二章 友人キャラのピーキー能力 その1

 さて、世界を楽しもう、そう思って行動を開始したものの現実は結構緊迫している。瀧音幸助には悲しい過去と現実があるようだ。

「ええと、両親は一年前に死亡、父方祖父もすでに亡くなってる。母方親戚とは縁が切れていて、知っている唯一の血縁であり世話になっていた父方祖母が病気で病院へ。それがきっかけで痴呆が進み保護者の責をおうことができない」

 と、どうやら瀧音幸助は主人公をやれそうなほどベリーハード人生のようだ。いや、もはや他人事じゃないか。

「それにしても、こいつの境遇がひどすぎないか。あと、こんなやばい境遇だってのに、どうしてゲームではお調子者キャラなんだ?」

 ……そういえばゲーム内でヒロインの少女が自分の家族のことを話しているとき、幸助は一瞬悲しそうな表情していた。すぐにいつものへらへら顔に戻ったから開発側のミスかと思っていたが、あれはミスじゃなくて裏設定だったのかもしれない。

 さて、この場合はどうすればいいんだろうか。そもそもここは日本に似ているが日本ではない。警察か市役所か学園に相談すべきか?

 幸いあの魔法学園には合格しているみたいだが、学費を払えると思えない。いやそもそもこのままじゃ飯も食えずにのたれ死ぬ。

「どうすりゃいいんだ……」

 途方に暮れていると、ピンポンと音が鳴る。音から察するにどうやら来客のようだが、出るような気分ではない。とりあえず警察にでも行くか? ネットで相談できそうなところを探すか?

 考え事をしたいのだが、またもやなるインターホンの音に思考が途切れる。

 ため息をつきながら立ち上がって玄関へむかった。

「はいはい、どちらさ……まっ!?」

 そして思わず変な声を出してしまった。

 そこに立っていたのはやけに見覚えがある一人の女性だった。

「ごきげんよう。ええと、瀧音幸助君よね?」

 こくり、と唾をのみこむ。

「が、学園長……」

 玄関前にはマジエクの舞台である『ツクヨミ魔法学園』の学園長である『花邑毬乃はなむらまりの』が笑顔で立っていた。


 さて、食事に誘ってくれたのが美女で、エロゲのおかげで知ってるからといって、ホイホイついて行くことはやめた方が良い。せめて行く場所をよく確認するべきだ。

「ごめんね、こんな場所しか用意できなくて……」

 花邑毬乃は申し訳なさそうにそういう。

 こんな場所だって? とんでもない。ゼロが四個書かれた札達が、天使の羽をつけて空へ浮かんでいく幻覚が見えるぐらいの高級店だぞ。

「いえ、自宅近くにもこんな素敵なお店があったのかと驚くばかりです」

 花邑毬乃は学園長件理事長として何度か主人公たちの前に現れるキャラクターだった。とはいえ、主人公たちには深く絡むことはない。裏で暗躍はするが。

 設定上、魔法会の重鎮で学園の理事長をしていたから、お金持ちであることは予想できた。しかしこれほどとは思ってもいなかった。

 小さく息をつきながら、サイコロ状に切られたお肉を口の中に入れる。まるでスポンジケーキのように柔らかく、一噛みするだけで肉汁があふれ出る。こだわり抜いて作られたのであろう醤油ベースのソースが、口の中を幸せでいっぱいにさせてくれる。以前食べていたサンダルの底みたいな奴と比べてはいけない物だ。


 いままで食べたことが無いような豪華な食事をいただきながら、じっと毬乃さんを見つめる。年齢を一切感じさせないきめ細やかな肌。思わず触れたくなるような、ほんのりウェーブしている髪。そして優しい印象を与えてくれる、少し垂れた紫色の目。

「どうかしたの?」

 顔を見すぎたのだろうか。花邑毬乃は首をかしげながらそんなことを言ってきた。

 しかし『エロゲの登場人物が目の前に居るから』だとか『学園で教授をしている娘が居る年齢に見えないから』だなんて言えるわけもない。ていうかエロゲあるあるのおばさん美人であるが、これは若すぎるだろう。制服を着ていたら学生でも通せてしまえそうだ。

「いえ、魔法界の有名人がいるのが信じられなくて……」

 とりあえず適当なことを言っておく。この世界がゲームと同じなら、有名人なのは間違いない。

「あらあら、そんな気にしなくて構わないのよ、それにこれからはもっと気軽に接してもらうんだから」

 はて、と彼女が何を言いたいのかわからず首をひねる。

 花邑毬乃は目を細め真剣な顔をした。

「瀧音幸助くん」

「は、はいっ」

 のほほんとしていた彼女はどこへやら、言葉に圧を感じ思わず姿勢を正す。

「単刀直入に言います。私の子になってもらいます」

「……?」

 え、今なんて言った?

「あなたは私の子供になります」

「……ゑ!?」

 どういうことだ。意味が分からない。なんでまた超展開がこんなとこで起こってるんだ!

