いつも角川ビーンズ文庫をご愛読いただき、誠にありがとうございます。弊社のシステム障害の影響により、角川ビーンズ文庫公式サイトが閲覧できない状況のため、本ページにて『第23回角川ビーンズ小説大賞 受賞コメント&選評公開!』をお知らせいたします。
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先日発表いたしました第23回角川ビーンズ小説大賞受賞者3名の受賞のコメントと、最終候補7作品の選評を公開いたします。
ご応募くださいました方々、選考にあたられた諸氏に改めて御礼申し上げます。
優秀賞&〈一般部門〉審査員特別賞 三川みり先生選
「首なし魔女の数奇な婚礼 〜呪われた騎士と誓いのキスを〜」 采火
【あらすじ】
魔女ドロテの嫌がらせで呪われ、首が家出中の魔女ネリー。
それでも毎日元気いっぱいの彼女のもとに、全身頭まで甲冑で覆い隠した近衛騎士、エルネストが訪ねてくる。
彼はドロテの呪いで醜い顔に変えられ、見た者に嫌悪と殺意を与える呪詛をかけられてしまっていた。そしてその解呪方法は「魔女の婚礼」で、占いで出た婚礼相手はネリーだと言うのだ。
【そうなのね! わたしの運命の人なのね、エルネストさん……!】
しかし、魔女の婚礼儀式には誓約のキスが必須。
【わたしに首がないので誓いのキスができません!】
二人は婚礼のためドロテを追って首を取り戻す旅に出るのだが……?
顔のない魔女と顔を見せない騎士の、シュールで可愛い恋愛メルヘン!
【受賞コメント】
この度は優秀賞&審査員特別賞という素晴らしい賞をいただき、誠にありがとうございます。
選出していただいた先生方をはじめ、選考に携わってくださった全ての方、そして日頃から応援してくれている友人たちに、心からの感謝を申し上げます。
受賞の実感をしたのは、学生時代に角川ビーンズ文庫様の作品を一緒に楽しんでいた友人に報告をした時でした。彼女が「感動してる」と伝えてくれた瞬間、私の青春の日々が間違いなくそこにあり、今に繋がったことを感じられました。
かつての私のように、いつか誰かのきっかけとなれるような作品を生み出していけるよう、今後はより一層精進して参ります。
〈一般部門〉審査員特別賞 伊藤たつき先生選
「前世わたしを殺した男が生まれ変わって求婚してきます」 真白燈
【あらすじ】
侯爵令嬢・ルティアの前世は、かつて悪逆と殺戮の限りを尽くした稀代の悪女、女王・アリーセ。前世の記憶を持つルティアは、今世は償いのため養護院に通い奉仕する日々を送っている。
そんな時、嫌々参加した王妃主催のお茶会で驚きの人物と再会する。
ひとりは前世の夫で王配、女王・アリーセの乱心の原因となった男・リーヴェス。
そしてもう一人は……奴隷ながら前世で女王の護衛を務め、アリーセを殺した男・カイ。
それぞれ公爵家当主・キール、第三王子・テオバルトとしてルティアの前に現れた二人は、ルティアに熱烈に愛を囁く。
「私は幸せになってはいけない」
罪悪感から二人を遠ざけ、悪女だった自分が好かれることに混乱するルティア。
やがて、二人の求愛が唯一失ったままの謎、「女王・アリーセの最期」の記憶を呼び起こす。そこには驚きの真実が隠されていて……!?
前世から今世へ――裏切りと罪に塗れて死んだ三人の運命が絡み合うグランド・ロマン!
