コンビニ強盗から助けた地味店員が、同じクラスのうぶで可愛いギャルだった 2

一章 再会(3)

   ◇ ◇ ◇


 駅から出たオレたちはバスに乗り込み、三十分ほど揺られて下車する。

 降りたバス停には小屋があった。よく漫画で見るやつで、主人公とヒロインがイチャイチャしたり、日常系漫画では女の子同士が楽しく話をする場所でもある。実際に見るのは初めてだ。妙に興奮してくる。ロマンに近い感動を覚えていた。

「おいポチ、行くよ」

「誰が犬だ」

 道に沿って歩き始めたカナの後を、慌てて追いかける。置いていかれたら迷子になってしまう。オレは歩きながら周囲を見渡し、感嘆のため息を漏らした。見事なまでに自然に囲まれていた。右を見れば雑木林、左を見れば田んぼが広がっている。

 前方を見れば何軒かの家を確認できるが、集落と呼ぶのが正しいか。

 昔、陽乃と田舎を題材にしたアニメを観たが、そのアニメにそっくりの環境だ。

「なあカナ、星宮の家はどの辺にあるんだ?」

「ちょい待ち。今確認してるとこ……」

 カナはスマホを睨みながら歩いていく。そして顔を上げ「あの家が集まっている地域から離れてるっぽい。山の近く。もっと自然に囲まれてる」と言いながらスマホの画面を見せてきた。星宮とカナのトークルームだ。そこには数枚の道案内用の画像と、星宮が実際に撮影したと思われる動画が貼られている。

「田舎っていいよな。解放感があるし、田舎暮らしに憧れる」

「実際は買い物に不便だったり、人付き合いが大変らしいけどね」

「夢のないこと言うなよ。……お、草原みたいになっている場所があるぞ。ああいう場所で走り回ったら楽しいんだろうなぁ」

「ぷふっ、まんま犬じゃん」

「……オレ、陽乃と星宮からも犬っぽいって言われるんだよな」

「うーん、言いたくなる気持ち、わかる。てか、言う。コロコロ感情が変わるし、思ってることすぐ顔に出すし……なんかリクは犬っぽい。ほいお手」

「舐めるなよ? オレは人間だ」

「お手したら飴玉あげる。イチゴ味」

「わん」

 差し出されたカナの手に、すかさず軽く握った右手を置いた。イチゴ味が好きなのだ。

「やだちょっと可愛いんだけど。バカにするつもりだったのに、可愛いんだけど。バカリクのくせに」

「いいから飴くれよ」

「そういうところが犬っぽいというか、リクっぽい」

 バカにしてるのではなく、カナは笑みを含んで楽しそうに言っていた。

 自然の空気感が影響しているのか、明るい雰囲気に包まれオレたちは進んでいく。

「そういえばさ、野菜の置き売り、見た?」

「見た。バスに乗っている途中だろ? 無人だったよな」

「アタシ、初めて見た。盗まれないのかな」

「そんな悪い人、田舎にはいないんじゃないか?」

「かもねー。コンビニ強盗する悪人とか、絶対にいないっしょ」

「フラグに聞こえるからやめろ」

 他愛もない話を繰り広げ、やがて星宮が住んでいる家に到着する。

 山裾の小高い場所に建てられた木造二階建てだ。瓦の黒ずみが年季を感じさせる。

 後ろには山に続く森、敷地内には背の高い草が生い茂っていた。

 自然に囲まれているというよりは、自然と共存している印象が強い。

 おかげで家の近くに立つ電柱が近未来にさえ感じられた。

「行こう、リク」

「…………」

「リク?」

「あ、ああ。大丈夫……行こう」

 もうじき星宮に会えるのかと思うと、さすがに緊張してくる。何を喋ったらいいんだろう。気持ちが先行して、何を喋るか考えていなかった。

 オレが行くことを伝えず、文字通り奇襲をかけたわけだが、迷惑をかけないだろうか。

 今になって常識的なツッコミを自分にしてしまう。

 考えがまとまる前に、カナが家の前に立った。

 オレは三歩ほど下がった位置から玄関のすりガラスの引き戸を見つめる。

「じゃあ呼ぶよ?」

「はい……!」

「ガチガチに緊張してんじゃん。頑張れ、黒峰リク」

 微笑みと共にエールを送ってくれたカナは、呼び鈴に向き合い、そっと触れ――押し込んだ。

 ジーーーッ。

 電子音が鳴り続ける。

「…………」

 夏の暑さとは関係なく手に汗が滲む。気持ちを落ち着けるため、深呼吸を繰り返した。

 家の奥からバタバタと慌ただしい足音が近づいてくる。

 すりガラス越しに人影が映った。女性の体格だ。

 あの身長に体つき、雰囲気……見間違えるがはずがない。

 モザイクがかかったようにはっきり見えなくても瞬時にわかる。

 星宮だ。

 ガラッと音を立て、すりガラスの引き戸が開けられた。

 現れたのは、やっぱり星宮で――――。

 明るい茶色に染められた髪の毛と、輝かしい雰囲気は以前と同じだった。

 白いTシャツにグレーの短パンという部屋着丸出しの服装も見たことがある。

 そんな星宮はオレの存在に気づくことなく、カナを見てパッと笑みを浮かべた。

「カナ! 久しぶり~会いたかったよ!」

「彩奈?」

「ん? どうしたの?」

「ううん、なんでもない。久しぶり。アタシも会いたかった」

 想像以上に元気だった星宮に、カナは一瞬だけ動揺するもすぐ笑みを浮かべて対応した。当然オレも戸惑っている。何もなかったかのような明るさだ。

 それから二人は再会を喜び合い、話を弾ませる。

「カナ、夏休み楽しく過ごせてる?」

「ぼちぼちかな。彩奈の方は? だいぶ田舎だけど問題ない?」

「最初は戸惑うことが多かったけど、今は楽しく過ごせてるよ。皆優しいし。カナもきっと気に入ると思う。……あ、数日間こっちに泊まるんだよね? 部屋は用意したけど」

「うん、よろしく。それで、さ…………もう一人のことなんだけど」

「え?」

 本題は彼女たちの再会ではない。オレと星宮についてだ。

 カナはオレの姿を見せつけるべく横にずれ、星宮の視線をオレに誘導する。

「あ」

 目が合い、星宮の口から抜けた声が漏れた。

 ――――ッ!!

 全身に鳥肌が立つ。

 星宮の目は――目の奥に宿る感情は、オレが知るものではない。

 嫌な予感が背筋に冷たいものを走らせる。

 警告音のように心臓の鼓動が激しくなった。

 手足が痺れ、現実に対する認識すら薄らいでいく。

 もう逃げることはできない。

 星宮は、オレの大好きな愛嬌がある笑みを浮かべ――――。


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試し読みは以上です。


続きは2022年6月17日(金)発売

『コンビニ強盗から助けた地味店員が、同じクラスのうぶで可愛いギャルだった2』

でお楽しみください!


※本ページ内の文章は制作中のものです。実際の商品と一部異なる場合があります。

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