【レビュー】恋人そっくりになれば振り向いてもらえる？ フラれた同士が手を組んで恋敵の「模倣」に突っ走る青春物語！

【新作ラノベ先読み感想文レビュー】
今回は10月10日に刊行される『がらんどうイミテーションラヴァーズ』です。みなさんの感想も聞かせてください！

　青春でラブだけどコメディかどうかはちょっと迷う。確かに笑える。自分をフった由衣が付き合い始めた幸太郎とそっくりになれば振り向いてもらえると、がんばって幸太郎になりきろうとする相馬には笑いもこみ上げてくる。でも、その笑いは嘲笑に似たもので、浴びて嬉しくなる笑いではない。

　同じく自分をフった幸太郎が好きな由衣になりきろうとした彩音が、相馬とともに「幸太郎×由衣ごっこ」をはじめたことで、嘲笑は苦々しさに変わって痛ましさすら覚えるようになる。暗い青春の妄執としかいえない愛が虚ろな笑いを引き起こすストーリーを、要素だけ拾って「青春ラブコメディ」と喧伝して、読んだ人を谷底に突き落としてほくそ笑む。そんな誘惑も浮かんでくる。

　ところが、どれだけ嘲笑や苦笑を浴びようとも、自分を変えようとして恥も外聞もなく幸太郎や由衣の模倣に突っ走る相馬と彩音のひたむきさが、読んでいるうちにじわじわと心を冒していって、頑張ることへの心からの賞賛を芽生えさせるから面白い。やがて、誰かの仮面を被って大勢の人の輪の中心にいる窮屈さよりも、たったひとりに本当の自分を知ってもらえてのびのびとできる開放感を好きだと思う気持ちのかけがえの無さに気がついて、嘲笑していた自分が恥ずかしくなる。

　苦さを乗り越え気づきを得られた少年と少女が、お互いを認め合い愛し合うようになる喜びへと至る物語を、どうか目をそらさず背を向けないで追っていって欲しい。最後に浮かぶ微笑みに、それもまた笑いのひとつと感じるタイプの青春ラブコメも悪くないと感じてほしい。

文：タニグチリウイチ

ざっくり言うとこんな作品

・バットを振り回していた乱暴女子が清楚なふりをし、ぼっち男子がイケメン男子になりきろうとする無謀なチャレンジにクスリ！

・相馬と彩音が目標にしていた幸太郎や由衣は本当に善人で天使か？　ドタバタコメディが人間の本当の価値を問う展開に変わる

主要キャラ紹介

鷲谷 相馬（わしや そうま）
自分を偽りたくないと本音で生きてきたら誰にも相手をされなくなっていた高校生。初めて自分を認めてくれた由衣が付き合い始めた幸太郎にそっくりになり、由衣を奪おうとする。

鳩羽 彩音（はとば あやね）
自分に優しくしてくれた幸太郎に告白したがフラれ美術室でバットを振り回して展示物を破壊するヤバい女子高生。相馬とは逆に由衣に成り代わって幸太郎を振り向かせようとする。

百瀬 由衣（ももせ ゆい）
クラスでひとりぼっちだった相馬に声をかけた優しい美少女で、相馬はストーカー気味に観察して性格に裏表はないと確信したが、彩音は腹黒女と疑っていた。果たして真相は？

藤峰 幸太郎（ふじみね こうたろう）
困っている人がいたら必ず助け、勝負を申し込まれれば絶対に逃げない性格で誰からも好かれている好男子で、初対面の相馬にも親切で、フった彩音にも笑顔を向ける。