毎月たくさんの新作が刊行されるライトノベル業界。だからこそ、誰かの心に刺さった特別な1冊を読んでみたいと思う読者もいるはず……!?
そんな貴方にピッタリのコーナーがこちら。過去の新作の中からライターが実際に読んでみて誰かにオススメしたいと感じ厳選した作品を“1冊だけ”選んで語り尽くすピックアップレビュー企画です!
今回はファンタジア文庫2024年10月・11月刊の新作より、ライター陣がそれぞれ選んだオススメの1冊を紹介しちゃいます。
- ライタープロフィール
- ライター① 勝木弘喜/『お隣の美人エルフの距離感が近すぎる件 ~私とイイコトしませんか?~』
- ライター② 髙橋剛/『魔王を斃した後の帰り道で』
- ライター③ 中谷公彦/『はじめよう、ヒーロー不在の戦線を。』
ライタープロフィール
①ラノベ歴 ②初めて読んだラノベ ③マイベストラノベ ④ひとこと
①ラノベ歴は概ね20年です。
②はじめて読んだラノベは『ヴァレリア・ファイル』(角川スニーカー文庫刊)
③マイベストラノベは『塩の街』(電撃文庫刊)
④ジャズバイオリンという音楽ジャンルをぜひ一度ご体感いただきたいです! リズムとメロディの融合、個人的には文章表現と通じるものを感じていたりします。
①ラノベ歴17~18年ぐらい。
②ラノベ原体験は『涼宮ハルヒの憂鬱』(角川スニーカー文庫刊)
③マイベストラノベは『戦闘城塞マスラヲ』(角川スニーカー文庫刊)
④最近はゲーム『メタファー:リファンタジオ』に夢中。独特な世界観・それにマッチした音楽がたまりません!
①勝木弘喜さんのピックアップレビューはこちら!
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お隣の美人エルフの距離感が近すぎる件~私とイイコトしませんか?~
著者: 福山 陽士 イラスト: 昌未
日本エルフって、いいですよねぇ。ニホンオオカミみたいに書いてますけど、日本独自進化のエルフ、日本エルフ。ディードリットとかフリーレンとかマルシルとか、有名どころもいいですけど、どのエルフも必ず美形ですし。百歳以下は若僧あつかいの合法ロリだし。魔術師か弓の名手となれば、冒険するハイファンタジーならパーティに一人は欲しいです。何をもって日本エルフとするかという話はありますが、やっぱり耳が長いところは外せないですよね。しょんぼりしたとき垂れたりとか、耳を触られてビクッとしたりとか。たぶんアレって、猫耳とか犬耳のカテゴリですよね。それに深い森に住んでいるなんて、緑の多い日本と相性抜群の種族じゃないですか。
前置きが長くなりましたが、本作に登場するのはポンコツお姉さんエルフです。ちょっとダラシナイ恰好で玄関先に出てきたり、情報の仕入れ先がゲームだったり、大抵家にいて仕事しているかわかんない、お金に困った結果お腹を空かせて隣人にご飯をおねだりする、ポンコツお姉さんエルフです。
断っておきますが、エロい展開はありません。ナイスなスタイルして隙だらけですが、エロフじゃありません。田舎なんでご近所づきあいが多少濃いし、主人公が若い男性だから頼ることはありますが、ぐいぐい来る感じじゃありません。ラッキースケベもありますがそこがメインではなく、サブタイのイイコトで期待、もしくは敬遠しているなら本作の良さを見逃すかもしれません。
本作の良さはですね、そのポンコツお姉さんエルフが、お隣に住んでいることなんです。田舎のアパートに引っ越して初めての一人暮らしで、お隣に美人のお姉さんが住んでたら最高じゃないですか!? それで警戒心がないのか妙に距離感が近くて、ポンコツなんで隙だらけ。田舎だからかちょくちょく交流が発生するし、肌色多めの服装は注意されてもピンとこないのに変なところで恥ずかしがる。気になる存在であることは間違いないですが、エルフですからね。恋愛対象というよりは、お隣さん美人だけどあちゃーみたいな空気感が、いいんですよ!
それが後半になるとポンコツに見えてたのが実はポンコツじゃないかもって展開も待っていて秀逸。そしてある意味、美形、長寿、魔術師、弓手という今までの日本エルフよりよっぽどエルフしている様子もみせてもらえます。やっぱり、日本エルフはいいですねぇ。
②髙橋剛さんのピックアップレビューはこちら!
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魔王を斃した後の帰り道で
著者: 榊一郎 イラスト: 芝
初・榊一郎さんは『ドラゴンズ・ウィル(富士見ファンタジア文庫刊)』。そこからずっと榊作品に親しみ続けてきた私ですが、ファン歴が長いからといって本作をイチオシにしたわけではないのです。じゃあ、なぜか。それはもうシンプルに撃ち抜かれたからですよ!
