第1章 その4
その後、「長旅の疲れもあるだろう。今日は早めに休みたまえ」という有難いお言葉を公爵からいただき、用意された自分の部屋へ。広っ! うわ、小さな氷冷庫まであるや。
大きなベッドに横たわりながら、明日の準備をする。汽車の中で一通りまとめておいたけど、
教授の言い草からある程度推察はしていた。けど、想定難易度の
だからと言って、
実際、会ってみての
筆記の方は明日、確かめてみるとしても、あの歳で植物・作物の研究までしているのなら、水準はきっと
……あの
エリーさんは問題なさそうだ。むしろ、あの性格の方が
御家族がグラハムさんとその奥さんだけ、というのもどうやら事情があるみたいだし、
とにかく、僕に出来る限りの事はしてみよう。本人達には意志があり、前へ進もうとしているのなら、路はある
ベッドの上で目を閉じる。
──王宮
*
翌朝、少し
時間になったら呼びに来てくれるらしいので身支度を整えて待つ。
……昨日、ちょっとだけからかい過ぎたかな?
そんな事を考えていると、ノックの音と緊張した声。
「し、失礼しますっ」
「どうぞ」
入って来たのは、エリーさんだ。うん、こうして見るとやっぱり本職の人は
「お、お
「はい。ありがとうございます」
「い、いえ! メ、メイドの仕事ですから……」
ちらちら、とこちらを
はて? こんなに
……思い出せない。まぁ、追々慣れていってくれるだろう。
「此方です。この先の部屋の中にいらっしゃいますので。えっと……アレン先生、私、今日だけはお祖父様達のお手伝いがあって授業に参加出来ないんです……いきなり、ご、ごめんなさい」
「
「ひ、ひゃう! あのその……」
「ああ、ごめんなさい」
また、
なるほど、それが
エリーさんに頭を下げ、先へ。
様々な植物が育てられている温室内の通路を先へ進むと小屋が見えてきた。わざわざこの場所にも自室を作ったのか。なんとまぁ
ノックをすると「どうぞ、開いています」の声。入ると中はきちんと温度管理されていた。適温。
奥の
これ、作るのと集めるのにいったい
公女殿下は
「おはようございます。メイド服ではないのですね、と言った方がよろしいでしょうか?」
「おはようございます……先生はちょっと意地悪ですね」
「とても可愛らしかったので。ああ、今度は頭に付ける物もお忘れなきように」
「……や、やっぱり、意地悪です!」
「ははは。申し訳ありません。改めまして、これから約三ヶ月、貴女様の教師を務めます。
「よろしくお願いします。は、初めに言っておきます!」
本人は
「まず、今から私を
「エリー、はありと」
「なしですっ! もう! 話の腰を折らないでください。次に、私に対する事で
「分かりました。
これは大分気にしているなぁ……今まで、散々色んな事を言われてきたのだろう。真面目な子みたいだし。
「最後に、お勉強が終わった後、あの……」
「はい」
「その日、上手く出来たら私を
「そんな事ですか。良いですよ」
「へっ?」
「貴族の人達って
「そ、そうですか……」
「では、ティナ。そろそろ始めましょう。あ、その前に」
「は、はい! えっと?」
「
「──よろしくお願いいたします」
にっこりと
十三歳か。自分がその歳だった頃は──ダメだ。思い出しちゃいけない。……と、言ってもまだ四年前か。思えば遠くへ来たものだ。いや、むしろ、来させられたと言うべきか。
殿下からの声で我に返る。
「せ、先生。その……手を放してもらっても……」
「ああ、申し訳ない」
「いえ、良いんですけど……むしろ、もっと……」
「今日はまずティナの実力を知りたいと思います」
「実力ですか?」
きょとんとした表情。
うん、やっぱりこの子、
「王立学校の入学試験は、筆記と面接、それと魔法の実技に分かれているのは知っていますね?」
「はい、勿論です」
「そして、ティナは実技が全く
「……はい」
「なら、これからの三ヶ月は出来れば実技対策に当てるべきでしょう。ですが、今の段階で筆記がどれ位出来るのかを知らないと時間配分も出来ません」
「確かにその通りですが……どうやって
「それは噓です」
「ほぇ!?」
面白い顔。ばれないように映像
「幾ら王立学校でも、試験問題には
「……つまり、筆記対策は可能と?」
「ええ。問題も作ってきましたので、今日はこれを解いてください」
が、試験を受け取り(きちんと頭を撫でながら褒めましたとも)夜、採点した後は、僕が
──結論から言うと、この
*
僕の
学問においても、王立学校を一年で飛び級かつ首席卒業。四年制の大学校も三年で卒業予定。これまた首席。三年かかったのも大学校側からの
あまり褒めると調子に乗るので本人へは
まぁ、此方に対する態度が
……あいつ、僕に対しては何をしても良い、と考え
そんなリディヤと殿下の才覚は、僕が見たところ、学問の面なら
今回、作った
王立学校の入学試験問題は多方面から出題される。
魔法・語学・歴史・経済・政治・生態・気象……世の受験生が対策を考えるのを
だが、実のところ知識量は余り問題にならないのだ。
当然、基本は押さえておく必要がある。ある程度そこで得点も取れる。
けれど、あの長生きし過ぎて、何でも「三百より先は数えるのを止めた」と堂々とのたまい、根性がねじ曲がっている学校長が聞きたいのはただ一つ。
『何をしにこの学校に入学したいのか。卒業後何を見せてくれるのか』
これだけである。それを、様々な分野で
どうしてそんな事が分かるかって?
僕の回答がそれで
あの時、ちょっと
さて、今回の模擬試験、殿下は知識問題のほぼ全てで正答を書いていた。
学校長の嫌がらせの最たるものである、古代エルフ語を読める十三歳なんて王国内に何人いるんだ。少なくとも受験生にはまずいないと思っていたけれど、いたよ、こんな所に。
論文も現段階でほぼ
……どうしたものかな。
取りあえず──魔法を実際に見てから考えよう、うん。