Scene 3
──最高にイケてる役を演じてください、先輩っ。
放課後。リュックに教科書を詰めながら霧乃の声ばかりが脳内でこだまするが、どうにもえらい事態になってしまった。
制作する映画の内容すら決まっておらず、コンテストの期日は来月。
編集やら様々な工程を考えれば、今すぐにでも撮影を始めねばならぬ状況のようだが、あれこれ考えているうちに丸一日が経過した。
そもそも、演技ってなんだ。イケてる役ってなんだ。
あれから霧乃に「オススメ映画50本ノック」というとんでもない宿題を課されたが、まずは1本2本と観たところで答えはまるで出てこなかった。
ならばその答えは日常の中にあるのだろうか。
放課後の教室をぐるりと見回し、まずはクラスの序列の高そうな連中の観察を試みる。
すぐに目に入ったのは、やはり桜はるかが属する一軍・オブ・一軍グループだった。
「
どの角度から見ても桜の表情に隙はなく、昨日俺に見せていた様子とはまるで違う。見事な猫かぶりっぷりだと心の中で拍手していると、彼女と笑う男女らはまた違う意味で彼女を賞賛していた。
「あ、てかてか。演劇部の舞台、観に行ったよー! めっちゃはるかキレイだった! なにあれ、この世で一番キレイ的な!?」
「そうそう! はるかの演技も凄くてさ、泣いちゃったもん! もうさすがすぎ!」
「えー、盛ってないー? でも嬉しいな。わざわざ来てくれてありがとうね?」
演劇部。舞台。桜は霧乃の活動とはまた別に動いているということだろうか。
確かに桜の演技はガチ勢の気配を感じたものだ。ほうほうなるほど、どうりで。なんて頷いていると、当然こんなことが頭をよぎった。
俺はそんなガチ勢とこの先一緒に演技をして、大丈夫なのだろうか……?
演技の世界は上下関係が厳しいとも聞く。俺はこれから桜さんに毎日パンでも奉納した方が良いのだろうか。とりあえずはお好きなものでも拝聴しようと観察を続けていると、今度はクラスの後方からけたたましい声が上がっていた。
「
むさ苦しい男共が輪を作ってワイワイと集まっていると、その中心で椅子にのけぞっているのは坊主頭の大男だった。
「お前、それ脳内ループっつか完全に歌ってたろ、授業中」
「歌ってねーし! つーか
「あー……なんか隣のクラスの安藤に見えるっつうか」
「似てねーし! つーか安藤は男だろうが! いや、つーかそう言われるともう安藤にしか見えねーわ! ふざけんな!!」
う、うるせぇ……。
それは、野球部の二年生ボス・
しかし、よくよく様子を見ればああいうウザノリにも濃淡があるらしい。ボスの石田はどっしりと構える一方、取り巻きの中にはニヤニヤキョロキョロと周囲を窺う奴もいて、あれはきっと女子の反応でも気にしているのだろう。こうして一人一人の動きを分析してみれば、見えてくるものもありそうだが……、
「みなさん聞いてくださーい! 石田はこのあと他校の女子と密会らしいでーす! 俺たちを差し置いて野球部のエース様はお楽しみでーす!」
「ちげーよ、男もいるから。つーかオレはただ座ってる役だし……来い来いってうるさかったんだよ」
「は!? なに、ちくしょー! おれも女子にしつこく誘われてぇー! 他校の女子とマッチングしてぇー! ぎゃはははは!!」
や、やっぱりうるせぇ……。
そういうノリは一体どこで習うの。俺はどこからも教わらなかったよ。もっとコーヒーの淹れ方とかを静かに語り合うクラスであってほしいんだよ。
しかし、こんな連中の中にも「イケてる役」のロールモデルがいたりするのだろうか。なかなか理解に苦しむが、俺は俺なりに結論を出すべきだった。
最高にイケてる役とは。役者のスタートを切った俺が描く像は、あいつらとは違う。
──広がる教室での輪。周りにはクラスメイトが集まり、そのカーストランクはいずれも超一軍。俺はといえば最高のディナーを終えた翌日、優雅な話でクラスを上品に盛り上げる。
「横浜でのディナー、最高だったよ」
「まあ、それは素晴らしい。お味はいかがで?」
「海の風味をきかせた小エビが口の中で踊るようだったな」
「それはそれは。ワタクシも踊りたくなってしまいましたわ」
「ふふふ。じゃあそこに一同、並びたまえ」
「あっはっは」「うふふふふ」「わっはっは」
まるで貴族の日常。最高にイケてるじゃねぇか……。
そうぶつくさと呟いていると、スマホがぶるっとメッセージを受信していた。
『今日もこのあと集合だから。忘れてないよね』
それは周囲に笑顔をふりまきながら、器用にスマホを触る桜からの連絡だったらしい。絵文字もなにもない簡素なメッセージだが、この温度差はなに。
しかし良いところだったのに中断させられてしまった。まあ良い、後であいつらの前でやってみるとするか。
席を立ち、よっこらせとリュックを背負ってから例の教室まで向かうことにした。
*
「城原クンはさ、演技のことバカにしてる? 今のはドッキリ? うん?」
「せ、先輩……それはちょっと……うーん……」
日が沈むにはまだ早い、放課後の西校舎四階。旧視聴覚室。
役者生活二日目の俺は早くも壁に追いやられていた。
どうしてこうなった。俺は披露してみせただけだ、「イケてる役」というものを。
だが、桜が口角をヒクつかせてからは戻る気配が一向にない。霧乃に至ってはもうずっと地面を見つめている。その瞳から初めて光が消えていた。
「あの、桜さん? 今の『横浜でのディナー』のくだり、そんなやばかったですかね……? き、霧乃も俺より地面見てる方が楽しい感じか? ははっ……」
やり直したい。もう海が誕生する時代辺りから生命をやり直したい。
そんな俺のひどい有様を見て、桜はふーっとクソデカため息を漏らしていた。
「……まあ、やる気がないよりはマシか。なに、それは昨日、雫ちゃんに『最高にイケてる役』なんて言われたからそう解釈しちゃったの?」
「はい、おっしゃる通りです……」
「先輩、笑わそうとしたんじゃないんですか? 先輩なりに考えてくれていたんですか?」
「も、もうやめてくれ……分かった、俺にイケてる役なんて無理だって分かったから……今日はもう帰らせて……」
が、霧乃ははてなと子どものように首を傾げていた。
「先輩にはとっておきの『ウソ』があるのに、諦めちゃうんですか?」
「いや、ウソったって。元のスペックが足りなきゃどうにもならんっつの。こんな俺が急にイケメンになれると思うか? 最近は特殊メイクの技術がそんなに凄いのかね……」
「は? イケメン?」
そんな言葉に食ってかかったのは、桜だった。
「城原クン、なにか勘違いしてない? ワタシたちが求めているのは、役者としての城原クンなんだけど。別にアイドルやモデルをやれって言ってるんじゃなくて」
「はぁ……じゃあ役者に求めることってなんなんだよ」
