プロローグ【イリス・シルヴェーヌ】
その日は、素敵な一日になるはずだった。
十一年前、私の五歳の誕生日。
離宮では盛大なパーティが開かれ、大勢の人たちが集まるらしい。従兄弟の優しいお兄さまたちが、私の為に色々計画してくれていた誕生パーティ。
胸を躍らせて、私は馬車に乗って城を出た。早く着かないかしら。空飛ぶ馬車なら良かったのに。そんなことを考えていると、伝令の早馬がやって来た。
離宮がブレイズ共和国に襲撃された。従兄弟のお兄さまも殺された。すぐに逃げろと。
しかし馬車が向きを変えている間に、私たちはブレイズの兵士に取り囲まれた。
護衛の従者もあっという間に殺され、私は馬車の外へ引き出された。
馬車も、荷物も、みんな燃やされ、辺りは火の海だった。
炎の中で、私は剣を突き付けられた。
その時――私の中で、何かが目覚めた。
青空が灰色の雲に覆われ、雪が降り出した。
突如起こった凄まじい吹雪が、ブレイズの炎を消した。
ブレイズの兵士が凍り付き、無残な襲撃の跡を氷と雪が覆い隠す。
物音一つしない、白一色の雪景色。
その中で、私は一人、つぶやいた。
「許しません……ブレイズ」
その時、私の中で、誰かが囁いた。
――探せ。そして手に入れろ、滅びの力を。
それは、私に言った。
半身を探せ、と。
自分のもう半分。
――『