【レビュー】愛しい仲間のため、万の命を捧げる最凶のTS魔女が降臨する――。カクヨム発、超絶無双のダークファンタジー新作！　

【新作ラノベ先読み感想文レビュー】
今回はドラゴンノベルスから5月2日に刊行された『不死の魔女は万の命を犠牲にしてもありきたりな願いを叶えたい。』です。みなさんの感想も聞かせてください！

　美しくも残酷な雰囲気が、表紙からも既にむんむんと漂う本作は「第９回カクヨムWeb小説コンテスト」カクヨムプロ作家部門特別賞受賞作だという。ダークな世界観の中で繰り広げられる、少女の姿で転生した主人公・神谷遊雷（ユーライ）の物語は、一言で表すなら「苛烈」である。
　なんと本作、いきなり主人公が王女殺害の疑いをかけられ、拷問を受けると同時に獲得したスキル「闇落ち」を発動させてしまい、2万人もの町の人間たちを殺戮してしまうところから始まるのだ。そして魔王「ダークリッチ」にレベルアップし、世界で最凶最悪の存在に……。と、これまで読んできた異世界転生ものの中でも、ここまで暴力的な負の力を手にした主人公は珍しい。もし自分がユーライみたいな最凶の魔王に転生したら、きっとヤケクソ気味に己の力を誇示しながら酒池肉林で贅沢三昧の日々を送ってしまいそうだ。
　しかし、読み進める内にこのユーライというキャラクターは、実はとても心優しい性格だということがわかってくる。何万人もの人間を殺したのは、自分を苦しめる者たちに対抗しただけ。何もしてこなければ何もしない。平穏に暮らしたいと願っているだけなのだ。そして、自分と戦って命を落とした少女騎士クレアや、人間に差別され殺されてしまった亜人のリピアをアンデッドとして再生させて仲間にするなど、愛おしいと思う者たちへの優しさが常にユーライの想いの中心には存在している。このシリアスな状況と、真っ直ぐで人間臭いユーライというキャラクター性のギャップに、読んでいくうちハマってしまうのである。

　敵との凄惨な戦いの描写に戦慄しつつ、仲間思いのユーライの姿にも感動するという、気がついたら、さまざまな楽しみ方ができる本作に夢中になっていた。彼女（彼？）みたいな力があったらやりたい放題！　と妄想していた自分がちょっと恥ずかしい。力があってもそれを誇示せず仲間を大事にするという王道な主人公性が、最凶最悪の悪役然として描かれることでむしろ際立っていたのが、見事な一冊。

文：中島泰司

ざっくり言うとこんな作品

１）不慮の死を遂げた高校生が「暗黒の魔女」として転生し、何万人もの命を葬り去るほど最凶最悪の力を発動！　その凄惨な場面の描写には思わず圧倒される!?

２）残虐な行為を平気で行う主人公ユーライだけど、容姿は可憐な美少女で、じつはとても仲間思いの性格というギャップが◎。できれば平和に暮らしたいという思いも共感性たっぷり。

３）聖騎士のクレア、亜人のリピア、獣人のギルカなど、ユーライの仲間になるキャラクターたちもすごく個性的！　シリアスな展開の中に挟まれた、ユーライをめぐる微百合な恋のさや当てなどのラブコメ的展開は清涼剤に!?

主要キャラ紹介

神谷遊雷（ユーライ）
心霊スポットを訪れた際、不審な男に殺されてしまった高校生。「暗黒の魔女」の称号を持つリトル・リッチとして転生し、ダークサイドの魔法の使い手としてその名を轟かせる

クレア
リバルト王国の聖騎士。ユーライとの戦闘のさなかに命を落とすが、アンデッドとして再生させられる。自分の運命に絶望しながらも生きることを選び、ユーライの仲間となる

リピア
亜人で無眼族の少女。人間に襲われ背中に矢を射られて絶命するが、ユーライのアンデッド作製で復活する。同じ亜人のラグヴェラ、ジーヴィーと共にユーライの仲間に

ギルカ
狼の獣人で、盗賊団黒幻狼のリーダー。ユーライの凶悪な精神攻撃に圧倒され手下となる。ユーライが再建を目指すグリモワの町を管理する役目を負うことになるが……