「『伝える』ということ。顔や身体なんてそのための道具だから。たとえ顔に自信がなくても、表情や姿勢、感情を使って技術で補えばいい。他にも話す時の抑揚や身振り、立ち回り。いくらだって戦う武器はあるんじゃない?」
「ほ、ほう……?」
「演技することを『ウソをつく』って言うのは失礼だから、ワタシはそう言いたくないけど。でも、城原クンの場合は今までムダに解像度の高いウソをついてきたんだから、技術職である役者の適性はゼロじゃないんじゃないの?」
そんな話を聞いて、霧乃はニコニコと目を柔らかくして頷いている。
桜のように「美」がいくつも並ぶような女子に言われて説得力のある言葉かというと悩ましいが、確かに彼女の演技を見れば、決して容姿だけで戦っているのではないのだろう。
霧乃は俺のウソが必要だと言ったが、ウソなんて日ごろ誰もがつくものだ。じゃあ、俺にとっての武器はなにかあるのだろうか。桜は続けた。
「そんな城原クンにまず学んでほしいのは、スタニスラフスキー・システムを突き詰めたことで三派に分かれたストラスバーグ、アドラー、マイズナーそれぞれの演劇に対するマインドかな」
「は、はい……? スタニ……ニクスキ……?」
「そして王道となるシェイクスピアの脚本にチェーホフの台本回し。城原クン、じゃあ今から絶対に読むべき本を渡すからそれを読み込むことから始めてね?」
「うーん、はるか先輩? ちょっと舞台役者さんとのカルチャーの違いを感じますよねー。私はガンガン撮りながらガンガンPDCA回してほしい派なので、もう少し実践的な方法で先輩に教えてくれませんかね? ほら、特訓編みたいなものとか!」
「あの、雫ちゃん? 何事にも段階があって、内側から沸き上がるリスペクトだって必要なの。雫ちゃんだって分かってるよね、演技という二千年の歴史の深さを。寿司職人になるのだってマインドから身につけて、何年も修業を積んでやっと一人前になれる」
「いや、先輩お寿司握りませんし(笑)」
「たとえの話だよ? ちゃんと話聞いてる? 雫ちゃん(笑)」
怖い怖い怖い。やめてください、俺はもっと静かにキャッキャウフフと活動したいんです。なんでこいつらこんな殺伐としてんの、笑顔で岩石投げ合ってるんですけど。
いずれ二人が大声上げて取っ組み合う未来が見えてしまったので、決死の仲裁を開始。おそるおそる意見を出してみることにした。
「あ、あの。とりあえず、有名なシーンとかあるよな……?」
「有名なシーン?」
「そういうのを例に説明してくれると嬉しいな、なんて……」
言うと、霧乃はうーんと考え込む。隣で桜は「シェイクスピア」と五回ほど呟いていた。
「分かりました。じゃ、とりあえずイケてる役を先輩にワンシーン演じてもらいましょう。お題は『現代版・ロミオとジュリエット』で!」
「え? 演じるって。俺が今ここでやるの?」
「そうですよー。じゃあ一旦は私のスマホで撮りましょう。はるか先輩は相手役のジュリエット、お願いできます?」
「別に構わないけど。どういうシーン?」
「こんな感じはどうですか? 『たまたま合コンに参加したら超絶タイプの女子に一目惚れ。だけどその子は自身が恐れる陽キャ一派に属していた。なにもできずに解散しフラついていると、偶然にもその子をマンションの前で発見し、エントランスまで侵入したところで運命的に遭遇。でもでもその子のお部屋では陽キャのお友達が二次会をおっ始めているらしく、忍び込んだことがバレたらクラスで間違いなく悪いウワサが流れちゃう。それでも彼女には想いを伝えたい。そんな状況にて、なんとか愛を伝えなきゃ!』──なんて、ロミジュリを現代版にしてみました〜」
「めちゃくちゃ捻くれた設定だけど……まあ、いいや。じゃあワタシは『どうやってここまで来たの?』って言うから。城原クンはロミオっぽく『愛に導かれてやって来ました』とか、そんな感じでお願いね」
淡々と告げた桜は前に立ち、霧乃は一歩離れてスマホのカメラを俺に向けていた。
「ちょ……待て待て。俺に今、ロミオをやれって? ていうかそいつイケてないだろ。忍び込むってなに。明らかにヤバいんじゃないの」
「まあまあ! イケてるかどうかは先輩のがんばり次第ですから、大丈夫ですよ〜!」
「大丈夫って。いや、俺にはまだ心の準備が……」
「じゃ、行きますよー。3、2、1……よーい、はいっ!」
お構いなしに撮影開始の電子音が鳴る。
対面する桜はゆっくりと瞬きしてから、その視線を俺に向けた。
目の奥から伸び、突き刺してくるような眼力。
ぎょっとするが、それは蠱惑ささえ秘めたお嬢様の訝る視線。毒だか薬だか分かったものじゃない。とてもじゃないが逆らえそうになく、賽は投げられた。
『どうやって……ここまで来たの?』
ひとつ間を置き、届けられた細い声。
希望と不安が交錯するジュリエットの瞳が目前に映った。
そしてこの瞬間にも彼女の瞳は変化し、ほんのりとした甘さが香る。
どこか俺を待ち焦がれていたような上目遣い。ああ、身体が引き寄せられそうだ。
次に続くロミオのセリフ。愛に導かれてやって来ました。こんな短い言葉だったはずなのに、そのひとつがなかなか出てこない。言葉が飛んで逃げていってるのではなかろうか。
それでも、俺が演じるものは愛を伝えるロミオだ。表現に徹せねば。
『……愛に、導かれて──やって来ましたっ』
はじめは声を低くしてみせ、それから少し抑揚をつけて。こんなものだろうか。
やがて「はい、カット」という霧乃の合図で撮影が終了した。
「ふふ。せーんぱい、こんな感じになりましたよ?」
霧乃がとてとてと近づき、柔らかな表情で動画を再生してみせる。
が、それを見た瞬間──え、と声が出そうになった。
そいつはまるで、一輪の薔薇を口に加えたようなとんでもキザ男だったから。
桜の作った空気感をすべて台無しにし、場面をコントのようにしてしまった。
なんだこれは。情緒もへったくれもないギャグシーンじゃないか。
申し訳なくなって桜の方をそっと見ると、ジロリと睨み返された。
「0点の城原クンに質問。役者に求めることはなんだっけ? さっき言ったよね?」
「……伝えることです」
「うん、正解」
そう言った桜の目は仄かに優しい。
よかった。怒られていない。てっきり演技をバカにするなと俺をハチャメチャに罵るものだと思っていた。本当によかった。
「うんっ。正・解」
すると、桜は同じ言葉を繰り返す。
今度は「タメ」を作り、言葉ひとつひとつを強調している。ウインクまでして見せた。
「え? あれ、今なんで同じこと二度言った? 俺のことバカにしてる?」
「ちーがーう。バカにしてるけど違う。今のはね、『リアル』と『デフォルメ』の違いを見せてあげたの」
「お、おう……? リアル? デフォルメ……?」
「『リアル』っていうのは一回目の言い方。まあ、自然だったと思う。それで二回目の言い方が『デフォルメ』。違和感なかった?」