本作はタイトル通り、魔王討伐を果たした勇者一行の帰路を描いています。そして勇者ではなく、託宣によって選ばれた5人の仲間を1人ずつクローズアップ、進行していくのですけれども。ここから王道の群像劇が始まったりしないのが肝なのです。
5人はそれぞれ、世界を救う旅へ向かうために残してきたものの元へ帰りつき、対峙します。それは癒えようのない傷(例外な方もおりますが)であり、しかし人物としてのテーマでもあるという実に複雑なもの。
これがただ紐解かれていくだけでも十分ドラマチックなのに、とにかく5人の心情描写が深い! 現在のラノベはセリフに心情を託すスタイルが主流ですが、本作は各々のキャラクターがセリフで語らない・語れない心情を思いきり深掘りしているのです。言うなれば「人の内側を読ませる」この構造がなにをもたらすか? 主要キャラのすべての言動に十二分な意味と説得力とをもたらすのですね。
しかもですよ。5人の手の甲にある勇者の仲間の証“聖痕”をマクガフィンとして効かせに効かせ、各人の過去と現在の心情を剥き出させてしまう描写! それによって彼らを深々と掘り込んだ上に個性を際立たせてしまうキャラクター造形! 魅せつけられた感想はもう、「たまらん」のひと言です。
最後の一撃は勇者ユーマ! 聖痕に導かれて集まり来た仲間について実はよく知らないことに気づいた彼は、だからこそ5人と向き合おうと決めるのですね。でも、その中で彼は突きつけられることとなります。仲間が秘めてきた秘密だけでなく、戦後の世界の有様や、自分が成果だと思い込んでいたものの正体を。
そうして刻々と苦みを増す彼の心情を追って読み進め、最終章へ至ったそのとき――読者はこの物語の本当のテーマを思い知るのです。
散々にたまらなくさせられた末にしみじみと噛み締めさせる構成の妙、さすがとしか言い様がありませんねぇ。
本作に派手な戦闘シーンはありません。お色気もラブコメもチートも一切なしです。あるのは儚くて切なくて、でもなにより強靱な人間の有様。まずは人間ドラマが読みたい方へ、その次にキャラクター小説が読みたい方へ、迷わずお勧めいたしますよー!
③中谷公彦さんのピックアップレビューはこちら!
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はじめよう、ヒーロー不在の戦線を。
著者: 服部 大河 イラスト: 河地りん
特筆すべきはスターゲイザーの特性。本機には通常の兵装ではなく、物語の主人公のような行動を達成することで様々な機能が解放される「主人公性システム」という一風変わったギミックが搭載されています。例えば、「突発的に戦いへ巻き込まれる」ことで近接兵装が解禁され、「市民の安全を守る」ことで反射性能が向上するといった具合に。王道のシチュエーションで強くなることに明確な理由付けがあるのは読んでいて痛快! 本作のストーリーを牽引する大きな要素にもなっていて、これは大発明と言ってもいいかもしれません。
主人公性システムによって「主人公的行動」を促すことで、思い人を失って傷付いた嗣道(つぐみち)の能動的な再起を自然に促す構成もお見事。しかし、システムはヒーローを体現していた以前の操縦者には当たり前に出来ていたことが、決して容易ではないことも浮き彫りにします。嗣道の葛藤と共に、「主人公らしさとは?」という問いかけは読者をも揺さぶってきます。
ちなみにこのシステム、判定はユニークで「異性と同乗する」等でも反応する模様。特に学校生活は主人公的行動の宝庫として、塞ぎ込んでいた嗣道もやむを得ず登校することになります。特にあの手この手で機能開放を狙ってくる天才美少女・麒麟(きりん)とのハイテンションな掛け合いは微笑ましく、すっと物語に引き込まれます。これが作品を読みやすくする潤滑油のような役割を担っていて、人死ありのハードな世界観でありながらも、作品全体には意外とコミカルな雰囲気すら漂っています。悲壮感のある導入からはかなりの落差があるので、正直なところはじめは大変驚きました。とはいえ、この楽しげな雰囲気こそが本作の欠かせない魅力と言えるでしょう。
思い人を失い、自分一人だけ世界に取り残されてしまった少年。その成長と戦いを描いた熱血ロボット・エンターテインメント。王道の後継者ものやメカが大好きな方はもちろん、一風変わったドタバタラブコメが読みたい方にもお勧め !煌めけ! スターゲイザー!
ファンタジア文庫10月・11月新作一覧
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お隣の美人エルフの距離感が近すぎる件~私とイイコトしませんか?~
著者: 福山 陽士 イラスト: 昌未
ニートエルフと奏でる、ほのぼのいちゃラブコメディ
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はじめよう、ヒーロー不在の戦線を。
著者: 服部 大河 イラスト: 河地りん
世界を救う方法は――“主人公”を演じること。
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魔王を斃した後の帰り道で
著者: 榊一郎 イラスト: 芝
勇者は、魔王を斃した仲間達の事を何も知らなかった――
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俺ん家が女子の溜まり場になっている件 1
著者: 雨音 恵 イラスト: Yuzuki
天才美少女たちとのいちゃいちゃ(勝手に)同棲ライフ、開幕!
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絶世の美少女騎士は俺のガチ恋オタクでした 1
著者: 蒼塚 蒼時 イラスト: Nagu
未来では俺が英雄らしい。そこから来た美少女騎士、俺のことが好きすぎる
①ラノベ歴35年くらいでしょうか
②はじめて読んだラノベはカテゴリが曖昧な時期だったんで微妙ですが、『スレイヤーズ』(富士見ファンタジア文庫刊)でしょうか。今のラノベの流れを作った作品の一つと思っています。
③マイベストラノベは『本好きの下剋上』(TOブックス刊)か『無職転生』(MFブックス刊)か。長いストーリー作品が好きかも?
④結束バンド(byぼざろ)のライビューに行ってきました。長谷川育美さんの素直な歌唱もいいけど、弾き語る青山吉能さんの声は癖になりますねぇ。