「次にくるライトノベル大賞2024」で文庫部門5位にランクインしたのは、角川スニーカー文庫刊『誰が勇者を殺したか』! 今回はこちらを記念して、著者である駄犬先生へのインタビューをお届けします。
魔王を倒してから始まる異色のファンタジーはどのようにして生まれたのか? 予想もしなかった続編はどのように書かれたのか? 大賞にそろってノミネートされていた他の著作についてもお尋ねして、バラエティ豊かな作品を生み出せる理由に迫りました!

──「次にくるライトノベル大賞2024」で著作『誰が勇者を殺したか』が文庫部門の5位に入りました。今の感想をお聞かせください。
正直に言うと、去年4位だったのでランクダウンして悲しかったです(笑)。でもこれは、「既に来ている!」と思われているからだと、ポジティブに捉えることにしました。投票していただいた読者の皆様、ありがとうございました!
──勇者パーティーが魔王を討伐したが勇者だけが戻らなかったという事態からしばらく経って、改めて勇者に何が起こったのかを探ろうとするミステリアスな設定に誘われました。"その後"の物語を描こうとした着想はどこから生まれたのでしょうか?
"その後"の物語を描こうとしたのは、『壬生義士伝』(文春文庫)や『永遠の0』(講談社文庫)の影響ですね。こういう構成の小説は名作が多くて、やっぱり「インタビュー形式で過去のことを語る物語」というのが魅力的なのだと考えています。時間が経った後だからこそ言えること、に心が揺さぶられるんじゃないでしょうかね。
──勇者のアレス・シュミットが勇者であろうとして努力し続けるという成長のドラマを楽しめる上に、アレスが勇者になるまでにとある複雑な現象が起こっていて、ある意味時間SFのような面白さを味わえました。
この作品のベースとなっているのは『ドラクエⅢ』なんです。自分が『ドラクエⅢ』世代で、あのゲームでは勇者自身の物語らしい物語はほとんどなく、何も語らずに去っていった勇者のことがとても印象的だったんですね。彼は本当はどういう人物だったのかと。なので、SF的なあれはゲームシステムのメタなんです。ファミコン版はセーブデータがよく消えましたね。

──鮮やかなエンディングを迎えた『誰が勇者を殺したか』だっただけに、続編が書かれると知って驚きました。そして続編の『誰が勇者を殺したか 預言の書』を読んで「こう来るか!」と感嘆しました。当初から構想はあったのでしょうか。
まったく何にも考えていませんでした。裏ストーリーを書こうとも思っていませんでした。自分が考えたのは、「1巻で語られていなかったことは何だったのか」ということと、「他の勇者はどのような結末を迎えたのか」ということですね。アレスたちは理想に過ぎたので、もっと現実的な人間たちはどのように戦ったのか。敗れ去っていったとしても、やはり勇者は勇者だったのではないかと。
──アレスのパーティー仲間は剣聖レオン・ミュラー、聖女マリア・ローレン、賢者ソロン・バークレイがそれぞれに個性的で、アレスを最初は疑いながらもだんだんと認めていく展開が嬉しかったです。マリアなど聖女にあるまじきツンぶりだっただけに証言パートでの変貌は笑えました。こうしたキャラクターの造形ではどのように意識を配られていますか。
意識しているのは、キャラクターを明確に差別化してわかりやすくすることですね。最初に正統的なキャラとしてレオンを作り、その裏としてマリアを作り、人間らしいキャラとしてソロンを作ったという感じです。特にマリアは、真面目なエピソードが続くのを嫌って肩の力を抜いてもらうためにああいう風になりました。堅苦しい話になるのはわかっていたので(笑)。
──アレスという他人思いで真面目でひたむきなキャラに大いに惹かれました。駄犬先生の他の作品は、『追放された商人は金の力で世界を救う』(PASH!文庫)のトラオはプラグマティックで『モンスターの肉を食っていたら王位に就いた件』(GCN文庫)のマルスはどちらかといえば臆病です。『悪の令嬢と十二の瞳~最強従者たちと伝説の悪女、人生二度目の華麗なる無双録~』(オーバーラップノベルス)のセリーナは基本残虐でそれが勘違い方面に働いてしまった感じ。アレスのひたむきさを通して伝えたいことがあったのでしょうか。
どの作品でも「人間ってそんなもんじゃないかな」っていう気持ちがあります。だから、あまり人間離れしないように、嘘くさくならないように、「何故そうなったか」という部分を書くようにしていますね。自分は宮沢賢治の『雨ニモマケズ』が好きで、人としての理想としているので、アレスに関しては、その理想を投影している部分があるかもしれません。先のことは考え過ぎずに、ただ目の前のことに一生懸命になれる人物像です。