「……その、悪いけどちょっとわざとらしい感じがした」
「城原クンのさっきの表現がそうだよね。デフォルメは『演じている自分を魅せる』ために使われるけど、城原クンはそれをやり過ぎた感じかな。今のワタシが【正解】ではなく、【正解を伝える役】を表現してみせたように」
「つまり、俺は【愛】じゃなくて【愛を伝える役】を表現していたってこと……?」
「そういうこと。『デフォルメ』を使う場面もあるけど、情報の距離が近い映像の世界で求めているものは『リアル』だから。城原クンは『本当に愛を告白する人』にならなきゃいけなかったの」
「本当に愛を告白するって。俺にそんな経験ないんだけど……」
言うと、桜は人差し指を立てる。その説明を補足した。
「これから方法論の話をします」
「方法論?」
「イマジネーションを呼び込むために『観察』をするという話。経験がないって言うけど、超能力や魔法の飛び交うSF映画の役者が本当にそんな経験をしていると思う?」
「……さすがにそれはないか」
「だよね。じゃあ城原クンは普段ウソをつこうとする時、どんなことを考えた?」
そう問われ、考える。例えば俺が店長の前でウソをついた時、どうしていただろうか。
もしも大天使の妹がいたら。そんな
「あれはとにかく想像の世界だよな。観察っていうのはよく分からないけど……」
が、霧乃はほけっと小首を傾げていた。
「いえいえ? 先輩はちゃんと観察されていましたよ?」
「へ?」
「ご自身で考えたとはいえ、人物について文脈から観察されていましたよね? でなければ、ただワンワンと泣いちゃっておしまいでしたから!」
それは病気の妹がいるという設定だけでなく、お兄やんの疲労感や日々の振る舞いまで再現してみせた、ということを指しているのだろうか。
「うん、観察の対象はなにも目の前に見えるモノだけじゃない。でも城原クンはさっきのロミオの演技でまったく観察をしていなかったよね?」
桜にそう言われ、思い返す。
ただ「愛を告白する」という人物描写にだけ想像を膨らませ、オーバーな声音を作ってみせた。それこそが観察を疎かにした故の結果だろう。
「そう……だよな。色々と設定を言われたのは分かったけど、全然イメージが湧かなくて頭を素通りしたっていうか……」
「実際に目の前で起こったわけでもなかったからね。ワタシの飛び降りを止めようとした時は解像度が高かったから、これからは日頃の観察を意識して場面の引き出しを増やすようにしたら?」
「それは賛成です! 溺れるシーンを再現するために、あえて海で溺れて『観察』してみる役者さんもいるんですよ!」
「あの、霧乃さん。まさか俺を溺れさせたりしないですよね」
「まさかーするわけないじゃないですかーあははー」
覚えておこう。海、船、サメ。この辺りの言葉が出てきたら、走って逃げ出そう。
だが今日の話をまとめると、演じるためにはもっと状況や文脈を分析しろという話だ。
一応は理解してみせると、桜は「よろしい」と頷いていた。
「かの名優サルヴァーニは、シェイクスピアのオセローを演じた際に開演の何時間も前から舞台のあらゆる位置に立って『観察』を徹底していたと言います。なぜそんなことを? と思うかもしれないけど、舞台を取り巻くあらゆる場に主観を移すことも大切なの。……まあ、この話は城原クンにはまだ早いと思うけど。ちなみに城原クン、シェイクスピアの四大悲劇はちゃんと観たことある? オセローの他にはハムレット、リア王、マクベス。どれもセリフは長いけど王道で、たくさんの感情表現がある。日常的なセリフ回しなんかはチェーホフがおすすめだけど、セリフを読むだけで多くの感情や葛藤を網羅できるという意味では絶対にシェイクスピアは押さえるべきね。もし城原クンが舞台を体験したことがないなら、まずはこの辺りから攻めていって……」
「あー、はいはい! おっけーですよはるか先輩! 今日はこの辺にしておきましょう!」
「雫ちゃん? まだ話の途中なんだけど?」
「あっはっはー、すみません! ほら、先輩はいっぺんに詰め込みすぎて壊れちゃったみたいで! ね、先輩?」
「ふにゃ……ふにゃあ……」
「うーん、じゃあ仕方ないなぁ」
本日の講義はこれにて終了。俺の頭も終わってしまった。
やがて桜はやれやれと席に戻り、自分の鞄を手に取る。
これからどこかへ移動するようで、すたすたと教室の出口まで向かっていた。
「じゃ、ワタシはこれから演劇部の方に顔出していくから。城原クンはちゃんと復習しておいてよね」
「お、おう。勉強になったよ、ありがとう」
「どういたしまして。あ、それと雫ちゃん」
「はい?」
「応募する映画、結局どうする? まだどんな内容にするか決まってないよね?」
聞かれた霧乃はうーんとわざとらしく考えた後、軽い口調で返していた。
「そうですねぇ、間もなく決まるかと!」
「そっか。ワタシもちゃんと役作りしたいし、もう時間もないからさ。その辺りはちゃんとお願いしたくて。大丈夫そう?」
「はい、もちろんです! 監督の私がバッチリ責任を持ちますのでっ」
そう言った霧乃は「先輩も加わったことですし!」と付け加え、えいえいとじゃれるように俺の肩を猫パンチしていた。
そんな様子を見て桜はふっと笑い、やがて扉を閉めて出ていくと、音を持っていかれたように教室はしんと静まる。
途端に緊張が解けたのか。ぐったりと椅子に腰掛けたタイミングで、なにやら俺のお腹が空腹でゴロゴロと音を鳴らしてしまった。
「……あ」
「うん? 先輩、お腹減っちゃったんですか?」
「まあ……昼、ちょっと少なかったかも……」
「そうなんですか? ちなみに私もお腹減りましたっ。ふへへ」
そう言ってお腹をさすって見せるが、このふざけた様子があざと可愛いなこいつは……。
どうにも霧乃は俺に毒を呑ませながらも、的確に小悪魔ムーブをしてくる傾向がある。このままだと一緒にご飯でも行ってしまいそうだ。そしてハチャメチャに奢らされそうな未来すら見えている。いかんいかん、気を引き締めねば。
そうこう考えていると、予想はほとんど的中。
霧乃はちょいちょいと俺の制服の裾を引っ張っていた。
「先輩。この後ってお時間あります?」
「……ないけど。家に帰る」
「たくさん勉強すると甘いものが欲しいですよね? ちなみに私は勉強しなくても甘いものが欲しいです」
「いや話聞けよ。お前の糖分事情なんて俺は知らな……」
「オシャレかわいいカフェで先輩の歓迎会がしたいです。ダメですか……?」
健気だ。可愛い。行こう。メニューの端から端まで奢ってやろう。
思えば俺は生まれてこの方、自分が主役となるイベントに参加したことがない。友人との誕生日会は言わずもがな、歓迎会というものも経験したことがない。バイト先の歓迎会? いやねぇよ。うちは外資系みたいにドライな職場なんだよ。……なぁ、俺だけやってないはずないよな、店長……?
