【レビュー】無気力・無感動で生きていた元大聖女は、パンに対する情熱と執着だけはすごい!読者の予想をずらしそらす独特ミステリー
【新作ラノベ先読み感想文レビュー】今回はカドカワBOOKSから6月10日に刊行される久川航璃先生×香村羽梛先生の新作『大聖女は天に召されて、パン屋の義娘になりました。』です。みなさんの感想も聞かせてください!
冒頭はいきなり、死を偽装した大聖女アリィの神殿脱出からスタート。猛毒を飲まされても死にもしない子がそこまでして脱出する理由とは……パン作りのため? 読み始めて数ページで、あれこれ予想が覆されます。パン屋でのほのぼの日常を描いていくのかと思いきや時間は一気に飛んで一年後! 一年前に大聖女を「殺した」犯人を捜すことになるという展開になるのもミステリー的で面白い。
神殿のことなど完璧に忘れてパン屋として楽しく働くアリィの姿は微笑ましいものの、ならば神殿というのは思い出したくもないよほどひどい場所だったのでは……と思ってしまいます。しかし神殿の人間は人間の屑というわけでもなく……料理はまずいし権力争いはあるし金持ち優遇ではあるけれど、極端にひどい場所ではないのでは?
その辺まで読んできて、ようやく理解します。これ、神殿が歪んでいる以上に、アリィが精神的に幼く、それなのに破格の力を持っている(しかも当人は、自分のすごさを誰にどう言われようと決して自覚しようとしない)がゆえに起きた出来事なのだと。その個性的すぎる行動に振り回される周囲と、そんな彼らに結果的に振り回される(ある意味自業自得な)アリィのドタバタを描く話というところか。読者の予想をずらしそらす手際が独特で、興味深い作品です。
でもただのドタバタだけでもなく、アリィの顔を知っている教皇はなぜ沈黙を保っているのか? 大聖女に毒を盛ったのは誰か? そうした謎が残され、次巻への興味をそそります。
ライター:高橋義和
ざっくり言うとこんな作品
・パンを愛してやまない元大聖女のパンへの情熱と執念と執着
・ミステリー要素あり
・無自覚にチート能力で無双しまくりで事件解決!?
主要キャラ紹介
大聖女の近衛騎士。実はパン屋の息子で、店に弟子入りしたアリィと義兄妹に。大聖女を敬愛していた。脳筋のため大聖女と気付かぬままアリィを義妹として大事にする。
王太子で大聖女の元婚約者。ヘタレなため大聖女に本当の名前すら聞けぬまま彼女を亡くした後悔から、毒殺犯を見つけ出そうと暗躍。アリィの正体にいち早く気付く。
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大聖女は天に召されて、パン屋の義娘になりました。
著者: 久川 航璃 イラスト: 香村羽梛
大聖女? 誰のこと? 天然聖女が無自覚チートでおいしいパンを作ります!
類稀な祈りの力を持つ大聖女アリィは、何者かに毒殺されそうになる。
それならいっそ死んだことにして、憧れのパン屋にジョブチェンジしてやる!!
と、正体を隠して弟子入りしたところ――元近衛がパン屋の息子と判明して彼と義兄妹に!?
さらに元婚約者の王太子(の側近)が毒殺犯を見つけたいと潜入捜査を依頼してきて……!?
なんの因果か大神殿に戻ったアリィは、無自覚に元大聖女の能力を発揮し、不本意な犯人捜しの合間もせっせとおいしいパン作りに励みます!!
元大聖女。無気力無感動に生きていたが、とあるパンに出会ってから感情を取り戻し、パン屋になりたいという野望を抱く。