【新作ラノベ先読み感想文レビュー】
今回は1月10日に刊行される『転生程度で胸の穴は埋まらない』です。みなさんの感想も聞かせてください!
もし異世界に転生したら、何をしたいだろう? 冒険者になってチート無双する? 田舎でスローライフを楽しむ? アイテム生産で一儲け? 貴族になって領地経営というのも面白そうだが、男ならば目指すのは美少女ハーレムだろう。
異世界に転生した主人公のコノエが求めたのも、絶対に自分を裏切らないハーレム。身勝手な欲望にも思えるが、親から愛されずに育った彼が願うのは「誰かに側にいて欲しい」という切実な思いだ。そんな鬱屈を抱えながらも魔術師の最高峰〈アデプト〉に上り詰めたコノエが、献身的な少女テルネリカとの出会いで変わっていくストーリーが心温まる。
貴族の少女テルネリカは、死病に侵されたわが身の治療よりも、迷宮から溢れた魔物によって危機に陥った領地の救援をコノエに願う。「何故、そこまで命を懸けられるのだろう?」と疑問を抱きながらも依頼を引き受けたコノエは、騎士団が手も足も出ない上位の魔物を討伐し、さらに数千人の領民を七日七晩かけて治療するという偉業を成し遂げる。アデプトとして超越した力を持ちながらも「自分には才能がない」と卑下する自己評価の低さが重症だ。強さとは裏腹に心の弱さを抱えるコノエと、可憐な見た目でありながら芯の強いテルネリカ、正反対な二人の交流に興味をかき立てられる。
故郷を救った恩人であるコノエに報いるため、テルネリカはメイドとして身の回りの世話をかって出る。孤独を恐れるコノエと、奉仕の心で尽くすテルネリカとの間に穏やかに流れる時間が優しく、温かい気持ちになる。しかし依然としてコノエの人間不信の壁は厚く、テルネリカの真意を幾度も疑ってしまう様子には、彼の心に刻まれた深い傷の痛ましさを感じる。
それでもテルネリカを中心に領民たちが町の復興に立ち上がる光景を目の当たりにして、コノエの認識が徐々に変わっていく。テルネリカの眩しい笑顔がコノエの暗闇を照らし、彼の心の空洞を愛で満たしていく様子に胸を打たれるのだ。
本作に込められたテーマは「無償の愛」。どんなに強い人間でも、心の弱さを抱えている。他者との関わり、人の優しさに触れることで、人は救われるのだ。読了後に訪れる、この幸せな余韻を、ぜひ皆さんにも堪能していただきたい。
文:愛咲優詩
ざっくり言うとこんな作品
・願いが固有の魔法になる世界で過酷な修行を乗り越えて超越者〈アデプト〉となった主人公の異世界転生ファンタジー。
・前世のトラウマからハーレムを夢見る孤独な主人公と愛情たっぷりなヒロインの関係性が見どころ。
・ヒロインのために強敵と戦う主人公と、主人公の心を癒やすヒロインのお互いを思い合う愛に感動。
主要キャラ紹介
コノエ
地球で死んだ後にこの世界に召喚された日本人。自分を裏切らない誰かが欲しく、惚れ薬を使おうとする。修行の末に超越者〈アデプト〉になる。
テルネリカ
シルメニア家に生まれたエルフの少女。死病に侵された状態でコノエの前に現れ、自身の命よりも街の救援を求めてきた。なぜかメイド服を着ている。
神様
世界を守る神様の一柱、生命神の分体。コノエを何かと目にかけており、いつも励ましてくれる。
教官
生命魔法の学舎の教官。世界最強。超越者〈アデプト〉の指導役であり、コノエの師。
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転生程度で胸の穴は埋まらない
著者: ニテーロン イラスト: 一色
だから、“孤独”を埋めるのは君との『恋』の物語
人の渇望(ねがい)が固有の魔法になる異世界。固有魔法を扱い邪神から人類を守護する超越者〈アデプト〉たちには、あらゆる権利が与えられる。
転生したコノエは永い修行の末、遂にその資格を得たのだった。
――惚れ薬〈きんしやくぶつ〉を使うために。
「……惚れ薬があれば、僕でも、誰かの一番になれるんだろうか。」
前世のトラウマから、人を信じられず生きてきたコノエ。そのせいで固有魔法が発現せず、転生しても孤独に苦しんでいた。そんな彼に助けを求めてきたのは、死病に侵された金色の少女で――。
「私、コノエ様の為なら何でもさせて頂きますので!」
これは、渇望〈ねがい〉を持たない白い孤独が、黄金の愛と出会う物語。