そんな後輩の歓迎会を断わりゃ仏の教えに背くというもの。颯爽とリュックを背負い、教室の扉をガラリと開けてやった。
「……俺はコーヒーにはうるさいぞ」
そんな俺の返しに霧乃が笑いを堪えているような気がしたが、気のせいだ。
*
空に広がったいくつもの雲。
どれもとっても自由な形ですよね。霧乃がそう言うものだからまじまじと空を見つめてしまったが、彼女はもう空なんて見ていなかった。
大きめの通学リュックを背負い、舗装された海沿いの道で俺の前を歩く霧乃。
やがて彼女が大きなタイルの上にひょいと飛び乗ると、軽やかに俺の方を振り向く。
海風で髪がさらりと揺れ、その小さな背中には羽がついているようにも見えた。
「私、嬉しいです。先輩がマジメに役者さんに取り組んでくれて」
「マジメって。あんなひどい出来栄えなのにイヤミかそれは」
「いえ? だってはるか先輩に言われたこと、あとでこっそりメモしていませんでした?」
「……なんで知ってるんだ……」
陰で隠れてやっていたのに、もうこいつはパノプティコンなんじゃないの。
ただ、同じ失敗を繰り返して怒られたくないだけだ。今まで散々ウソをついてきた人間をマジメだなんて、それは違う。霧乃は一体どんな見方をしているのだろうか。
「ふふっ。本気だって言ってくれたらもっと嬉しいんですけどねー」
そう言った霧乃はリュックから不思議なスティックを取り出し、手に持つスマートフォンと合体させていた。撮影時の手ブレを防ぐジンバルというものらしく、首がウォンウォン唸っている様子に未来感を受けていると、撮影開始の電子音がぴこんと鳴った。
「っておいおい。なに勝手に撮ってるんだよ」
「ダメですか? 別にSNSに晒して炎上とかはさせないですよ?」
「い、いや……その、肖像権的に……」
「監督の私は肖像権使用の同意を得ています。さらに言えば、先輩の人格権も人権も私が持っていますが?」
「ウソでしょ。ここだけ中世に戻っちゃったのかなぁ……」
霧乃は「はい、そうです」とクスクスと口元を押さえていた。
「でも、監督の仕事は職権濫用ではないです。最高の映画の完成責任を負うことです」
「はぁ。最高の映画、ねぇ……」
「先輩はどんな映画が好きなんですか?」
それは少しばかり、改まった声音だった。
最高の映画も好きな映画も、俺にはまだそんなもの見つからない。
だけど、昨日観せられた霧乃の映像については、その続きを観たいと思った。
ストーリーも技術も超大作だったとは到底思わない。それなのに不思議と魅かれるものがあった。なぜだろうか。
──たとえその理由を言語化できたとしても、俺が口にすることはきっとあるまい。
スマホのレンズから目を逸らし、最も近くにあった言葉を選んだ。
「……別に好きな映画なんてないけど」
「そうですか。じゃあこれからもっと私がオススメしてもいいですか?」
「まあ……ていうか、霧乃こそなにが好きなんだよ。一番好きな映画は?」
「うーん、一番は難しいですね。ロマンスにSF、アクション、コメディ、ホラー、さらにはB級、ゲテモノまで。ジャンル毎に好きな映画を挙げていけばキリがないかもです」
「おお……さすがだな」
「ただ、共通して言えることはあります」
そう言った霧乃はたんと足を踏み出し、一歩前に進んだ。
「主人公が活躍する作品です」
「主人公?」
「はい! 主人公がたっくさん活躍して、みんなを助けちゃうんです! かっこよくて尊敬できて、……あ、なんでもできちゃうのは違いますよ? 自分ができることを考えて、悩んで。とにかく、主人公にキュンキュンしちゃう作品が大好きなんです!」
「ほう……?」
「だから先輩もいつか、好きな映画を見つけてくださいね」
霧乃は無邪気に笑い、もう撮影はいいやといったようにあちこちの景色を映していた。
とりとめもない会話を続け、ようやく立ち止まったところで霧乃が「ここです」と指を差すと、そこはいかにも洒落た様子のカフェだった。
レンガ調の外装に英字の看板。欧風で優雅な佇まいは辺りの景色まで変えてみせるが、俺一人では絶対に入れない店だ。霧乃は普段、こんな所に通っているのだろうか。
「ささ、着きましたよ。お入りください!」
俺はやはり、霧乃雫という人物のことを誤解していたのかもしれない。
こいつは少し極端なところがあるが、素直で可愛い後輩だ。隙あらば棘や毒を俺に盛ろうとしてくるが、それは誰よりも飾り気がないことの証。
そんな後輩が俺のために開いてくれた歓迎会だ。精一杯楽しもうと扉を優しく開けた。
ドアベルがちりんと音を鳴らせば、耳が愉快に踊る。
後輩とふたりきりの平穏なティータイムの始まり……のはずだった。
*
「それじゃ、僕から挨拶をさせてもらうね。学生団体『オールコミット』を運営している
「同じく絢ノ森二年、ノーミュージック・ノーライフ的な
「
「
「辻橋高校一年生の霧乃雫です! 毎日楽しく映像作ってます! 遅刻してすみません、今日はよろしくお願いしますー!」
ここは地獄か?
雁首揃えて対面する男女ら。よーいドンで始まる自己紹介。脇汗ドバァに胃酸ドクドク。
こいつらは一体どこからやってきた。学生団体ってなんだ。DJグループってなんだ。アンバサダーってなんだ。俺だって今まで必死に生きてきたんだが、こいつら同じ高校生か?