【受賞コメント】
この度は伊藤たつき先生選の審査員特別賞に選出いただき、誠にありがとうございます。
選考に携わられた皆さまに心より感謝申し上げます。
応募した作品はけっこう重いテーマで、途中辛い描写もあるのですが、そうした中でヒーローがヒロインを想う姿はいいよな…と思いながら書きました。
受賞することができて、とても嬉しく思います。
今後担当編集さまと改稿を重ね、応募時より心に残るような作品を読者の皆さまにお届けできるよう精進してまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
〈WEBテーマ部門〉WEB読者賞
「高慢悪女とヘタレ騎士」 星名こころ
【あらすじ】
財力・知力・美貌を兼ね備えた侯爵令嬢・アレクシアは、婚約者である第一王子・クリストファーから婚約破棄された。社交界では、クリストファーの浮気相手で子爵令嬢・ミレーヌをやり込めたことで、高慢な悪女と言われるように。
そんな中、父から辺境伯子息・レニーとの縁談を持ちかけられる。レニーはヘタレと呼ばれ、辺境伯の跡継ぎにもなれない人物らしい。ただ騎士としての腕はあるようで、社交界にうんざりしたアレクシアは縁談を受けることに。
実際に会ったレニーは、立派な体躯に、女性慣れしていない照れやすい一面も。
ヘタレ、可愛いじゃない。
しかしとある事情でレニーは気弱になり、真剣を扱えない騎士だった――。
そんな彼の事情を知ったアレクシアは、レニーを変えることを決意する!
社交界もヘタレもぶった切る! 悪女と呼ばれる高潔令嬢の爽快逆転譚!
【受賞コメント】
この度はWEB読者賞という素晴らしい賞をいただき、大変光栄に存じます。
ご投票くださった方、作品を読んでくださった方、選考に携わってくださった方、すべての方々にこの場をお借りして御礼申し上げます。
皆様のおかげで、人生初受賞という喜びを味わうことができ、感謝の念に堪えません。
この喜びを胸に、皆様のお心に残る作品を生み出していけるよう、より一層精進を重ねてまいります。
これからも温かく見守っていただけましたら幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。
選評
【編集部総評】
第23回「角川ビーンズ小説大賞」には、443作品ものご応募をいただきました。
ご応募いただいた皆様には、この場を借りて心より御礼申し上げます。
今回の応募作品においては、非常に多種多様なテーマが見受けられました。
近年、女性向け作品はメディア化が続き、多くの方の目に触れることで読み手も書き手もさらに成長しているジャンルとなっています。
そうなるとひとつのテーマにおいても既視感が出てきがちになりますが、その中でも、書き手として面白いと思ったものを「自分ならこう魅せたい」「読ませたい」という意志や挑戦が感じられる作品が多く、大変嬉しい選考となりました。
全体的なレベルも向上しており、作品の中で多くの作者自身の「好き」を感じさせていただきましたが、その反面、限られた中で要素を無理に詰め込んだ結果、せっかくの「好き」が曖昧になってしまっている作品も多く見受けられました。
書き手、読み手、作品が揃って初めてエンタテインメントとなりえます。その「好き」は今、読み手にとって本当に必要なのか。一番伝えたいことを阻害してはいないか。
今回最終候補となった作品は、自身の「好き」をいかに魅力的に描くか、という意識が評価されました。さらに受賞作においては、その「好き」をいかにして伝えるか、という視点において、エンタテインメントを意識していたことが受賞に至りました。
第24回においてはリニューアルをし、新たにFLOS COMIC協力のもと、コミカライズ確約となる賞が増えました。またテーマ部門ではキャラクター属性を重視した「カリスマ系ヒロイン」、関係値を重視した「主従関係の恋」とテーマを設定しています。
一般部門とあわせて、「あなたにしか書けない物語」を心待ちにしております。
《一般部門》
【総評】
〈伊藤たつき先生〉
今回はバラエティに富んだお話ばかりで楽しく読ませて頂きました。
それぞれ惜しいなと思う部分はありましたが、小説一冊分を書き上げるだけの精神力と体力、そして情熱が十分伝わってきました。ただ、全体的に設定などがわかりにくいお話が多かった印象です。書き終わったら客観的な視点で、読む人にわかりやすく面白く伝わっているかを意識しながら読み直すと、問題点が見えてきてそれぞれもっとよくなるのではと思いました。
