今年も「次にくるライトノベル大賞」が発表となり、『かくして少年は迷宮を駆ける』が単行本部門で5位となりました!
そこでキミラノでは著者のあかのまに先生にインタビューを敢行! 度胸と機転で窮地を切り抜ける主人公はどのようにして生まれたのか…お話を伺いました。

──「次にくるライトノベル大賞2024」上位入賞おめでとうございます! まずは今の感想をお聞かせください。
とてもうれしいです。
嬉しすぎて、私の作品を推してくださった皆様に感謝してもしきれなくて申し訳ない気持ちにすらなっている有様です。
どこまでお返しできるか分かりませんが、作品を通してお返しできるように頑張りたいです。
──読者にストレスを与えることを極力避けることが昨今のスタンダードです。しかし本作の主人公ウルは、開幕時からストレスフルな環境に沈められます。そんな物語の始まりにした理由はあるのでしょうか?
読者へのストレスケアが昨今大きな課題となっているのは仰る通りだと思います。
一方で、超えるべき課題、トラブルは物語を拡げる上で不可欠で、そういったトラブルを後から継ぎ足して追加していくと読者へのストレスがかさむ結果になりかねない問題もあります(最初をストレスケアしすぎるとなおの事)。
なので、最も読者が状況を飲み込みやすい最初の導入部に、あとから付け足す必要がないほど高い目標を設定しておけば、物語を拡張する分の余白が大きくとれるという打算の結果でした。
言語化してみると偉そうですが、WEB版を書きはじめた当時は手探りでした。自分が望む限り書き続けられるWEB小説だからできた設定のようにも思います。
──ウルはチート能力ではなく、度胸と機転で窮地を切り抜けていきますよね。ウルという、何も持っていないけれども誰より強かでまっすぐな主人公が生み出されるまでの秘話を教えてください。
この話のコンセプトを考えた結果「持たざる者」が主人公になる必要があると考え、「才能」の要素を可能な限り排除してこうなりました。
また、「チート」はその世界における「異物」である必要性があるのですが、「異物」の役割はむしろヒロイン達が担っているため、ウルは敢えてそれを背負わせないようにしています。
本作では、「きわめて厳しい状況」「チート能力なし」それら昨今の流行りとは、異なる主人公の状況を読んでもらう必要がありました。「読むに耐えうる主人公」でなければ読んでもらえないと思いそこから逆算した結果、ウルという主人公が生まれました。
冷血漢でなく人情を持ち、子供らしい感性を律せる道徳が地盤にある。問題に対して悩めど、アクションが速い主人公。
才能や能力でストレスフリーに問題を解決できないかわりに、彼自身の精神性がストレスフリーな状況をもたらしてくれる必要がありました。
そういう意味で、ウルは本当に頑張ってくれてありがたいです。
──“名無し”を始め、本作は他の物語ではあまり描かれない下層の薄暗い部分がしっかりと設定されていることが特徴的です。このような世界観を創造され、設定された理由をお聞かせください。
まず主人公のデザインから決まった作品であり「持たざる者」である以上、立場も弱くある必要がある。という所から身分の設定が構築され、なぜ身分差があるのかという思考から世界観が構築されました。
なお、この手の設定における「差別」については、大きなストレス要素であり、作品のテーマからもズレる事になるため、必要な時以外掘り下げはしないように心がけております。(そもそも私があまり陰湿な展開は得意ではなかったという点もありますが)
なので、設定自体は重いですが、キャラたちはカラっとしています。
そもそも、主人公のウルがこれっぽっちもこの手の問題で打ちのめされない少年なので、差別を取り上げる意味があんまりないというのもあります。
──冒険活劇的なスピード感が気持ちいいウルのダンジョンアタック、つい引き込まれてしまいます。表現や描写において心掛けていることは何でしょうか?
現在進行形で頭を悩ませながら書いております……。
特にバトルについては非常に塩梅が難しく、ただただテンポよくしてしまうと、ボリューム不足で味気なく感じられてしまい、さりとて冗長ではまずいという問題があり、そこに気を配って執筆しています。
媒体の違いも意識するとWEBの時1話ごとに間が空く場合と、一気に書籍で読み進める場合とでも、やはり読者が受ける印象は変わってくるので、悪戦苦闘しながら書いています。
──実際にダンジョンアタック系のRPGをプレイしてきましたか?
ゲーマーと言えるほどではありませんが、それなりに多くのゲームをプレイしました。
ダンジョン系なら『世界樹の迷宮』はプレイしておりました。
それまでライトな難易度のRPGばかり経験してきたので、ただの雑魚モンスターの一体一体が油断ならず、険しい難易度で襲ってくるという経験が非常に体験となりました。もしかしたらそこらへんは本作にも影響があるかもしれません。
ダンジョンに限らず大きく印象に残り、本作に影響を受けているという点では『オーディンスフィア』かなと。
──作品や資料について、参考にしたものはありますか?