とにかく眩い光を放つ、辻橋高校とご近所の絢ノ森高校の連中が四人。なにやら我がクラスメイトもその中に一人交ざり、屈強そうな坊主男は野球部エースの石田。声が低く、俺が苦手とする体育会系大男だが、店内の人間を一人で全滅できそうな上腕がやばい。ありゃ丸太だ。一撃でやられる。
そう。霧乃に案内されたカフェでは、キラキラ高校生らによる謎の会合が始まっていた。
いや、これはもう明らかに俺の歓迎会じゃないだろ。もはや俺の告別式だって。
隣に平然と座る後輩は一体なにを考えているのかと、小声で問い質した。
「(おい霧乃さん状況を説明しろ胃が痛い……)」
「(はい? 先輩の歓迎会と、ただ見知らぬ人とのお茶会ですよ? 今日は主催の三木谷さんという方の奢りらしいので、先輩の歓迎会も兼ねた方が経費削減になるかなぁと)」
「(ふざけんなよそれは歓迎会とは言わないんだよ。なんでそんな残酷なことができちゃうの? お前の経費削減のために俺の命まで削られちゃうの?)」
「(やだなー、大げさですよー。でも、これは先輩の演技上達のための第一歩になるじゃないですか!)」
「(は? なに、一度死の淵を経験して復活すると強くなる的な?)」
「(いえいえ。先輩、教室ではるか先輩に言われたこと覚えてますか? もっと色々な場面の引き出しを増やしましょうって)」
「(ああ、ロミオとジュリエットで指摘された『観察』の話か。まあ、いきなり合コンの設定なんて言われてもぱっと思い浮かばなくて……って、まさか)」
「(はい。これから経験できますよー!)」
……やられた。すべてが罠だった。
つまりこれは、演技のためのインプットを増やせという霧乃からの赤紙。
逃げよう。今ならまだ間に合う。こんなウルトラ陽キャサミットなんぞに出てしまえば、俺の気は数分と持たない。が、席を立とうにもこの場の長──三木谷蓮司の目は俺にスコープを当てていた。
「城原千太郎クン、だったかな。初めましてだね。親しみを込めて僕からは『千太郎』と呼ばせてもらおうか」
「あ、はい……いきなり下の名前だなんてここはアメリカみたいっすね、はは……」
「霧乃雫さんも初めまして。DMだけじゃなくて、リアルでも会えて良かったよ。親しみを込めて『雫ちゃん』と呼んでも良いかな?」
「あ、すみません。一身上の都合でそれはムリです!」
霧乃は笑顔で刺す。三木谷が「え?」と顔色を変えるが、切り替えは早かった。
「はは……ま、まあ、話を戻そうか。実は千太郎のことは直前に霧乃さんからメッセで聞いていてね。超一流の役者をやっているんだって? それを聞いて、ぜひ千太郎にも参加してほしいと思ったんだ」
「はい!? 超一流の役者!? なんだその話!?」
「……でも失礼だけど、千太郎の印象は思っていたものと少し違うかな。今日は皆が初対面なんだ。ぜひ、キミのバックグラウンドを話してやってくれないか?」
そう言われ霧乃の方に目をやると、ただにっこりと笑い返される。こいつのせいか。
「どうしたんだい、千太郎? 遠慮しなくて良いんだ、飛び入りゲストのキミには皆が興味を持っているよ」
──そうか。こうやって「観察」の力まで磨けということか。
始まってしまった地獄クエスト。これから俺は業火の中を駆け抜けなければならない。
読み解け、乗り切れ。この状況を。
まず、この集まりはなんだ。こいつらの目的はなんだ。
この場を仕切っているのは三木谷という男で間違いなさそうで、ソファー席に座らされた俺と霧乃はさっきから三木谷と目が合うたびに爽やかスマイルを向けられている。ふんわりとした明るい色のマッシュカットと品性ある顔立ちは毛並みの良いエリート洋犬のようで、眉目秀麗とはよく言ったものだ。
しかし、なにかが引っかかる。
我の強そうなパリピもギャルも、さっきから口数が少ない。もっとしゃしゃり出たり、さっきのような露骨な反応を示しても良さそうだが、今では隣の三木谷のことをちらちらと見ながら俺の返事を律儀に待っているようだ。
少し離れた場所に座る石田だけは呑気に欠伸してスマホを触り、温度感が明らかに違う。
だが、確か石田はクラスでこんなことを言っていた。「オレはただ座っているだけ」、「来いと言われた」、と。あれはこの集まりを指した発言だったのかもしれない。
こいつら、もしかして……なにか企んでいないか……?
三木谷のグラスの中の氷はほとんど溶け、ついさっき来たという様子ではない。
ならばここはひとつ、鎌を掛けてみるべきか。
唇の端をにっと上げ、賢しら顔を作った。
「……『スタミナニクスキー・システム』って知ってるか」
「は? スタミナ……ニク……?」
一同が呆然としたところで、三木谷の方にぎょろりと目を向ける。
複数の対人戦でウソをつく場合、できるだけ的を絞る。興味を持つ人間が複数いると、その視点の数だけ質問攻めされてしまうから。内兜を見透かされる質疑応答の時間を潰すことがバレないウソの秘訣だ。
ならば三木谷。お前だけがこの話に興味を持て。この場の意思決定権者のお前が頷けば、周りの人間もつられて頷く。たとえその中身を理解せずとも。
きっとお前はこういう話が好きだろ。ギアを上げるぞ三木谷ぃ!
「いわゆる、役者のための技法を体系化した演技理論だ。俺はこれを爺ちゃん、スタミナニクスキー=キハラから伝承し、高校生ながらも国内で初めて展開した第一人者でさ。パイオニアっつーのかね。確かにまあ、三木谷……いや、ミッキーから見れば俺は一見冴えない高校生だ。だけど、俺がカメラの前に立てば……」
鼻をうごめかし、手でろくろを高速で回す。ミッキーって誰だ。やめろ、他の連中はジロジロとこっちを見るな。もうここまで来たら引き下がれん、最後まで行ってやれ。すうと息を吸い込んだ。
「変わるよ、すべてが」
そう言い切ったところで辺りがしんと静まり返る。
吉と出るか凶と出るか。汗がつっと垂れたところで、ギャルが大きく身を乗り出した。
「か、かっこいいぃぃぃ! めっちゃ意外〜!? ちょっとキョドっててぶっちゃけ最初は引いたけど、もしかしてそれも演技だったってこと!?」
くそっ、イヤな質問だ。こうなったらお前の言葉を借りるぞ、桜ぁ!
「まあ……かの名優サルヴァーニのように、シェイクスピアの『オセロー』を演じた際の俺は開演三時間前からイマジネーションを徹底していたからな。この後は撮影だから、いわゆるウォーミングアップ的な段階で」
「や、やば! すっご!? 城原ピってもしかしてめっちゃ有名な人!? テレビとか出てたり!?」
「いや、テレビには出ないよ。そうしたら『テレビに収まる』人になっちゃうからね。俺は何物にも収まりたくないんだ」
「はわわわわわ!! すごいすごいすごいぃぃぃぃ!!」
だ、誰か俺を黙らせろ……。
普段の俺を知る石田は不審そうに眉を寄せているが、こちとら脇の汗がもう滝だ。
対して、三木谷は予想以上にこの話に食いついたらしい。見たこともない笑顔を見せ、口元から覗く歯はキラリと光沢を放つ。立ち上がった三木谷から差し出されたものは、握手を求める右手だった。
「恐れ入ったよ、千太郎。まさしくそんなパートナーを求めていた。これから僕たちと一緒に『オールコミット』で……」
──ここだ。
その眼差し。三木谷から向けられていたものの答えだ。
用意していた言葉を引き出し、喉元目掛け矢を放った。
「あー……しかしあれだな。『事務所』入って人間関係に飽き飽きしていたところに、こんな熱いメンツに出会えるなんてな。これも運命って奴か? はっはっは」
そう告げると、三木谷の手がぴたりと止まる。それから握手を交わした手の力は弱く、そそくさと三木谷の鞘に戻っていった。
