一章 再会(1)
────もう無理死のう。
高校二年の春。
オレ、
信じられるか? 小学生の頃は、一緒にお
いつだって一緒に居たオレたちは、よく周りからカップル扱いされていた。
ここまで来れば、誰だって両
だから幼馴染に告白したのだ。高校二年に進級するのに合わせて……。
だが、結果はどうだ?
『ごめんなさい。リクちゃんのことは、幼馴染というか、異性としては見てなかったの』
だってよ! なんだよそれ! オレを異性として見てないとか、なにそれ!
こっちは色々考えていたんだぞ!
付き合った後、どこへ遊びに行こうかとか、手を繫いで色んなところに行って……。
お互いドキドキしながらも、は、初体験したり……。
いずれ結婚して夫婦になって子供ができて──まで色んな想像を膨らませていたんだ!
なのに……ひでぇよ。異性として見てないとか、なんだよ。
オレは両生類か? 人外か? ゲロゲロ。
「もうマジ無理ぃ、生きる価値
本気で幼馴染のことが好きだったのによー。両想いだと思っていたのによー。
勝ち戦だと思ったら負け戦どころか戦う前に負けていたでござる。はい切腹切腹〜。
「どうでもいい。オレの人生なんてクソ食らえだ」
この
オレは────自殺することにした。
ただいまの時刻、午後9時なり。
誰にも見つからない自殺場所を求め、オレは自転車にまたがり山の方に来ていた。
家から三時間の距離である。もう帰るつもりはない。さよならだ。
荒く息を吐き出しながら舗装された山道を懸命に上る。
辺りは暗闇でまともに視界の確保ができない。自転車のライトだけが頼りだった。
「やべ、喉渇いた……死ぬ」
バカみたいに自転車を
どこかに自販機はないものか……。
自転車で進んでいると、少し行った先に明かりが見えた。
あれは────コンビニだ。
こんな山中にコンビニがあるんだな。いやー救われた気分だ。
砂漠で遭難した人がオアシスを発見したようなものだろ。
オレはルンルン気分でコンビニを目指す。
駐車場には一台も車が止まっていない。片隅で自転車が一台止まっているくらいだ。
今の時間帯だと、山中のコンビニに客は来ないのだろう。住宅地から離れているしな。
オレは自転車を止めてコンビニに向かう。
自動ドアを通り過ぎ、心地よい冷気が体を突き抜けた。くー、最高だ!
「いらっしゃいませー」
レジに居る女の子と目が合う。……なんだか地味な感じの女の子だな。
モッサリとした茶髪に、大きなメガネで素顔が見えにくい。
言い方は少し悪いが、教室の隅っこで大人しくしていそうなタイプに見えた。
「ぐっ! うぅ……!」
な、なんということだ。急に腹が痛くなってきた!
「す、すみません。トイレ借ります……!」
「どうぞー」
店員さんに断りを入れてトイレに駆け込む。漏れそうだった。
◇ ◇ ◇
ふぅ、スッキリしたー。
実に二十分近くに及ぶ大激戦だったが、何とか勝利を収めることができた。
「…………つーかオレ、なにしてんだろ」
自殺するつもりで山まで来たのに、水分を求めてコンビニに来るとか……。
幼馴染に振られてサイクリングですか?
あー、やべ。最悪の気分になってきた。
幼馴染に振られたことを思い出したら死にたくなってきた。
何というか、全てに対して無気力になっていくような……自分の感情が消えていく。
さっさと飲み物を買って自殺場所を探しに行こう。
トイレから出て手を洗い、ドリンクコーナーに足を運ぶと──。
「おい! 早く金出せや! ぶっ殺すぞ!」
野太いオッサンの声が聞こえてきた。……なんだ?
