【新作ラノベ先読み感想文レビュー】
今回はファンタジア文庫から6月20日に刊行された『チェインアーク/インフェルノ ——願いの糸、赤き焔の報い』です。みなさんの感想も聞かせてください!
自由ってなんだろう? いまの自分って本当に自由? そもそも自由って与えられるもの? それとも自分で掴みとるもの?——そんなことを考えながら一気に読んでしまった。まさかライトノベルで「自由」について考えさせられるとは思わなかったけれど、どこか文学的な世界観を踏襲しているだけあって、本作のメッセージはとても力強いと思う。
主人公のカイナは、空中都市カンダタの下層に住む「浄鎖使い」と呼ばれる兵士だ。支配者たちは上層に住み、下層との格差は歴然。本作の前半で、カイナとその家族が虐げられる状況がこれでもかと描かれるのを読んでいると、絶対的にカイナに味方したくなる。だからこそ、上層部を打倒しようとする反乱軍の仲間入りをカイナが決めたときの盛り上がりたるや! 王道の展開ではあるが、それゆえにグッとくるし、そこに至るまでの流れを上手く物語に落とし込んでいるので、一層ギアを入れて加速していくテクニックが素晴らしい。

カイナが反乱を起こし革命を達成するために、愛する家族や仲間たちを犠牲にせざるを得なくなってしまったり、かつての幼馴染で心を許した相手・ジュデッカとの宿命の対決が避けられなくなったり、あまりにも切なくて涙なくしては読めないような展開をはじめ絶望の描き方がとても印象的な本作。だが安心して欲しい。深く深く沈むからこそ、そこから這い上がり飛翔するカタルシスが大きいのだ。この読後感は是非体験してみて欲しい。
自分は現代の日本に生きていて、それなりに自由を楽しんでもいる。しかし本作を読んで、ときに自由とは奪われる危険性のあるもので、もしも自分の手で自由を掴みとらなければいけなくなったら? と思わず考えさせられた。

テキスト:中島泰司
ざっくり言うとこんな作品
1)未曾有の大災害により、陸地と海は灼熱の地獄と化した後。生き残るために人類が築き上げたものは、雲の上から垂らされた美しい鎖をもとにつくられた空中都市「カンダタ」。この独特の世界観にぐいぐい引き込まれる。
2)「カンダタ」は上層と下層ではっきりと分かれる究極の格差社会。下層に生きる主人公・カイナの、自分たちを虐げてきた上層への怒りと自由への思いが強く伝わってきて、感情移入が止まらない。
3)愛する家族や仲間の死を乗り越え、自由のために戦うカイナ。無慈悲な世界を崩壊させ、人間が人間らしく生きることができる世界を求めるクライマックスが大きな感動とカタルシスを呼ぶ!
主要キャラ紹介
カイナ・ナツハヅキ
空中都市「カンダタ」の下層に住む少年で、防衛軍の浄鎖使い。灼熱の地表から発生する怪物「獄鬼」を討伐する役目を負う。下ネタが大好きな性格だが、とても家族思い。

アンテノラ・フタバ
カイナの上司で防衛軍の二等兵。そのグラマラスな胸がカイナをドギマギさせている。物心ついたときからの孤児だと公言していたが、あるときカイナに衝撃の事実を告げる!?

トロメア・ミツカワ
カイナの幼馴染みで、同じ防衛軍の浄鎖使い。戦闘能力は高くないが、浄鎖から作り出す弓の攻撃が得意。カイナの悩みにそっと寄り添うことのできる優しい性格の持ち主。

ジュデッカ・シキバナ
カイナが7歳のときにクラスで一緒になった少女。仲よく遊ぶ友だち同士になるが、ある事件をきっかけに下層の世界から消える。8年後、意外な姿でカイナの前に現れて……