「……僕の方こそ」
ニコリとした目は優しく穏やかに。されど「惜しかった」となにかを呑み込んだ表情を浮かべ、視線を下に向けた。
つまりは勧誘。それが三木谷の企みだった。
俺を一流の役者だと勘違いした三木谷は勧誘を企んでいたようだが、そいつが事務所所属とでもウソをついてやれば、強引な誘いはできまい。契約外の媒体に勝手に出演してはならないなど、それには面倒事がいくつも発生してしまうのだとネットの切り抜き動画が俺に教えてくれたんです、はい。
そしておそらく、パリピとギャルは三木谷を援護射撃するサクラだ。初めこそ辛辣な態度を取られてしまったが、二人は俺のことを三木谷から聞かされていなかったのだろう。
ともあれ、俺たちはこれから映画作りで忙しくなる。ただでさえ押しに弱い俺なんだ、勧誘が激しくなる前に早々に諦めてもらった方が互いに無駄な時間を浪費せず済むというもの。
さて、これにて一件落着。してやったりと霧乃の方を見返した。
「(こうやって『観察』して真意を見抜けってことか。いやー、霧乃に見事に試されたなー。ま、俺たちへの勧誘目的だったから今日はタダカフェできちゃうんだな)」
インプットを増やすだけでなく、こうして観察力を磨くことが演技のためなのだろう。
この策士めと思うが、いつの間にかチーズケーキを注文していた霧乃は、幸せそうに頬張りながらきょとんとした目を作っていた。
「(ふへ? そうだったんですか?)」
「(え?)」
「(私、今日は楽しいお茶会だと思っていました! いやはや、先輩はさすがですよ〜! 勉強になりましたね!)」
「(ま、まじすか……)」
なに、俺が勝手に一人で舞い上がっていただけでしたか。悲しい。
ようやく口にしたブレンドコーヒーは、とっくにぬるくなってしまっていた。
*
それからの三木谷は霧乃への勧誘を粘ったものの、霧乃は特に興味を示さずお断り。とはいえこれではあまりに三木谷が報われないので、とりあえずはと活動内容だけは聞かせてもらうことにした。
三木谷の運営する『オールコミット』という組織は、地域活性化を目的とするもの。そこでは簡単なPR動画を制作する予定で、映像クリエイターとして協力してもらうよう霧乃に声を掛けた。それがこの会の発端とのこと。
霧乃はそもそも甘いもの食べ放題に魅かれ、せっかくだからと俺を誘った。そこに俺をハメようなんて気はなかったようだが、随分と誇張した紹介だったようで、三木谷の過度な期待が俺に向いてしまったらしい。
パリピやギャルも、やはり三木谷のお仲間だったことを明かす。概ね想定通りだった俺は苦笑いしてしまうが、それからの場は和やかなものとなり、今はある話題で持ちきりになっていた。
そう。男女交ざって盛り上がる共通の話題といえば──あれしかない。
「あーやっばい! 恋バナしか勝たん勝たん! 次、石田ピはなに語ってくれんのー!?」
ほ、ほにょぉぉ……こいつらなんの話してんのぉぉ……。
ギャルは恋バナマシーンと化す。ここからが本当の地獄。
話を振られた石田とて乗り切れていないようで、もうほとんど黙る岩と化していた。
「お、おい……恋バナったって……」
「野球部のエースなんでそ!? なんかあるっしょー! 石田ピのタイプってどんなん!? あ、それとも既に彼女いるとか!? 写真見たい見たいーっ!」
攻撃力全振りのギャルはぐいぐいと攻め立てる。
一方で石田はといえば、金魚のように口をパクパクとさせていた。この男なら古代の王のようにたくさんの女性を両隣に並べてハーレムを築いている印象すらあったが、野球部の二年生ボスといえど、そういうわけではないらしい。
「あー、ダメだよサリちゃん。こいつはせっかくデート行っても岩みたいになんも喋んなくてさ、女の子からの返信こなくなるやつだからー」
「そうなの!? 石田ピって意外と奥手!?」
「お、おい名倉……その話はもう……」
「まあまあ、航平。鉄人のその話は前にも十分楽しんだろ? でもサリちゃんはそういう男、どう思う? 『しゃべったら即帰宅、沈黙デートの旅』とかやってみたら、鉄人にも需要があるかもしれないな。ははっ」
「えー! 三木谷クン、毒舌〜! ていうか三人とも仲良かったんだ!?」
「オレは絡み薄いけど、蓮司クンと石田は中学まで一緒の幼馴染っしょ?」
「まあ、そんなところかな」
なにかと侮蔑するようなやり取りが目立ち、石田の肩身が随分と狭そうだ。
石田といえば辻橋高校二年の運動部カーストのトップに立つような男だが、確かにあまり女子と会話しているところや、華やかな連中と絡んでいた印象はない。対して絢ノ森の連中は辻高の生徒よりずっとパーリー属性が高く、火と水の属性関係のようなものがあるのだろうか。
はぁ。しかし一体なんの話で盛り上がっているのやら。天上人らのやり取りを眺めていると、霧乃がそれはもう死ぬほど退屈そうにストローの紙袋でイモムシを作っていた。
「(霧乃はどうなんだよ)」
「(はぁ?)」
「(はぁ? って……。いや、霧乃もデートで無口な男はイヤか)」
「(知りませんよ。別に楽しければなんでもいいですケド。先輩のクセになにそんなこと考えてるんですかキモチ悪いキモチ悪いキモチ悪い)」
「(お、おい。なんでそんな機嫌悪いんだ。そんなに恋バナがイヤか)」
「(てゆーか先輩、さっきの話本当なんですか)」
「(さっきの話?)」
「(先輩の彼女さんとのデートの話)」
今しがたのやり取りを思い返す。
場は正に大恋バナ合戦。ギャルから真っ先に話題を振られた俺は、答えにしどろもどろしながらも適当な大ウソをこいてその場を凌いでいた。
毎週土曜のデートでは映画館のプラチナシートを予約し、帰りは美しい夜景の見える公園で手を繋ぐ。そんなデタラメなウソを汗だくで話すと、ギャルは目を輝かせ、三木谷はふむふむと頷いていたことを覚えている。
「(あんなん全部ウソに決まってんだろ……そもそも俺は彼女いたことすらないから……)」
すると、霧乃の目はいつものような逆Uの字に戻っていた。脛にはゴツンと霧乃のローファーがぶつかる。
「(痛っ!? 蹴るな蹴るな! なんだよお前は!?)」
「(なんだーウソでしたかー。もう少し分かるようにウソついてくださいね? ていうか先輩、まだ彼女いたことないんですか? 私より先輩なのに? やっぱり先輩はしょうがないなー。ふふっ)」
なにやら機嫌を直した霧乃は、ストローの紙袋で作ったイモムシを「えい」と俺に向かって投げつけていた。
やがてそんなやり取りをしている間にも、連中は新しい話題を見つけたらしい。
わっと突然声を上げたのはギャルだった。
「あれ!? てか石田ピ、カバンの中のそれ、なに!?」
そう言ったギャルが開き掛けの石田のエナメルバッグを指すと、汗臭そうなユニフォームに押されて冊子のようなものが飛び出ていた。
角は大きなクリップで留められ、明らかに学校プリントとは違う。それを勝手に取り出したギャルがパラパラとページを捲ると、ぎっしりと詰められた文字がそこに流れていた。
「……小説?」
誰かの声が無意識にこぼれ、周囲の視線はその冊子へと向けられる。
「うそ!? え、マジじゃん小説! 石田、見せてみ!?」
「いや、これは……」
「もしかして石田ピって小説書いてんの!? 見たい見たい! 見てもいいよね!?」
「まあ、その……これは自分で見返すように印刷しただけで……」
石田は気恥ずかしそうに頭を掻く。
隣の霧乃はほけっとその様子を眺めているが、俺はもっと驚いている。あの文学とは無縁そうな石田が小説を?
