【レビュー】最後まで読んでおどろけ!最先端のポストヒューマンSF!『はじめてのゾンビ生活』
【新作ラノベ先読み感想文レビュー】をお届けします! 今回は電撃文庫から5月10日に刊行される不破有紀先生✕雪下まゆ先生の作品です。みなさんの感想も聞かせてください!
もしも人間がゾンビになってしまう感染症が大流行したら? そんな映画もドラマもマンガもたくさんあるけれど、「牙をむいて襲ってくる」とか、「言葉も通じず殺すしかない」といったゾンビ像が多かったように思う。ところがこの『はじめてのゾンビ生活』は全然別物だ!
ゾンビになってしまった女子高生が、同じくゾンビの同級生に最高級のゴルゴンゾーラチーズを贈りたいのに、高くて買えなくて思い悩むような、可愛らしいエピソードにあふれているし、病気にならず筋力もアップした丈夫な体(ゾンビ)になったことで、宇宙飛行士になって月や火星の開拓に乗り出す、なんていう夢のゾンビ冒険物語も楽しめるようになっているのだ。
口絵にはなんと...ソンビになったら配布される「はじめてのゾンビ生活」が掲載! ゾンビになるのが当たり前な世界では必須ですね。
でも、人間を超越した新人類「ゾンビ」にあふれた未来を楽しくつづったユートピア小説かというとそうではなく、実は正反対。まだゾンビがマイノリティだったころは、嫌われて居場所を失うゾンビが大勢いたし、ゾンビがマジョリティになると、今度は人間が肩身の狭い思いをするようになっていく。自分とは違う存在を排除してしまう人間の良くない傾向を、ゾンビ化という現象を通して風刺しているようにも思える。
ゾンビの瘴気にあてられ普通の人間は滅び、子孫を残せないゾンビも滅亡は必至という状況になって、自分たちの痕跡を後世に残そうとあがく展開は、まさに最先端のポストヒューマンSF! そうした刺激的なテーマを、ゾンビ発生から人類滅亡までをつづったショートストーリーを積み重ねていった中に描いてしまうのだからこれはとてつもない小説だ。日常系ゾンビストーリーで始まり壮大な人類史SFへ――。最後まで読んでおどろけ!
文:タニグチリウイチ
ざっくり言うとこんな作品
1)ゾンビといっても人を襲うモンスターではない。手足がちぎれても目玉が取れても元に戻る強くて元気な体を持った『新人類』なのだ。
2)宇宙に飛び出したゾンビは、月面開拓や火星のテラフォーミングに挑み次代を担うロボットも生み出してと大活躍!
3)ゾンビの少年に贈るチーズを迷う少女。落盤の危険がある月の縦穴で食料となる岩を掘り続ける労働者。ゾンビの数だけドラマがある。
キャラクター紹介
ゾンビの同級生にバレンタインのチーズを渡そうか悩む
月で歌手となり「ムーン・リバー」を唄ってゾンビに希望を与える
作品情報
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はじめてのゾンビ生活
著者: 不破 有紀 イラスト: 雪下 まゆ
おめでとうございます! ゾンビの陽性反応が出ました。
ゾンビになっても未来は明るい。人間の時よりも元気な身体になるし、宇宙飛行士(※酸素や新鮮な食料を必要としないゾンビは、宇宙船や月面基地での仕事に適しています)にだってなれる。
ゾンビだって恋をする。バレンタインデーにはクラスの気になるあの子に、ライバルより高級なゴルゴンゾーラ(※ゾンビは新鮮な食品を嫌いますが、発酵食品は人間と同じものを食べられます)をあげたい。
ゾンビ誕生から「歴史完成」に至る、人間とゾンビの宇宙興亡千年史!
※2519年6月20日「新人類憲章」の成立により、長年差別的であるとされてきた「ゾンビ」という呼称は廃止されました。本書では当時の時代背景と本書の資料的意義を考慮し、一部表現をそのまま掲載しています。
目玉をぽろりと落とすゾンビ芸で世界的スターとなった芸人コンビ