〈三川みり先生〉
今回の最終選考に残ったのは「自分が何を書きたいか」を理解して書かれている四作品でした。書きたいものが明確なので、当然それぞれ個性的。個性を比較するのは困難なため、客観的な評価というよりは主観的な評価になり、審査に関わったそれぞれが個人的に感じ取れる魅力がその作品にあるかないかが評価を大きく左右しました。技術は指導次第で身につきますが、魅力を作るのは並大抵のことではないです。今回受賞した作品は選考委員の誰かに訴える魅力があったということかと思います。
●首なし魔女の数奇な婚礼 〜呪われた騎士と誓いのキスを〜
〈伊藤たつき先生〉
エンタメ小説として面白かったです。世界観や魔法などうまくお話に組み込まれていましたし、設定が斬新でした。ですが世界観や各キャラの関係性、最後の戦いの部分など、ややわかりにくいところもありました。読者が感情移入しやすいようにするにはどうしたらいいかを念頭に置くと、もっと面白くなるのではないかと思います。
〈三川みり先生〉
とても楽しく拝読しました。文章力・構成力もあり、キャラクター造形も巧みです。物語が進むにつれあかされる魔女と皇国の対立、キャラクターの感情、どれも自然で引き込まれました。首のないヒロインと鎧姿しか見せられないヒーローが、作品の最大の面白みでもあり魅力でもありつつ、それが読者に受けいれられるのかという点のみが悩ましかったです。
〈編集部〉
首のない魔女と、顔を隠さなければならない騎士。大変難しい設定を、ファンタジーだからこその表現と、前向きで純粋なヒロインのキャラクター力で最後まで見事に描ききった作品でした。構成としても無理がなく、顔が見えないからこそ出しづらい感情や設定についても魅力的に表現されています。
惜しむべくは、ヒロインのキャラクター性に比べてヒーローが動きづらく、魅力が出し切れていないと感じさせてしまう点でした。設定以外でも「この二人だからこそ」と思えるだけの魅力を伝えきれるか、が大きな課題かと思います。
●前世わたしを殺した男が生まれ変わって求婚してきます
〈伊藤たつき先生〉
角川ビーンズ文庫向けとしては、なかなかハードなお話だと思いましたが、私は面白く読ませて頂きました。いろいろと気にはなりましたが、ぐっと引き込まれるものがありました。一番気になったのは、後半は盛り上がりがありますが、前半は一本調子で進んでいく事です。キャラクターをしっかり作り込めば自然に動いてくれるようになるので、盛り上がりもできてもっと面白くなるのではと思いました。
〈三川みり先生〉
人と人との関係を書こうとする姿勢が素晴らしく、また書けるだけの力量がある作者様だと感じました。前世のストーリーと今世のストーリーをうまく構成できたならば、もっと説得力があり、さらにドラマチックな物語になると思えます。クライマックスの炎の場面は、うまくすれば鳥肌ものの名シーンになるかもしれず、期待が大きいです。
〈編集部〉
悪逆の限りを尽くした女王としての前世を持つ侯爵令嬢が、同じ時代の前世を持つ男性二人と邂逅し、様々な謎が絡み合っていくストーリー。導入から、前世で最も悔いていることに対して今世でいかに向き合っていくのか、という期待感を持たせることができています。
一方で、謎が解けていく過程や、キャラクター配置などの構成部分では物足りなさがありました。エンタテインメントとして読者がどこを楽しみたいと思っているのか、今どの部分を理解して、どの部分を知りたいと思っているのか、作者として没入しすぎずに物語と向き合うことを考えてみてください。
●男性恐怖症の呪われ王女は、オネエ騎士と恋をする
〈伊藤たつき先生〉
読みやすかったです。世界観などもよくできていたし、キャラクター設定などの発想もよかったと思います。もったいないと思ったのは、ストーリーに起伏が乏しく、オネエキャラがやや弱いところです。文章力も発想力もある方だと思うので、キャラクターを作り込んでストーリーの盛り上がりを意識してお話作りをすれば、もっと面白く書けるのではと期待しています。
〈三川みり先生〉
小説の技術は巧みでストレスなく読めました。物語もキャラクターも嫌みがなく、それが強みでもあり弱点でもあると感じました。物語に大きな欠点はないのですが、読み手に強い印象を残すための半歩が足りない感があります。印象が強くなるだろうエピソードは散見されますが、それを生かしきれていないのは、構成もしくはキャラクター造形によるかと思います。おしい作品でした。
〈編集部〉