三木谷に至っては眉をぎゅっと顰め、かと思えば穏やかな声音で石田に訊ねていた。
「鉄人、意外じゃないか。そんなことをこっそりやっていただなんて初耳だよ」
「……なんだっていいだろ。お前には関係ない」
「野球部の練習は忙しいだろ? そんなヒマがあったのか? それよりお前は活字が苦手だったろ。なにがきっかけだ? 一体いつから書いていた?」
「うるせぇな、合間に書いてたんだよ。お前にとやかく言われる筋合いは……」
「どれ、少し読ませてもらおうかな」
石田の嫌がる反応に構うことなく、三木谷は静かに紙を取り上げた。
柔らかに見えた三木谷の目は急激に温度が下がったように色を変え、どこかおかしい。
パリピやギャルは笑って場を和ませようとするが、三木谷のいつもと違う様子に気が付いたのか。その笑みはどこか引き攣っているように見えた。
対して、三木谷だけはセメントで固めたように口角を上げ続ける。
なにかのお面でも被っているのだろうか。
それからの場は沈黙に閉じ込められ、妙な空気が流れていた。
*
三木谷が小説をパラパラと捲り終えるには、数分も掛からなかった。
読み耽るその目にはなにかが篭っているようで、誰も声を発しない状況が重苦しい。
やがて三木谷がふっと一息つくと、ニコリと顔を綻ばせ感想を述べた。
「面白いよ、これ」
そう言うと、石田よりも先にパリピとギャルの顔に笑みが戻っていた。
「お、おお! 石田、すげぇ! 蓮司クンのお墨付きじゃん! お前、才能あんのか!?」
「うん、これは純文学っていうのかな? さすがに全部は読めていないけど、男女のもどかしいすれ違いを描いた作品か」
「え? てことは恋愛小説!? 石田ピ意外じゃん! そんなん書くの!?」
「ま、まあな……だけどなんだよ、お前にそう言われんのも気持ち悪いな……」
頬を染めた石田はごにょごにょとはにかむ。
だが、対して三木谷は表情を崩さず、冷たい視線を紙へと落としていた。
「『恋とはなんだ? 苦しむために恋を求めるのなら、そんなものは消えてしまえ』」
「……え?」
「鉄人からこんな言葉が出てくるなんて思わなかったよ。そういった意味で非常に面白い」
物語の中のセリフを皮肉めいた口調で読み上げる三木谷。
それはまるで晒し上げだ。一時は安堵を見せた石田の表情は、険しいものに戻っていた。
「三木谷……お前……」
「クライマックスの告白の場面なんて声を出しそうになったな。『お前が笑うたびにぱあっと光が生まれて、見ているだけで幸せになれる気がした』、『お前のためならいくらだって傷ついて良い。暗闇にだって、いくらでも飛び込める』。はは、これは笑う場面かな? ろくにデートもできないお前がこれを書いたと思うと面白おかしくて。なあ、航平?」
三木谷がパリピに目をやると、合図したようにはっと動き出す。
「お、おう!? あー、まあそりゃねーよな石田! お前まじでこんなこと考えてるん!? いやいや似合わんて!」
「はは、鉄人は恋に恋するロマンチストなんだよ。それにサリちゃんもなにか言いたげじゃないか? ほら」
「ウチ!? あ、でも確かにちょっと意外かもね!? ほら、石田ピってもっとスポ魂とか熱いの書きそうじゃん! これはギャップ萌え的な!?」
「ギャップか、確かにその通りだな。じゃあサリちゃんなら鉄人からこう言われたらどうする? 『お前の大きな目が好きだ。風に靡く鮮やかな髪が好きだ。踊るように動く細い指が好きだ』──と」
「ちょ、やめやめー! ていうかなにそれ、小説でそんなこと言ってんの!?」
「あ! でもそれ言いそうだべ!? こいつたまに妙なフェチ話してるし! お前やめろよなー、サリちゃんにそういうこと言うの。セクハラだかんなー」
「そうだぞ鉄人、航平の言う通りこれは立派なセクハラだ。ははは」
小説のセリフを読み上げ、面白おかしく談笑する三人ら。
石田は小さな笑いを作って堪えているが、その口の端は震えていた。
やがて三木谷の目が俺と霧乃に向くと、まるで悪いことでも思いついたかのように目を輝かせ、こう尋ねた。
「千太郎や霧乃さんこそどうなんだ。二人は黙っているが、実は一番面白いと思っているんじゃないか? しかも千太郎は鉄人と同じクラスなんだろ? 普段の鉄人の話と一緒に、ぜひ感想を聞かせてくれよ」
嵩にかかってきたような圧だ。
石田にどんな恨みがあるかは知らないが、なにやらスイッチが入った三木谷が石田に恥を掻かせようとしていることは猿でも分かる。
そんな内輪揉めは他所でやってくれ。そう思うものの、小心者の俺だ。聞かれてしまったものは答えるしか選択肢がなかろう。
「あー……そうだなー……」
どっちつかずな態度を示しておけ。
そもそも俺は石田と仲良しじゃないし、適当な言葉で片付けた方が場を乱さず穏便に過ごせる。そう思えば、次に自分がどうすべきかはなんとなく分かっていた。
だけど。
残念ながら、それができないのが俺なんだ。
ウソつきのくせになんでこんな不器用で、なんでもっと上手に生きることができないんだろう。これはもう病気なんだと自分に言い聞かせ、ごほんと大袈裟に咳をした。
「そ、その話には金髪ツインテールの美少女が出てくるでござるか?」
想像以上に気持ち悪い声が体内から出てきた。
対面に座る三木谷は硬直。「え?」と上品なお顔を歪めたことが今日一番の収穫だった。
同様に黙りこくる一同。やがて痛々しい視線が俺に向けられる。
大丈夫だ。こんなもの、今までの人生で俺はいくらだって浴びてきた。
続けよう。
「石田氏。それはどうでござるか」
「は? あ、いや……特には出てこねぇけど……てかお前、喋り方……」
「そうか、そうでござるか。じゃあ幼馴染黒髪ツンデレ女子は出てくるでござるか?」
「ツンデレじゃないけど、幼馴染なら……っつか、一体お前はなんの話を……」
イケてねぇ。
まったくもって全然なにひとつ、清々しいほどに──イケてねぇ。
三木谷もパリピもギャルも、作り笑いして誤魔化そうとする石田も。
霧乃はこの場が俺の経験のためになると言っていた。
だけどキラキラ陽キャだと思っていた連中から学ぶことなんてひとつもなくて、もしこんな奴らがイケてるっていうのなら……俺はイケてる役なんて一生やりたくない。
じゃあ、俺がイケてるのか。
そんなわけないだろ。ウソつきで、しかもこんなやり方でしか場の空気を変えられない。もう少し違うやり方があったんじゃないかといつも後悔にまみれるのがこの俺だ。
そしてこれからやることも、多分……今日寝る前に死ぬほど後悔するんだと思う。
「んほぉぉぉ! これは楽しみ楽しみ幼馴染! 定番とはいえド直球の安定属性! 心ぷるんぷるんと揺らす純文学とはこれまたいかに! いやしかし、金髪ツインテもいればなお安心! 隠し味に妹要素が入れば三角関係はドキドキかな!? くぅぅぅ、一体どんなストーリーが始まるんだ! 僥倖、僥倖っ! 石田氏、教えてくれぇ〜っ!!」
言い終えた頃には息が上がり、唇が壊れたようにブルブルと震えていた。
いつのまにか立ち上がり、店内の誰もが俺を見ているのが分かる。
