2章 出会い②
右、左、右と
すでに手持ちのカードがない王子は楽しそうに私たちの
「どっちでもいいので早く引きませんか?」
私、一応王子の婚約者なんだけど……。
「少しくらい表情を変化させてから言ってください」
「確率は同じです」
「うう……。じゃあこっち!」
勢いよく引いたカードに描かれているのはバカにしたように笑うピエロ。がっくりと肩を落とすと、左手前にいた王子が
「じゃあ、次は私の番ですね」
負けるものかと背中に隠しながら二枚のカードを混ぜ、シュヴァルツの目の前に出した
「あ、私の勝ちです」
あまりの
「また負けた!?」
「弱いですね」
「シュヴァルツが強いんじゃない?」
シュヴァルツが強いとか言ってる王子も十分強いですからね。
睨むように二人を見たが、フイッと目をそらされた。
「次は違うのにしましょう! ババ抜きじゃ勝てません!」
「あ、ようやく
負けに負けまくった私に何度も付き合わされた男の子二人は、さすがにもう飽きたらしく、新しいゲームと言うとキラキラと目を
もちろん、輝いたように見えただけであって王子は変わらず
「にしても、ベルはすごいよね。こんなに
ギクリと肩が揺れた。
シュヴァルツも王子の言葉に同意するように頷く。
内心冷や汗をかく私に何かを感じたのか、王子の視線が
笑って誤魔化そうと顔を上げたら王子と目が合った。王子はすぅっと目を細める。
「これ、本当にベルが考えたの?」
「え、えええっと……」
「あ、違うんですね。そんなことだろうと思いました」
失礼なことを平然と言いやがるシュヴァルツは無視することにしよう。
「そ、そうなんです。実は私が思いついたものじゃなくて、教えてもらったものなんです」
「教えてもらったの?
「お……お父様です」
口をついて出た
「お父様が他国へお仕事で行かれた時に、この遊びを知ったそうで」
「なるほど」
この説明でシュヴァルツは
変なとこつかれたら王子相手に弁解できる気がしない……。
いまだに私を見つめる王子を不思議そうにシュヴァルツが見た。やがて
「まあ、いいや。じゃあベル。その外国のゲーム、ほかのも教えてよ」
「え、ああ、はい! 今度は
「「大富豪?」」
ゲームの名前を聞いた
可愛い……! と
「金を
「そんなブラックな遊びじゃないです!」
大富豪はババ抜きとは全然違うゲームだ。この二人ならすぐにルールを飲み込めるだろうが……。一つ息を
開始してから早五分。
「え、このカードって今出して良いの?」
「どうぞ、どうぞ」
「じゃあ私はジョーカーを出します」
「うふふふ、どうぞ、どうぞ」
にっこり……いや、にやりと笑った私を二人は
平静を
この
心の中で
二人がルールを完全に
「うふふふ」
「あ、終わった」
「え!?」
王子の方を勢いよく見ると、手元のカードがなくなり嬉しそうに手をヒラヒラと振っている。
「な、なぜ……!」
「ベルの絶望的な顔ってすごく可愛いよね」
「うわぁ……ディラン様、めっちゃ楽しんでますね……」
私の
シュヴァルツはドン引いたように王子を見るけれど、王子はただ楽しそうに肩を揺らしただけだった。
「まだ、まだ負けてない……!」
シュヴァルツの手持ちは五枚。
王子があがりで、次はシュヴァルツから始めることになる。私は最後まで取っておいたハートの二を
「同時に四枚出すのはありですか?」
「えっ? 四枚?」
「十のカードが四枚あるので、出してもいいですか?」
紙くず同然のハートの二を
「もう私って勝てない運命なんですかね?」
「うーん、運がないだけじゃない?」
「それ、
「私が教えたゲームだったのに……」
一度も勝てないってどういうことだろう。七並べも
「ほかの人とやってみようかな……」
「だめ」
ぽつりと独り言のように呟いたつもりだったのだが、王子に聞こえてしまっていたらしい。言葉を
「だってお二人とやっても勝てないんですもの」
「じゃあ勝てるまで付き合ってあげるからほかの人としてはだめ」
そこで、私が勝てるように手を抜いてくれるとかはないらしい。とにかく経験を積めと。
「でも、お父様相手なら勝てるかもしれませんし」
そう言うと、王子は
「家族と俺ら以外とは遊んじゃだめだよ」
「そもそも遊んでくれる友達がおりません……」
「ならいいや」
なにも良くないのですが!?
満足そうに頷いた王子をじとりと睨む。
「あ、シュヴァルツ様はもうお友達ですよね?」
さっとシュヴァルツに笑顔を向けると、シュヴァルツは
「そんな
「嫌だとは一言も言っていないです。ただ、不思議な方だなぁ、と」
これは
私からすれば不思議なのはシュヴァルツの方だが。今日会話しただけでも
感情の読めない人なのは今も変わらないが、王子と話す時は楽しそうで、本人が気付いているのかは不明だが若干口角が上がっている。
そんなシュヴァルツの様子に、王子を主と認めていないだとか不仲だとかいう疑念はなくなった。シュヴァルツについて
王宮で王子が気軽に話せる人間がいることにほっとして、体の力が抜ける。
「……でも、楽しかったですよ」
ふいに眼鏡の奥の瞳と目が合った。
「誰かとカードゲームをするなんて初めてでしたし」
相変わらず無表情だけど、その嬉しそうな感じはなんとなく伝わった。王子も笑顔を引っ込めてじっとシュヴァルツを見つめる。
「……じゃあ、また遊べばいい」
「え?」
「秘密基地はバレてしまったんだし、遊びは人数が多い方が楽しい。だよね、ベル」
「そうですね! またいつでもいらしてください」
「側近も休みが必要だろう?」
ふんわりと