呪いに侵されたヒロインの死の宿命という重い背景ながら、ヒーローが「オネエ騎士」ゆえにヒロインに怖がられないという関係は面白みがありますが、それ以上の盛り上がりがなく、ヒーローの魅力が伝わりにくいと感じました。
また国にかけられた呪いについて、解明へ至る事件が突然起こり、その後の展開に対して読者の感情が追いつかないままになってしまっていたのは残念でした。キャラクタ-、設定、伏線など、点と点を繋いだ物語の構成を考えてみてください。
●後宮呪術物語
〈伊藤たつき先生〉
ミステリー仕立てで、ロマンスよりも事件に重きを置いたお話で、個人的には好きです。呪術を使った謎解きも楽しめました。ですが、登場人物や設定が多すぎて混乱するので、整理が必要だと思います。また、誤字脱字、ら抜き表現が目立つのが気になりました。一つ一つ事件があって、それがラストに繋がるという構成はお上手だったと思います。
〈三川みり先生〉
中華後宮ミステリーを書きたいという意欲と、謎を作ろうとする努力の姿勢は素晴らしいです。ただキャラクター文芸としては謎が弱く、ライトノベルにしてはキャラクターが弱く、中途半端な印象でした。どの方向性の作品にしたいのか明確に意識して書いていれば、もっと違った作品になり評価も変わったかと思います。
〈編集部〉
後宮で起きた妃の密室死亡事件から始まり、次々と起こる事件が繋がっていきながら、呪術という着眼点から最後にすべての謎が解明される展開は読み応えがありました。
しかし事件の数に合わせて説明描写が多いことに加え、ヒロインとヒーローの視点切り替えが頻繁に起こり、散漫になっている印象です。キャラクター性が掴めないままで、読者がどの目線で楽しめばいいのかというわかりにくさがありました。読者がどの目線で何を楽しみたいと思っているのかを想像して、作品内でのメリハリを意識してみてください。
【WEBテーマ部門】
●高慢悪女とヘタレ騎士
〈読者からのコメント〉
・読みやすく、ヒロインのキャラが立っていて、王子に対するざまあも鮮やかでした。
・ヘタレというよりはトラウマを抱えるヒーローを、高潔なヒロインが救い上げる様子が良かった。
・恋人達の数だけ愛の形があるのだと幸せになる作品です。
〈編集部〉
「高慢な悪女」と呼ばれるヒロインですが、その気の強さと言動は筋が通っており、爽快感のある魅力的なキャラクターとなっていました。「ヘタレ」とされるヒーローにも理由となる過去があり、二人で乗り越えていく姿はキャラクターと設定が上手く相互作用をもたらして、物語として深みを増していました。
一方で、後半の伏線となるポイントの見せ方や緩急のつけかたに、少しアンバランスな点も見受けられました。物語の奥行きを意識して、構成を見直してみてください。
●追放間近の悪役元王妃ですが、兼業である侍女への恋を相談されました、それ私本人です
〈読者からのコメント〉
・一人二役が面白くてどんどん読みすすめました。ヒロインの出自が珍しく、興味を惹かれました。
・読ませ方が上手いなと思いました。
〈編集部〉
悪役王妃と侍女の二面性を持つヒロインが、追放されるために悪役を演じつつも隠しきれない有能さを見せてしまうなど、コミカルなシーンが上手く描かれています。彼女の出生の秘密についても二転三転する中で、設定が繋がっていく面白さがありました。
ただ設定が後から複雑化していき、結局どの部分を一番に掘り下げたい話なのか、という点が曖昧になってしまった印象です。ヒーローについても背景が薄く、魅力が感じづらかった点は残念でした。メインとなるテーマを据えて読者を引き込む構造を意識してみてください。
●悪役令嬢ですが、失恋仲間の当て馬王子と一緒に幸せになります!
〈読者からのコメント〉
・ざまぁされるはずだったふたりが、それを回避するため手を組み協力する展開がとてもよかったです。
・心象表現を丁寧に積み重ねることで、登場人物の心の動きをしっかりと表現していると感じる。
〈編集部〉
当て馬と悪役、そんな二人が断罪を回避するために協力して……という導入は、二人の関係性がどう変化していくのかという期待を上手く持たせられていました。呪いと記憶にまつわる謎も恋愛面を盛り上げています。
コミカルなネタを多く盛り込み、テンポ良く物語が進みますが、全般的にキャラクターたちの葛藤や本心があっさりと流されてしまい、感情移入がしづらい展開となってしまっていました。生きた人間としてのキャラクター性、物語としての起承転結を意識してみてください。
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