「相談なしですすめてしまって申し訳ありませんが、魔法使い保護法に基づき親権はすでに私に移りました」

 親権が移った? いやちょっと待てよ、一体どういうことだ? 確かに俺は親権を誰かに移すか、もしくは世帯主にならなければならなそうな気がするが、だったら市役所へ行って資産住民票やらの……あれ、この世界ってそこら辺どうなってるんだ?

 いや、今はそんなことはどうでもいい。花邑毬乃が親になるって? ツクヨミの魔女だぞ!? Sランクモンスターをソロで粉砕したという噂の有る魔女だ。成人した子持ちだってのに玉のような肌を保ち、学生にしか見えない容姿をしている魔女だ! 攻略対象に居なくて絶望し、仲間の紳士たちとユーザーサポートに突撃するきっかけとなったあの魔女だ。結局ヒロイン化しなかったし、イベントの追加もなかったあの魔女だ!

「よろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします?」

 その後立て続けの不幸に見舞われた瀧音幸助へ、憐れみの言葉をかけてくれた。とはいえ中身が瀧音幸助ではなく、俺なのだ。さっぱり不幸の実感がわかない。

 それから花邑毬乃の話を聞くに、どうやら彼女は母親の親戚、しかも母親の従姉妹らしい。母方の祖父が養うとも言っていたらしいのだが、母が遺言を彼女に残していたこともあって、毬乃さんが後見人となったとか。学費や生活費は毬乃さんが支払ってくれるらしい。

「それで君には私の持ち家に住んでもらうけれど、準備は大丈夫?」

「持ち家……ですか? えっ学園寮じゃなくて!?」

 思わず突っ込みを入れる。

 ツクヨミ魔法学園は国が出資している魔法教育機関である。実力も並ではなく、国中のエリートやら他国のエリート達が入学してくるほどだ。なぜアホの瀧音幸助が合格したのかわからないぐらいの超エリート学園だ。

 そんな多国籍が入り乱れる学園だからこそ、学園寮があるのだろう。瀧音幸助はゲーム内でその寮に住んでいた。それも主人公の隣部屋だった。

「もちろん、それでも構いません。でも私たちは家族になります。家は学園の近くだし、なにより仲良くなるために一緒に生活したいと思ったのよ」

 ……ちょっと待ってくれ。混乱しっぱなしなのだが。

 そもそも俺が瀧音幸助になったことからして意味不明なのに、ゲーム内で語られなかったクッソ重い裏話知って挙げ句の果てに美魔女の住む家に居候?

 何でエロゲみたいな展開が起こってるんだ?

 いや、この世界がゲームの世界と同じであれば、エロゲ世界か。しかし俺は脇役という飾りのようなもので、少し息を吹き掛ければ吹き飛びそうな雑魚なはずだ。そんな俺に彼女は家にこいと言ったか。しかし彼女の家には。

「でもたしか娘さんがいらっしゃいましたよね。彼女は嫌がるのではないでしょうか……」

 花邑毬乃の娘は若いながらも学園の教授をしており、主人公に重要な技を授けてくれるキャラだ。設定では亡くなった父親の研究を引き継いでいるとかなんとか。ていうか毬乃さんと母が従姉妹なら、毬乃さんの娘とは又従兄弟の関係だ。

「それに」

 俺は言葉を続けようとしたが、彼女はまあ待てと手を出す。

「たしかに私には娘がいます。でもちゃんと了承を得てきてるわ。それにあなたは色々気にしなくていいの」

 いや、そう言われても……。俺が寮にいないことで、主人公のいくつかのイベントが進まなくなるんじゃなかろうか?

 もちろん口には出せない。どうすべきか考えていると、毬乃さんは小さく首を振った。

「……考える時間も必要よね。ただ、覚えててほしい。私たちはあなたを歓迎するわ」

 たぶん、なんらかの勘違いして、気をきかせてくれてるんだろう。実は別の理由で悩んでいただけだが、まあ訂正するにも理由が思いつかないし、このままでよいかもしれない。

「すいません」

「もう、なに謝ってるの? あなたは気にしなくて良いの、あと他人行儀はだめよ」

「寮が利用できるようになるのは一週間前から。今日から計算すると二週間後から利用できるわ。だから二週間が一つの区切りね。それまでに寮か私の家を選んでほしいわ」

「はい」

「それと住む住まないとは別にして、一度私の家に来てね。娘も紹介したいし」

 まあ、それはそうだよな。何にせよ、一度彼女の娘である『花邑はつみ』と挨拶はしなければならない。一応親戚なんだし。

「ええと、それはいつでしょうか…………ええと、いつなの?」

 ぶすっとした表情で睨まれたが、語尾を変えるとすぐに笑顔に変わる。

「あなたの準備ができ次第。今からでも構わないんだけれど、さすがに準備ができないだろうし。そうそう。寮に行くにせようちに来るにせよ、荷物はいったんうちに送ってね」

 わかりました、と頷く。

「ええ、お金は荷物が来た時に私が払うわ。知り合いの業者を利用するから、準備ができたら私に連絡を頂戴」

 と言われてはっと思い出す。

「そういえば俺連絡先を知らない……そもそもスマホとか持って無いんだけど」

 自分が瀧音幸助かどうか調べるときに、携帯やらスマホも探したが、残念なことにそれは見つからなかった。ゲームでは学園で主人公と端末情報を交換したから、実はもっているか、それまでに購入するだろうと思っているが。まあ学園に入学したらしたで、別の連絡方法も使えるようになって、そっちが主流になるのだが。

