【レビュー】花のように甘くて、雑草のように苦い――MIMIの名曲『ハナタバ』が小説に

『ハナタバ』書影

【新作ラノベ先読み感想文レビュー】
今回はMF文庫Jから5月23日に刊行される『ハナタバ』です。みなさんの感想も聞かせてください!


 中学時代、交際していた女の子がいた。同じ部活動に所属していて、オタク話で盛り上がっていたのだが、程なくして破局。別の高校に行ってからは、成人式の場で姿をチラ見したくらいしか縁がない。つまり、もう出会うことはない関係になっている。

 しかし、彼女が話していたオタク話――つまるところその子の推し作品について話をする機会があると、どうしても「あぁ、●●が好きだったやつだ」と頭の中を過ってしまう。もう中学時代から十数年経っているのにも関わらず。未練があるのかと思われるかもしれないが、恋愛感情なんてもうさらさらない。でも、その作品の話をするたびに、どうしても頭の中に思い出されてしまうのだ。

『カスミソウ』より

 そういうこともあるよなと思ってしまったのは、本作『ハナタバ』を読んだから。花を記憶のトリガーにして、いろんなことを思い出したり悩んだりしていく三人の姿が描かれており、「うんうん、あるある」と自分も某アニメのことを思い出しながら考えていた。

 とはいえ、自分の遥か昔に終わった恋愛の話と違って、三人の思いは現在進行形だ。これから花を見るたびに初彼のことを思い出す決心をした少女。ある想いを胸に、少女へ花束を渡そうとした少年。そして、ある花へのある種のトラウマを抱えた女性。そこに花の持つ意味が重なってきて、こんなにビターな読後感をもたらすなんて……!

 最後に補足ではあるが、原作楽曲となっている『ハナタバ』を知らなくても、本作は十二分に楽しめる。シックでビターな、大人の階段を一歩上るような物語を読みたい方は、ぜひ。

文:太田祥暉

ざっくり言うとこんな作品

1)2022年リリース、MIMIの名曲『ハナタバ』が小説化! あの楽曲の世界観に基づいた、心温まるラブストーリーが描かれる!

2)主人公となる三人にはそれぞれ、胸に抱える想いがあって……。「花束」をキーワードに、人への想いを見つめ直していく三人の姿に胸が打たれる!

3)運命の歯車が絶妙に絡み合って出来上がる、儚くてビターなラストは必見! 胸が温まること間違いなしな連作短編集をぜひ。

主要キャラ紹介

▼春花(はるか)
自分に自信のない女の子。爽のことが元々好きだったところ、彼から告白をされて付き合うことに。最初はどんどん彼氏にのめり込んで行ったが……。

春香

▼爽(そう)
いわゆるスクールカースト上位の男子。春花に一目惚れし、告白。交際に至る。いとこのかすみのことが気になっていて……。

爽

▼茉白(ましろ)
春花が通う、バラが置いていない花屋の店員。数年前に大学時代の同級生と結婚したが、事故によって一人遺されてしまう。

茉白

作品情報
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    ハナタバ

    著者: 此見えこ   イラスト: 春   原作・監修: Mimi

    大人気楽曲から生まれた感動のストーリー!

    初めて出来た彼氏の好みに合わせたい女の子・春花。
    隅っこに咲く雑草みたいな私は、自分を変えてでも好きでいてもらう努力が必要だから──『ハルリンドウ』
    従姉の少女・かすみに秘密の恋心を抱いている少年・爽。
    かすみから「好きな人ができた」と明かされ、その相手は自分では届きようがなくて──『カスミソウ』
    バラを置いていない花屋の店主・茉白。夫に先立たれ『バラを置けなくなった』彼女に、久々の同窓会の便りが届く──『ホワイトローズ』
    大人気楽曲から生まれた、悩みを抱く人たちが前を向くまでの花束を巡る3つの儚い物語。

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