者への道を選んだのか、だれも問わない。

 この街の出身なのか、よその国から流れてきたのか、はたまた人間以外のじんしゆなのか。自由人たる冒険者は、そんなことは気にしない。

 たとえ異世界から転生してきたと言っても、きよぜつする者はいないだろう。

 そして、さっそく仕事をしたいことを告げると、ロッソは満足げに頷く。

「積極的なのはいいことです。でも、いきなり危険度の高いお仕事をお願いするわけにもいきませんからね。それに、ひとりで冒険に出るのは危険すぎます。まずは、仲間をつのってパーティを組むほうがいいでしょう」

 眼鏡の支部長は、そう言ってホールにいる冒険者たちを見やる。

「ギステルドさん、新人さんなんですけど、お任せしていいですか?」

 その言葉に、黒板に書かれた今日のオススメメニューを見ていた背の低い男がり返る。

 さっき声をかけてくれた、ひげ面の男だ。

「おう、さっきの新人さんか。いいぞ。仲間が増えるのは大歓迎だ」

 口のはしに少しだけ笑みを浮かべ、ひげ面の男──ギステルドは二つ返事で請け負う。

「まずは歓迎に飯を食おう。歓迎会だ。飯代はオレが持つよ」

 そう言って、ギステルドは大きくうでを振って手招きする。

 こうして、きみの冒険者としての第一歩が、始まった。

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