残りカスみたいになった言葉を絞り出そうと、手は握りこぶしを作っていた。
「……なんだ。こんな気持ち悪い俺のことは笑わないのか」
「キ……キミはいきなりなにを……」
「笑わないのかって聞いたんだ」
三木谷を睨む。が、だんまりを決め込まれた。
パリピ、ギャルにも目を向けると、二人はさっと別の方を向いた。
最後に石田に向けたところで、ぽかんと口が開いたマヌケ顔と見つめ合ってしまった。
「石田は……クラスでいっつも運動部の連中と絡んでて。うるせぇとかずっと思ってるけど、まじで仲良さそうで。まあ、当然俺みたいな奴がそんなこと言えるはずもなく、絡みだって一ミリもなくて。だけど……野球部でめっちゃ活躍してるのは知ってる。俺と違って凄いやつなんだよ。……なのに小説まで書いてるってんなら尚更だ。もう妬むことすらできない異次元だっつの」
言葉は自分の頭から出たり入ったりを繰り返し、まるで整理が追いつかない。
おまけにバカみたいに喉が渇いて、呼吸が詰まって。
俺はなんてみっともない生き物なのだろう。
「俺のさっきの自己紹介は全部ウソだよ。一流の役者ってのはもう死ぬほど盛ってるし、なんちゃらシステムの伝道師ってのも全部ウソ。撮影経験は人生で一分くらいしかなくて、好きな映画も舞台も……なんなら好きだと言えることすらない。当然学生団体とかまったく分かんないし、DJの話もモデルの話も人間レベルが違いすぎて死にたくなった。普段からなんにも考えないで生きてきた結果が、きっと俺みたいなやつなんだよ」
「お、おい……? 城原……?」
「だったら」
それでも、人の努力を笑いものにするのはやっぱり違うと思った。
だけど、それを違うと胸張って言える資格は自分にないものだと思った。
当然だ。俺の中身は空っぽで、ただのウソつきなんだから。
だから俺は一生、こんなやり方しかできないんだと思う。
「……だったら、そんな俺の方を笑うべきだろ……」
震えてうまく動かない手で、コーヒー代を机の上に載せる。
リュックを背負い、機械のようにガシャガシャと出口に向かったところで霧乃の声が聞こえたが、申し訳ない気持ちで振り向くことすらできなかった。
扉を力一杯開け、逃げ出すようにその場をあとにした。
*
カフェを出てすぐに右に曲がり、直進した先の交差点前。
こういう時に限って赤信号は俺を捕まえ放さず、そのせいで後輩にはあっという間に追いつかれてしまっていた。
先輩、と大きな声で俺を呼び止める彼女。
振り返ると、そいつは顔をクシャクシャにして笑っていた。
「ふふ……ふふふ……あははっ」
「あの、霧乃さん」
「ふひひっ……ぷっ……あーダメです。涙出そう……うふふっ」
「霧乃さーん……」
「先輩、すっごい……あはっ。ほんとメチャクチャにしましたね? 多分今頃、お通夜みたいな空気になってますよ! ふふ……ふへへっ」
霧乃はお腹を押さえて愉快そうに笑うが、こちとら胃が痛くて腹を押さえる状態だ。
それでも、あの会をぶち壊してしまったことは事実。霧乃に向かって頭を下げた。
「……ごめん。元はといえば、三木谷が霧乃を誘う会だったんだよな。あんなめちゃくちゃにしちゃって……」
「ふふ。ごめんって、それウソですよねー? 本当に悪かったって思ってます?」
「思ってるって。霧乃はまだ連絡先交換もしてないんだろ? 俺は必要ないけど、あいつらの活動は確かに凄かったし、霧乃は繋がりくらい作っておいた方が良いかもって……」
「そんなのいりません。ご馳走してくれるっていうから来ただけですし。誰かさんのサプライズが一番満足しました!」
「お前なぁ……」
どこまで本気なんだかと思い、学校から来た道を戻るよう、俺は早歩きを始めた。
仮に霧乃がそう思っていても、三木谷や他の連中はそういうわけにいかないだろう。
石田とて俺みたいな人間にあんなワケの分からぬことを言われたんだ。ヘイトを買ったのは間違いないだろうし、明日からはクラスで石田に怯えながら過ごす未来が見えている。くそっ、またマイナスの積み立てだ。
「……霧乃」
「はい?」
「霧乃の映画には『イケてる役』ってのが必要なんだよな。でも……やっぱり俺には無理だ。もうこれでイヤでも思い知ったろ」
「そうなんですか?」
「そうだって。俺は……ああいうメチャクチャなことをやっちゃうんだよ。格好なんて付けられなくてさ、映画をきっと台無しにしちゃうだろうから、やっぱり俺以外の奴を当たってほしいっていうか……」
「先輩、最高にイケてましたよ?」
足が止まると、隣をついてきた霧乃も一緒に止まっていた。
視線を静かに下げれば、霧乃の長いまつ毛に包まれた瞳の中には泉ができているようで。
そこからは光が弾け飛んでくるようだった。
「? どうされました?」
「……イケてるって、あんなのが……?」
「はい、そうですよ? 人間ドラマの醍醐味は葛藤です。先輩、一体なにを考えてあんなことしたんですか? すっごく難しい顔してましたよ?」
「いや別になにも考えてないから。適当なこと言うなっつの……」
「それはウソですー! ねぇねぇ、なんであんなキャラにしたんですか? あれってなにかのマネですか? 絶対笑わないから教えてください!」
「もう既に笑ってんじゃん。別にあれは誰のマネでも……」
そう言いかけたところで、背後からの野太い声が身体をびくつかせた。
「城原……城原ァッ!」
振り返ると、大きなエナメルバッグを担いだ坊主頭の男──石田鉄人がそこにいた。
「うげ、石田……」
「はぁ……はぁっ……お前、余計なこと……すんなよ……」
「わ、悪い。メチャクチャにしたことは謝る。謝るから、ちょっと落ち着いて話を……」
「当たり前だ。マジでメチャクチャにしやがったな、お前……」
「うそ。あの、もしかしてもの凄く怒ってる? あ、怒ってますよね。その、できれば殴るとかそういうのはやめてほしいといいますか……」
まるで巨神兵の行進。
バカみたいにでかい身体は俺の言葉を断固拒否し、ずんずんと目の前までやってきた。
やばい、あの丸太みたいな腕で殴られる。俺もここまでか、南無三!
が、瞑りかけた目の隙間から覗いたもの。
それは──どこからか伸びてきた太い右腕。
低頭した坊主頭を見せつけられると、それは握手を求めたものだとようやく分かった。
「……書かせてくれ」
「へ?」
「お前のことを……書かせてくれ」
これはもしもの話だ。
もしも囚われの姫が悪漢に囲まれ、ひどい目に合っていたところを誰かが助け出したのだとしたら。
……その姫は心酔し、パーティメンバーに加わることが必然ではなかろうか。
たとえそれが屈強で豪腕で、ゴリゴリのジョリジョリの坊主頭の姫だったとしても。
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試し読みは以上です。
続きは2023年12月25日(月)発売
『青を欺く』でお楽しみください!
※本ページ内の文章は制作中のものです。製品版と一部異なる場合があります。
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