大変恥ずかしながら、私はあまり勉強が得意ではなく、勉強しなければと資料を購入しては有効利用できずに積み上げるのを繰り返してきたので、あまり参考になりそうにないかなと……。
そんな有様ですが唯一、有名な『映画脚本100のダメ出し ―傑作を生むハリウッド文章術』(フィルムアート社)は執筆時、意識せず使っていたテクニックを言語化してもらえているので、普段から持ち運び、暇を見つけては読むようにしております。
──父親のクズさ加減に容赦がないことも興味深いのですが、なによりも“精霊憑き”という妹のアカネが非常に印象的で、惹きつけられました。誕生秘話がありましたらぜひお聞かせください(なぜ彼女をあのように設定されたのでしょうか?)。
先に述べたように、ウルから徹底的に性格面のストレスを排除した結果、自発的に面倒事を引き起こすキャラではなくなったため、彼を外へと連れ出してくれるキャラとして、アカネが生まれました。
そしてそこから「問題のきっかけとなるキャラが敵でないなら、不愉快であってはならない」「アカネを取り巻く問題は容易に解決できるものであってはならない」「アカネ自身が世界観を広がる属性を有していた方が望ましい」と形作っていきました。
最初は物語のきっかけとしてのキャラでしたが、構築を進めるごとに活き活きと動いて、他のキャラ達にかかわってくれる、味のある子になってくれてうれしかったです。
──ウルと共に冒険者を目指すシズクは「授けられた能力」を始め非常に謎多き存在ですし、アカネの所有者となるディズもいろいろ裏事情がありそうで、先生の描かれる女性キャラクターは赤裸々なウルと真逆な印象を受けます。彼女たちの設定や魅力について、差し障りないところまでご紹介してください。
先の質問で書きましたが、世界の中心に立つ役割はヒロインたちが担っているため、あまり多くは語る事はできません……が、皆様のおかげで二巻をお出しできたので、二巻のメインヒロインであるディズについて少しだけ。
彼女はウルにとって加害者であり、対峙すべき敵であり、しかも圧倒的にウルよりも強く、更に浮世離れしていて色恋に疎い人間です。
何が言いたいかというと……ヒロインに据えておくにはこの上なく厄介な属性を、しかも複数有している少女であり、WEB版書籍版共に大変作者を悩ませてくれるキャラです……!
あらゆる意味で彼女に食い下がるのは至難の業であり、特に二巻はまだまだ素人に毛が生えたレベルのウルくんをいかに活躍させて、彼女を「ヒロインの座」に着席させるか、編集さんと一緒に苦悶の表情で考える羽目になりました……大変でした!
そしてディズのみならず、他のヒロインたちも非常に複雑な性質を有しており、それに本人も周囲も否応なく振り回されます。そんなたいそう面倒くs……大変「持っている」彼女たちに「持たざる」ウル少年が向き合って、ぶつかるかというところに注目していただければと思います。
強大な魔物のジャイアントキリングと、凶大なヒロインへのジャイアントキリングができるのか、ウルの悪戦苦闘をどうかお楽しみください。
次の巻でも、大変難物なヒロイン(?)が出てくることになると思いますので、どうかお待ちいただければ幸いです。
──常に窮地へ追い立てられていくウル、幸せになれるのでしょうか……?
彼の成功と幸せを心から祈っております(合掌)。
──今後の展開をわくわくと待ち受けてくださっている読者の方々へ、メッセージをお願いいたします。
今回の順位で、期待していただけている皆様が可視化されて、嬉しいやらプレッシャーやらで胸がいっぱいな状況です。
そんな小心者の作者ですが、ウル少年とその一行が皆様のワクワクに応えられるだけの大活躍をしてくれるよう、全力で頑張らせていただきます。
彼らの冒険にこれからも付き合っていただければ、それがこの上ない幸せです。
──ありがとうございました!
取材・執筆:マイストリート
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かくして少年は迷宮を駆ける 1 強欲の迷宮と借金まみれの新米冒険者
著者: あかのまに イラスト: 深遊
何も持たない少年は全てをかけて迷宮に挑む――これは冒険の物語!
迷宮大乱立時代。あらゆる経済が迷宮都市を中心に回り、我もまた栄光を掴まんと人々が迷宮踏破に夢を見る世界。
少年ウルは窮地に立たされていた。
一.借金を残して親が他界
二.妹が借金の担保にされる
三.買い戻したいなら金貨一〇〇〇枚
金もない。地位もない。力もない。
理不尽を超えるための何もかもを求め、全てを打開するため、迷宮で出会った魔法使いシズクと共に少年は迷宮へと足を踏み入れる。
迷宮を踏破し、魔物を倒し、賞金首を刈る。
地道にコツコツ実績を――などと言っている暇はない。
嵐のように迫る試練を乗り越え、凡庸な少年は迷宮を駆ける!