つぎラノ2024単行本部門5位『全滅エンドを死に物狂いで回避した。パーティが病んだ。』雨糸雀先生スペシャルインタビュー

『全滅エンドを死に物狂いで回避した。パーティが病んだ。』スペシャルインタビュー

今年も「次にくるライトノベル大賞」が発表となり、『全滅エンドを死に物狂いで回避した。パーティが病んだ。』が単行本部門で5位となりました!

そこでキミラノでは著者の雨糸雀先生にインタビューを敢行! 新感覚のジャンル【曇らせ】について大いに語っていただきました。

全滅エンドを死に物狂いで回避した。パーティが病んだ。

──「次にくるライトノベル大賞2024」上位入賞おめでとうございます! まずは今の感想をお聞かせください。

【曇らせ】系異世界ファンタジーといういささか時代錯誤な本作が、こうして多くの方々から応援いただけたことに心より感謝申し上げます。

本作は無双系でもストレスフリー系でもスローライフ系でもなく、流行りの要素があるとすれば、主人公が架空の創作作品の世界に転生する、ということくらいでしょうか。しかも、まだ半年前に1巻が出たばかりというものですから……これほど多くのご支持をいただけるとは、当初は夢にも思っていませんでした。

本作を選んでくださって、本当にありがとうございます。

──定められていたはずの全滅を回避した……のにパーティメンバー全員が病むというすごく恐い展開へ。冒頭から凄まじいとしか言い様のないこの物語、発想はどのように、どこから得られたのでしょう?

仲間を守るために命懸けで戦う主人公と、その傷ついた姿に涙するヒロイン──これ自体は、何年も前から数多の作品で繰り返されてきた王道展開です。私は昔から、アニメやマンガでそういうシーンに出くわすたび心を揺さぶられてきたクチでして。

ただその手の展開って、大抵は物語の通過点に過ぎないんですよね。戦いが終われば主人公はすぐに復活するし、ヒロインも元気に立ち直ると相場が決まっているものです。

でもそれって、すごくもったいないじゃないですか。

主人公のために悲しんで、苦しんで、理性と感情の狭間で涙するヒロインの姿を、もっと見てみたいじゃないですか。

そんな満たされない気持ちが原動力となって生まれたのが、この作品だったのかもしれません。

──この作品の舞台であるダークファンタジー世界につきまして、差し障りない程度で設定をお聞かせください。 

作中で明言した範囲だと、主人公が前世で読んでいたマンガの世界であり、日本人が考えたなんちゃってファンタジー……要はなろう系やJRPGのオーソドックスなイメージです。ただ魔物を無限に生み出す『ダンジョン』が世界各地に次から次へと発生しており、冒険者に代表される人々がダンジョンを攻略して機能停止させ続けなければ、いずれ魔物が地上にあふれかえって人類の住める場所はなくなってしまう、と一部の学者が警鐘を鳴らしています。

謂わば世界の仕組みとして、人類が魔物と永劫戦い続けなければいけないシステムになっている、という感じでしょうか。ゆえに原作マンガでは戦いの犠牲となるキャラクターが跡を絶たず、そのあたりがダークファンタジーと呼ばれていた一因だったようです。

──そのダークファンタジー作品のモブキャラクターであるウォルカへ転生した主人公、ヒロインたちの病みの原因ともなる彼は、先生にとってどのような人物または存在なのでしょうか?

クソボケ主人公です。

バッドエンドアンチのハッピーエンド至上主義者であり、人が喜んでいる姿を見れば自分も嬉しくなり、悲しんでいる姿を見れば自分も落ち込むような人間です。自分が体を張ることで仲間を守れるのなら、悩む悩まない以前に、考える過程すらすっ飛ばして本能的に命をベットすることができてしまいます。クソボケですね。

私はそういう、人のために体を張れる主人公がすごく好きです。昨今の主人公像としては、めっきり少数派になってしまいましたけどね。たぶん彼らが、私には絶対にないものを持っているからでしょうか……普通なら真似できないことを迷わずやってのける姿に、いつも目を引きつけられます。

──パーティメンバーのリゼルアルテ、ユリティア、アトリ、加えて聖女アンゼ。それぞれにウォルカにこだわる理由があって、それが濃やかに語られているからこそ病みにこれ以上ない説得力が生まれています。先生から見られました彼女たちの人となりを教えてください。

背景や方向性の違いこそあれ、全員ウォルカに激重な愛情を抱いています。

リゼルアルテは、ウォルカがいないと生きていけません。ユリティアは、ウォルカに贖罪することでしか己の存在意義を見いだせません。アトリは、ウォルカに身も魂もすべてを捧げることしか頭にありません。そしてアンゼは、ウォルカに必要とされるならどのようなことでも厭うつもりはありません。

四人とも、ウォルカのためなら世界を敵に回したって構わない子たちです。重い愛情が先走りすぎて、ウォルカの言動をもれなく深刻に受け止めてヤミヤミします。四者四様に依存し執着する姿を、作者の私も楽しみながら(あるいは苦しみながら)描いています。

──彼女たちの魅力を綴るために注意されていること、読者の方へ彼女たちをどのように伝えるかで心掛けられていることは何でしょう。

彼女たちの病んだ一面を出す際、ちゃんと『理性的であること』でしょうか。主人公の怪我に取り乱すなどの場合を除いて、理性を失って感情で暴走するような病み方は基本的に避けるよう心がけています。

