【レビュー】自分は本当に「自分」なの……? そんな哲学チックな要素が後を引く面白さ!
【新作ラノベ先読み感想文レビュー】今回は7月25日に刊行される『スワンプマン芦屋沼雄(暫定)の選択』です。みなさんの感想も聞かせてください!
タイトルに「スワンプマン」とあるからには、思考実験をもとにしたSFが始まるのかな? そう思って読み始めると何重にも意表を突かれました。
いや、たしかに主人公はスワンプマン(コピー人間みたいなものだと考えてください)であるのか否か悩みますけど、そこにファンタジー要素、ラブコメ、重い人間関係、そして国を巻き込んだ陰謀まで絡んでくるんですもの……! 一冊だけど二冊以上読んだような感覚になりました。
ともあれ、本作のキモとなるのは主人公・芦屋珠雄がスワンプマンになってしまったのか否か。別の魂が珠雄の身体にいて、珠雄の記憶をもとに動いていたのであれば別人である、という世界観で彼は苦悩していくことになります。たしかに、魂を入れ替える装置があったのであれば、今自分が本人であるとは断定できないもの……。
けれど、そこで自分(オリジナル)に想いを寄せる女の子がいたら、どんな決断を下すでしょうか。珠雄は自らがスワンプマンであったのであれば、美咲とは付き合わないとしていますが……。
自分なら都合がいいのでそのまま付き合ってしまうし、スワンプマンであると自らを認めないように思います(そんな格好の悪い大人も本作中に登場するぞ!)。だって、スワンプマンであると認めたら、オリジナルが知らない土地に飛ばされるのだから。
そんな境遇の中で、珠雄は七瀬とタッグを組みながら、そのきっかけとなる陰謀に触れていきます。果たして、彼はオリジナルなのか、それともスワンプマンなのか──!
文:太田祥暉
ざっくり言うとこんな作品
1)スワンプマンの思考実験をもとに、自分がオリジナルなのか、はたまたコピーなのか悩むSF的展開。
2)上記のようにSF展開が続くのか、と思いきや、陰陽術によるファンタジーアクションが開幕!
3)間に挟まる幼なじみ3人+美少女ヒロインによる爽やかなラブコメ的展開。
主要キャラ紹介
犬飼探偵事務所に勤めている17歳の少女。機関から委任され、スワンプマンにまつわる事件の調査を行なっている。一年前に記憶のない状態で機関に保護された。
珠雄の幼なじみで、浩一の腹違いの兄妹。珠雄たちとは別の高校に通っている。珠雄に想いを寄せていて、現在は告白秒読み中。その可憐さから、何人もの男が彼女に告白し、玉砕したとか。
珠雄の幼なじみで、美咲とは腹違いの兄妹。SF研究会の会長を務めるほど、SFに造詣が深い。珠雄の事情を知ったとき、彼がスワンプマンではなくオリジナルである可能性を示唆した。
魔術で猫にされてしまった犬飼探偵事務所の所長。35歳。身体は猫であるが、声は落ち着いた成人男性そのもの。長距離移動の際はバッグの中に入り込む。
スワンプマン芦屋沼雄(暫定)の選択
著者:小林達也 イラスト:みすみ
肉体も記憶も人格も全部引き継いだ。それでも俺は、俺じゃない。
芦屋珠雄はある種の神秘を継承する家系に生まれた普通の高校生である。
とある事情により急ぎでまとまった金銭が必要になった彼は、道端で出会った謎の男の口車に乗せられて、高額の報酬と引き換えに謎の装置の処置を受けることになった。
数日後、何の変化も自覚できないため、装置のことを忘れようとしていた珠雄のもとを七瀬と名乗る少女が訪ねてくる。
彼女は珠雄が処置を受けた装置の行方を追っており、その効果は【意識の連続性を遮断する】ものだと言った。
それはつまり、芦屋珠雄の意識は既に消滅していて、今の自分はオリジナルの肉体と人格と記憶を引き継いだ別の存在だということを意味しており……?
自らを沼雄と名乗った珠雄は何に巻き込まれたのか知るため、そして犯人の企みをくじくために七瀬と共に事件を追うことになるが――
MF文庫Jライトノベル新人賞、選外デビュー作、MF文庫Jが贈る単行本として登場!
本棚からこの作品がなくなります。
一年前に両親を亡くし、一人暮らしをしている高校生。芦屋流陰陽術の使い手。50万円を手に入れられる被験に参加したことで、スワンプマンであると疑われてしまう。