【レビュー】異世界で勇者となった若者たちが元の世界に帰還した“その後”を描いた異色作!? 第37回ファンタジア大賞《銀賞》受賞の、骨太ファンタジーが堂々登場!

【新作ラノベ先読み感想文レビュー】
今回はファンタジア文庫から6月20日に刊行された『勇者は使い捨てられて』です。みなさんの感想も聞かせてください!


 まるで、言わずと知れた名作映画である『ランボー』を彷彿とさせるような、人間ドラマとアクションが巧みに組み合わさった作品が、この令和の時代にファンタジア文庫から登場した。戦争から帰還した兵士の苦悩や孤独、といった重いテーマを見事にファンタジーと融合させて、質の高く読み応えのある骨太な物語に昇華させているというのが、本作の最大の魅力といえるだろう。

 異世界で英雄的な活躍を果たした主人公・高砂は、戻ってきた地球で大学生にはなれたものの、勇者としての活躍が就活では全く評価されず内定がなかなか出ない。この自分が人生を懸けたことが社会に必要とされないやるせなさの描写が生々しくて、一気にキャラクターに引き込まれるのだ。わかるよ……俺も就活では本当に苦戦したもの……。だがそうして現実に苦悩するのは高砂一人ではない。政府から使い捨てられた元勇者たちの怒りが爆発し、ついにテロという形で社会に反旗を翻し――!? と、とにかく続きが気になって仕方がない展開の連続で、あっという間に読み切ってしまった。

 普通ならこうした集団はただの「悪役」として処理されそうだが、本作は元勇者の不遇さがたっぷり描写されており、つい彼らにも感情移入してしまう。どちらが正義でどちらが悪なのか――読み進めるほどに割り切れない思いが高まっていき、のめり込んでしまうのだ。
 それぞれ固有の能力を持つ聖剣同士のバトルや、かつての敵だった魔王の娘との共闘など、ライトノベルらしい設定や展開がしっかり盛り込まれているのも嬉しく、また「戦争を終えた先、何のために生きるべきか」という勇者たちの苦悩に、ブレることなく最後まで向き合っている点に作者の誠実さを感じた。ともすれば社会派のハードボイルドなお話になってしまいそうなところに、独自の要素を積み重ね見事に現代らしいエンタメに昇華した異色作。今の市場においては珍しいタイプの作品かもしれないが、やっぱりこんな作品が出てくるから新人賞は面白い!

文:柿崎憲

ざっくり言うとこんな作品

1)かつて異世界で魔王と戦った勇者たちだが、地球に戻ってからは戦場のトラウマに悩まされ社会復帰も難しい状況に。そんな元勇者たちが自分たちを見捨てた社会に反旗を翻す!? という魅力的かつ異色の世界観設定。

2)昔の上官に命じられ、元勇者たちを止めようとする高砂。だが、戦争帰りの元勇者たちとの過酷な戦いの場で高砂は元戦友と再会してしまい……!? 魅力的な登場人物と、複雑な関係が濃密なドラマを描き出す!

3)勇者の力をさらに増幅させる聖剣。勇者ならではの優れた身体能力に加えて、それぞれが特殊な能力を持つ聖剣を駆使した勇者同士のバトルは超壮絶! アクションも十二分に楽しめる。

主要キャラ紹介

高砂 峰秀(たかさご ほうしゅう)
異世界での魔王軍との戦いで勇者軍の精鋭部隊に所属した元勇者。当時は『白昼の悪夢』の二つ名で恐れられていたが、現在は就活に苦しむうだつのあがらない大学生に。

サリステラ・アル・アルグンドー
終戦後、地球との親善大使として送られてきた魔王の第四王女。蜂起した元勇者たちの行動を探るため、高砂とチームを組むことに。火炎を使った攻撃魔術や傷を癒す復原術の使い手。

阿知波 典華(あしなみ てんか)
魔王戦争時に高砂と同じ部隊に所属した戦友。終戦後は行方不明になっていたが、元勇者たちによるテロ組織『黄昏無貌戦線』のメンバーとして高砂の前に再び姿を表す。

作品情報
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    勇者は使い捨てられて

    著者: 右弐 沙節   イラスト: あおあそ

    “使い捨てられた”者たちへ。生きる目的は、お前が決めろ――。

     異世界の征服を企む魔王軍と、地球人・異世界人連合軍の『魔王戦争』が終結してから五年。元エリート勇者の高砂峰秀は、“勇者”を必要としない平和な地球で就活に苦しんでいた。

     ある日、峰秀は戦時下の上官・御子柴美玲からテロリスト化した『無貌勇者』を壊滅させる任務に就くよう勧誘される。
     任地に赴く峰秀を待っていたのは、かつての戦友・阿知波典華だった。

     「ボクたちを忘れた社会なんて、破壊しよう。ボクにはキミが必要だ、峰秀」

     ――使い捨てられた勇者を突き動かすのは、大義に殉じた勇者を弔う復讐か、勇者が目指した平和そのものか。
     第37回ファンタジア大賞《銀賞》受賞作、堂々開幕!

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