理性と感情は、光と影のようなもので。主人公がどうして自らを犠牲にしてでも戦うのか、なにが主人公にとっての幸せなのかを理解し寄り添おうとする理性。そしてそれでも、もう傷ついてほしくない、無茶をしないでほしい、傍にいてほしいと願ってしまう感情。その対比から生まれる狭間にこそ、【曇らせ】は宿るのだと思っています。

──ウォルカを巡るヒロインたちの暗闘も見どころとなっていますが、ただ書かれるだけだと恐いだけのものになるところを、本当に程よいバランスで留めておられるものと思います。こうしたキャラクター同士の関係性を描く際、注意されている点はありますでしょうか?

先述の、ヒロインたちから理性を奪わないというのがひとつ。もうひとつは、ヒロイン同士の仲を険悪にしないことでしょうか。本作でいえばリゼル、ユリティア、アトリの三人はお互いを仲間として大切に思っていますし、聖女のアンゼについても、(1巻の時点では多少イザコザもありましたが)友人として非常に良好な関係です。

ヒロイン同士の仲が悪く、本気でいがみ合ったり主人公を奪い合ったりする姿は、やはり怖いものですから。

彼女たちにとって主人公は奪い合うものではなく、みなで共有し支えるもの……というくらいの塩梅をイメージしています。

──kodamazon先生のイラストでも各ヒロインの病み具合が描かれていますが、お気に入りの1枚はありますか?

kodamazon先生のイラストは私の性癖を貫く素敵な作品ばかりですが、3月発売予定の2巻は1巻からさらにパワーアップしており、1枚を選ぶことなどできないほどのラインナップになっています。

それでも読者様に向けて1枚を選ぶのであれば、2巻の最後の挿絵ですね。ぜひ手に取って確かめてみてください!

──ちなみに、先生はどのヒロインなら受け容れられますか(お付き合いできますか)?

私の好きな要素を詰め込んでるので、もちろん全員大丈夫です。

でも彼女たちには、やはり主人公だけを見てヤミヤミしていてほしいですね。

──ウォルカはヒロインの誰と一緒になったら幸せになれると思われますか?

順当にアンゼでしょうか。彼女は『ウォルカの幸せ』=『自分の幸せ』なクソデカ感情持ちなので、選択肢をミスってもバッドな展開になる可能性が一番低いです。

もちろんリゼル、ユリティア、アトリの三人だと幸せになれないとはいいませんが、こちらは選択肢をミスるとめでたく病み堕ち監禁エンドになるので、ウォルカは早いところ責任を取った方がよさそうです。

──物語の行方をはらはら見守ってくださっている読者の方々へメッセージをお願いいたします。

平素より、この作品を応援くださいまして誠にありがとうございます。

お陰様で、今月3/28に2巻が発売できる運びとなっています。このインタビューが公開される頃には、kodamazon先生の素敵な書影が解禁されているかと思います。2巻も手に取っていただければとても嬉しいです。

この作品が、隠れた【曇らせ】好きの隠れた需要を満たす一冊であることを祈っています。

全滅エンドを死に物狂いで回避した。パーティが病んだ。Ⅱ

──ありがとうございました!

取材・執筆:マイストリート

つぎラノ2024受賞作特集

文庫部門、単行本部門、それぞれ上位5作品をご紹介するとともに、受賞作作家へのスペシャルインタビューを公開中!


次にくるライトノベル大賞とは

「次にくるライトノベル大賞」は、次世代にブレイクするであろうライトノベルを一般読者自らがエントリーし、またユーザーの投票でその頂点を決めるアワードです。

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    • BookWalkerで購入する

    全滅エンドを死に物狂いで回避した。パーティが病んだ。

    著: 雨糸雀   画: kodamazon

    自分を犠牲に仲間たちを救ったら――みんなの感情(おもい)が重すぎる!?

    「――いやああああッ!? ウォルカ、し、死んじゃだめえええええッ!!」
    日本から転生した冒険者ウォルカ。ダンジョン探索中に突如強大な魔物に襲われた彼は、仲間を庇って瀕死の傷を負ってしまう。その瞬間ようやく気づいた――ここが前世で読んだダークファンタジー漫画の世界で、自分が仲間もろとも全滅するモブキャラだったのだと。
    バッドエンドを強く嫌うウォルカは、仲間のために死に物狂いで戦い奇跡的に魔物を撃破。片目片足を失いこそしたものの、パーティ全滅の運命を覆せたことに安堵していた。ところが、仲間の少女たちの様子がなんだかおかしくなってしまって――

    「今度こそ絶対に守るからっ!! だからお願い、見捨てないでぇ……!!」
    「わたし、ずーっと傍にいますから。――いいですよね、せんぱい?」
    「キミのために死のうって……そう決めたの」

    ハッピーエンド至上主義な転生者と、彼に激重感情を抱く少女たちの【曇らせ】異世界譚!


    【書籍版限定の書き下ろしエピソード2本収録】
    ・書き下ろしエピソード『ウォルカが死の淵から目を覚ましたときの話』
    ・書き下ろしエピソード『ウォルカが聖女全員から包囲網を敷かれる話』

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