オレはスポーツドリンクを片手に、レジへ向かう。
するとニット帽をかぶった小太りのオッサンが、レジの地味な店員さんに包丁を突きつけていた。ふーん、コンビニ強盗か。
「早く金出せや!」
「ひっ……あ、あぅ……ぐすっ……ひぐっ」
あまりの恐怖に店員さんはグスグスと泣き出している。震えた手で必死にレジを操作し、お金を取り出そうとしていた。その手には硬貨しかない。
「あ、あの……ひぐっ……こ、これで……」
「あぁ!? 全部だよ全部! てめぇ、硬貨だけ渡してどうするんだよ! こういうときは万札だろうが! 常識的に考えてよぉ!!」
「ひぅっ! ご、ごめんなさいごめんなさい! ……ぐすっ……っ!」
男の怒声を浴びせられた店員さんは、ついにボロボロと涙をこぼし始める。
あーあ、
さっきからオッサンの後ろに並んでいるんだけど、これ、どうしたらいいんだろう。
と、次の瞬間、クルリとオッサンがこちらに振り返った。
オレは反射的に頭を下げてしまう。
「あ、ども」
「ども……って、はぁあああああ!?」
オッサンの驚き声が店内に響き渡る。うるせー。耳
「な、なんすか。声、でかいっすよ」
「でかいって、おま……はぁああ!? どういうつもりだよお前! どこから来た!」
「トイレです。トイレに居たんすよ」
「トイレか……じゃなくてよ! お前、状況わかってる!?」
「わかってますよ。オッサンがコンビニ強盗してるんですよね?」
「わかってたよ! わかっててこの落ち着きっぷり! お前は特殊部隊の隊員か!?」
「いえ、自殺場所を求めている男子高校生です」
「闇
なんかこのオッサン、テンション高いなぁ。
こっちは今から自殺するんだぞ? もう少し控え目にしてほしい。
店員さんは店員さんで「すんっ……ぐすっ……」と泣き続けているし……。
「おいクソガキ! 俺を
「え?」
「俺に人は殺せねえと舐めてんだろ!」
なにやらブチギレたオッサンが包丁を突きつけてくる。
以前のオレなら小便を
「ぶっ殺すぞガキ!」
「……殺せば?」
「へぇ?」
なんとも間抜けな声を発するオッサン。
「いや、殺せよ。さっき言ったじゃん。オレ、自殺場所を求めているって」
「い、いやいやお前! んな簡単に」
「家族を交通事故で
「おま……まじか」
「やるなら早くやれよ。あとオレを殺した後、店員さんには手を出すなよ? もし店員さんに危害を加えたらオッサンを呪い殺す」
店員さんを守ることがオレにできる最後の善行か。
オレはオッサンの顔を見つめながら堂々と言い放つ。
「殺せよ」
「くっ、あ……あっ!」
「殺せ」
「ぐ、ぅ……無理だぁああああ!」
そう叫ぶとオッサンは包丁を落とし、ダダダーとコンビニの外へ走って行った。
……んだよ、コンチクショウ。自殺場所を探す手間が省けると思ったのにな。
残念に思いながらスポーツドリンクをレジに置く。
「……ぐすっ……ひくっ……あ、あの?」
「会計お願いします」
「き、君……黒峰くん……だよね?」
「え?」
驚いた。地味な店員さんがオレの名前を口にしたのだから。
「……わ、私……同じクラスの……
「……え?」
星宮彩奈とは、オレと同じクラスの
茶髪のワンサイドアップに、程よく化粧が施された
そんな星宮彩奈は、校内でもトップクラスにモテるとされる白ギャルだ。
ようはモテの
…………いや、ウソだろ。
オレには目の前の地味な少女が、とても星宮彩奈とは思えなかった。
じっくりと顔を見つめてみる。
モッサリした茶髪とメガネでわかりにくかったが、確かに輪郭は同じで面影が見えた。
「……えと、悪いんだけど……店長が来るまで……残ってくれないかな?」
「なんで?」
「そういう……規則だから……。色々と、話を聞かれると思うけど……」
「はぁ……分かった」
面倒だが仕方ない。星宮に迷惑をかけるわけにはいかないだろう。
オレは渋々