「忘れてたわ、そういえば一年前から持ってなかったわね」

 はて、一年前というと、両親が死んだあたりだろうか。理由はわからんが、彼に何かあったんだろう。

「これから買いに行きましょう」

「あ、いや別に電話が無くても別に困らないから」

 俺としては無理に欲しいとは思わない。そもそも連絡する相手もいない。

 彼女は眉根を下げ、まるで可哀そうなものを見るようにこちらを見る。

「貴方の両親が魔族に殺される前に電話が来たのでしょう。私にも電話が来たから知っているわ。それが、あなたの中でトラウマになっていることも察せる」

「っっ!?」

 瀧音幸助はどれだけ不幸なやつなんだろうか。もう彼にかける言葉が見つからない。

 そういえば主人公が瀧音幸助にかける電話は、必ず出なかった。寝てたとか言ってたけど、ただトラウマだっただけか! つか両親魔族に殺されてたのか。どうりで魔族に対して過剰反応するわけだ。

「でも何かあったときに電話できる物があると違うから、できれば持っていてほしいの。万が一があれば私が駆けつけるわ」

 同情がきつい。てかこんなにつらい境遇なのに、学園であんなお調子者キャラやってるってもはや異常だ。多分いろいろ壊れてる。たまにぶっ飛んだ発言するキャラだと思っていたが、こんな境遇じゃ仕方ないかもしれない。とりあえず。

「ええと、買ってくれる? スマホを持ち歩くよ……」

 至極心配そうに俺の顔を覗く毬乃さんからは、

「無理はしなくていいからね」

 と声かけられる。俺自身としては、無理してない。

 食事後すぐに携帯ショップ店へ向いスマホを入手した。店に入るなり『一番高いものを用意して』と言い放つ新しい母に驚き呆れたが。

 それから少しして家に帰宅し、これからどうするんだと彼女に尋ねる。二人で早急に引っ越しの準備だろうか、それとも役所などの手続きだろうか? 色々考えていたが、まさかの答えだった。

「ごめんね、本当はもっと一緒に居たいんだけれど、これから仕事なの……」

 そういって彼女は家を後にした。俺をおいて。

 毬乃さんを擁護する言い方をすれば、彼女だって忙しいのだろう。それはわかる。彼女は学園の主であり、さらに魔法協会の中でも権力者である。

 だが来て早々新しい母になるという爆弾発言をしたその日に、仕事でしばらく会えなくなるとかどういう了見だろうか。

 俺自身としては……まあたいしたことではない。この体に生まれ変わったのだか、入れ替わったのだかで不幸の実感が無いからだ。

 しかし瀧音幸助はいろんな不幸が続いたあとに、急に新しい親ができて家を引き払わなければならなくなったのだぞ。底知れぬ不安が渦巻いているだろうに、新しい母は傍にいてやらず、仕事へ行ってしまうと。

 もはや瀧音幸助は、ゲーム内で引きこもりになっていないのが疑問に思えるぐらいだ。ハイテンションで「マジィ!」とか「ちょぉそりゃないでしょ!」とか「あの子すんげーかわいくね? ナンパしようぜ。お前暴漢の役な、俺がさっそうと助けるヒーロー役な」とか言ってたが正直信じられない。

「マジで可哀そうだな……」

 まあ瀧音幸助のことはいい、まず自分のことだ。

「それにしてもこれ……多すぎじゃね?」

 目の前に置かれているのは分厚い封筒。そこから顔を出す札束。毬乃さん曰く『一週間の生活費』らしい。一つ言えることは。

「毬乃さんは金銭感覚がマヒしてるな」

 封筒から束になったお札を出す。その金額は俺が高校時代に貰っていたお小遣い数十年分くらいはある。一週間ずっと特上寿司の出前頼んだって消費しきれないどころか、普通に車が買える。

 全部使いきっていいよ! と笑顔で言われたがどうやって使うのだ。ブランドバックやら高級時計でも買えって言うのか? ほかに高そうな物……この世界でいえば魔具とか。

「……まてよ?」

 俺はとてつもなくすごいものを持っていないか? 一般人が喉から手が出るほど欲しいものを、だけどなかなか手に入らないもの。

 金と権力。

 どうやら最強を目指す俺の背中には追い風が吹いているようだ。


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