──先に挙げた作品に『死霊魔術の容疑者』(GCノベルズ)も入れた既刊の5作品すべてが今回の「次にくるライトノベル大賞2024」にノミネートされていました。とてつもない快挙だと思います。
正直、ノミネートされたからには、全部ランキング入りしたかったですね(笑)。ただ、各作品に票を入れて下さった読者の方々がいるということには励まされます。好きでいてくれる、忘れないでいてくれることは本当にありがたいです。自分は『誰が勇者を殺したか』で知名度を上げましたが、決してそれだけではないと思っているので。『誰が勇者を殺したか』を気に入って頂けたのなら、他の作品も是非読んでみて欲しいですね。入りとしては、『死霊魔術の容疑者』が良いかもしれません。
──これだけの作品に大勢のキャラクターを登場させながら、重なるようなところがなく誰もが個性的なキャラクターである点が素晴らしいです。特に思い入れのあるキャラクター、あるいは好きなキャラクター、または造形に苦労したキャラクターなどはいますか。
思い入れがあるのは、『追放された商人は金の力で世界を救う』のトラオですかね。本当の想いは内に秘めて、上っ面を最後まで貫き通すというところが気に入っています。好きなキャラクターはマリアです。同じ名前のキャラが『誰が勇者を殺したか』にも『モンスターの肉を食っていたら王位に就いた件』にも出てきますけど、両方とも勝手に動いてくれるので実に書きやすいです。造形に苦労したのは『悪の令嬢と十二の瞳』のセリーナですかね。時間経過と共に、内面の変化を描かなければいけないキャラクターだったので。
──以前は新人賞への投稿も行っていたとは聞いておりますが、その後にどのような経験を積まれてネットで小説を発表するようになっていったのでしょうか。「駄犬」というペンネームも気になります。
新人賞の投稿は15年以上前に2回ですね。1次選考も突破できなかったです。その後は特に何もなく、「小説家になろう」でWEB小説を読むようになって、5年くらいして、自分でも書くようになったと思います。駄犬というペンネームに深い意味はないんですよね。最初に書いたのが『モンスターの肉を食っていたら王位に就いた件』で、コメディだったので、あんまりカッコ良くないシンプルな名前にしたかったんだと思います。
──『誰が勇者を殺したか』の二重三重の仕掛けもユニークでしたが、『追放された商人』のトラオのパワープレイぶりと、その価値を知る者たちの涙なくしては読めない献身ぶり、『悪の令嬢と十二の瞳』の残虐であったはずの悪役令嬢による振る舞いの意外な波及ぶり、『モン肉』のマルスの巻き込まれては周囲が暴走して起こる事態のエスカレーションぶりと、どれも設定に意外性があってそこからの展開にもワクワクさせられます。こうした作劇のテクニックはどのように身に付けられたのでしょうか。
伏線を張って仕掛けを作っていくのは東野圭吾先生の影響で、人情的な物語の部分は浅田次郎先生の影響ですね。小説としては、このおふたりの影響を強く受けていると思っています。コメディの部分は漫画の影響ですね。例えば勘違い系は昔のヤンキー漫画に多かったので、そういう作品が参考になっています。ヤンキー漫画は自分が好きだったわけじゃなかったんですけど、弟が集めていて、それで読んでいましたね。
──今はライトノベルのカテゴリーで作品を発表して注目を集めています。ライトノベルについて何か思い出なり好きな作家や作品なりがあれば教えて下さい。
好きな作品は『ロードス島戦記』(スニーカー文庫)です。中学生のときに初めて読んだライトノベルなので。当時はそういうカテゴリーはなくて、ティーンエイジャー向けだったと思うんですけど。自分がライトノベルを出して、それなりに受け入れられているのは不思議な気持ちです。いわゆる、なろう系小説はそれなりに読んでいたのですが、ライトノベル自体は近年のものはほとんど読んでいなかったので。出版してから気付いたんですけど、ライトノベルとWEB小説は決して同一ではないように思えました。それでも何とかなって良かったなと(笑)。
──『誰が勇者を殺したか』に続編が登場し、『モン肉』は最新の4巻まで刊行されていますが、今後の執筆予定はどのようになっているでしょうか。「本屋大賞」への参戦と獲得も引き続きアピールしていかれるのでしょうか?
『誰が勇者を殺したか』と『モン肉』はしばらく継続します。後は『カナンの城』という小説も夏頃に出す予定です。『誰が勇者を殺したか』の第3巻はアレスたちの旅の始まりの話になりますね。挑戦してみたいジャンルはミステリーです。後はジャンルではないですけど、一般文芸にも挑戦してみたいですね。最近、失敗しましたけど(笑)。
「本屋大賞」にアピールはしないですけど、選ばれるようにはなりたいです。今のライトノベルにはクローズドな印象があるんですが、自分が若い頃はもっとティーンエイジャー向けで児童文学と一般文芸の狭間にあるようなジャンルでした。自分はどちらかと言えば、そういう読書の足掛かり的な物語を書いていきたいと思っています。それで本を読むのが好きな人を増やして良ければいいなと。「本屋大賞」はその先にあるものですね。「本屋大賞」は、それこそ、本が好きな人たちを増やして、本屋さんを救うような作品が選ばれて欲しいと思っているので。
──『誰が勇者を殺したか』に投票してくれたファンの人たち、他の作品も含めた駄犬先生の作品の読者たち、そしてライトノベル好きとそうでない人たちへのアピールがあれば最後にお願いします。
まずは投票して頂いた方々、ありがとうございました。次にくるかどうかは自分次第だと思っているので、これからも頑張っていきたいと思います。自分が目指しているのは、誰にでも楽しんでもらえる普遍的な物語の創作なので、できるだけ多くの方に読んで欲しいですね。ライトノベルが好きな人も、そうでない人も、読書が苦手な人にも。
──ますますのご活躍を楽しみにしています。本日はありがとうございました!
取材・執筆:タニグチリウイチ
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次にくるライトノベル大賞とは
「次にくるライトノベル大賞」は、次世代にブレイクするであろうライトノベルを一般読者自らがエントリーし、またユーザーの投票でその頂点を決めるアワードです。
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誰が勇者を殺したか
著者: 駄犬 イラスト: toi8
勇者は魔王を倒した。同時に――帰らぬ人となった。
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誰が勇者を殺したか 2 預言の章
著者: 駄犬 イラスト: toi8
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魔王を倒してくれる勇者を求め、何度も世界をやり直す預言者。幾度も世界を繰り返す中、とある街で金の亡者と噂される冒険者・レナードとその一行の最期に興味を抱いた預言者は彼を勇者と認めるのだが……。