【レビュー】「自分らしさとは何か」を問う。ギャルゲーを舞台にした、羨ましい(はずの)物語

ギャルゲー世界にニューゲームしたら、ヒロイン全員攻略された記憶があって修羅場です……

【新作ラノベ先読み感想文レビュー】
今回は6月10日に刊行された『ギャルゲー世界にニューゲームしたら、ヒロイン全員攻略された記憶があって修羅場です……』です。みなさんの感想も聞かせてください!


 ギャルゲー世界の主人公となり、現実には存在しないレベルの美少女たちに「本命は私!」とバチバチの取り合いを演じてもらえる。なんて羨ましい……。けれど、理玖はあくまでゲームをプレイしただけ。恋愛の実感はまるでないというのが、本作の面白いところ。愛の重さゆえに暴走する彼女たちに本気でツッコんだり、なんとか仲直りさせようと策を講じて逆に悪化させたりする彼の迷走ぶりには、思わず笑ってしまいます。

『ギャルゲー世界にニューゲームしたら、ヒロイン全員攻略された記憶があって修羅場です……』より

 でもそれは、当事者意識が薄いために、やることがズレてしまうせいなんですよね。そのズレ方が大きければ大きいほど、目が離せなくなるんです。考えてみれば、複数の人との恋愛ってギャルゲーでは前提と言えますが、現実ならトラブルは必至。テンパるのは無理もないことです。心安まる暇もない理玖はちょっと不憫ですが、純粋なゲーム世界ではない、この作品の舞台ならではのシビアさにニヤリとさせられました。

 ゲームの主人公と今の理玖は完全に同じとは言えず、性格も行動原理も異なります。そのギャップに足を引っ張られながら試行錯誤する姿は、ときおり苦しそうにも見え、読者としては非常にもどかしい気持ちにもなりました。彼にしかわからない葛藤を垣間見て、自分が同じ立場ならどう感じるかを考えさせられます。

 しかし、あるとき彼はすべてを吹っ切って動き出します。そうなってからが、この物語の真骨頂だと思いました。「ゲームのプレイヤーでも主人公でもないけれど、そのどちらでもある理玖」の行動は、とにかく痛快で胸に響きます。ギャルゲーを舞台にした「自分らしさとは何か」を問うこの物語は、ちょっと切なくて、でも爽快な読後感を味わえました。

文:安芸 沙織理

ざっくり言うとこんな作品

・最初から好感度MAXのヒロインたちが迫ってくる、ハーレムラブコメ?

・重いヒロインに対してツッコミが冴えわたる小気味良い展開

・なんだかんだでヒロインを放っておけない、主人公のアツい展開に注目!

主要キャラ紹介

登場人物

雪城姫乃(ゆきしろ・ひめの)
名門雪城家の一人娘。清楚でクール系の容姿のお嬢様。甘えたがり。
「ちゅきちゅき!」

吉良結衣(きら・ゆい)
現実に存在しない国のお姫様らしい。ギャルで甘やかしたがり。
「そんなに見ないで。デレデレになっちゃうぅ……」

如月若菜(きさらぎ・わかな)
代々官僚などエリートを輩出してきた如月家の娘。理玖との交流で何かに目覚めた。
「冷たくされると火照っちゃう」

湊理玖(みなと・りく)
プレイヤーだった記憶を取り戻し、ギャルゲー主人公に転生したことに気づいた少年。
「うぅ、どうしてこんなことに……」

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