【新作ラノベ先読み感想文レビュー】
今回はMFブックスから4月25日に刊行される『魔術漁りは選び取る1』です。みなさんの感想も聞かせてください!
読んで真っ先に思ったことは、この物語って「ど真ん中」だな! でした。主人公のカナタは自分がなにもできない奴だとわきまえてしまっていて、だから作中でゴミに過ぎないはずの存在である“魔術滓”にロマンを感じています。
このロマンという感覚、すなわち憧れって、我々読者にもすごくよくわかるじゃないですか。しかも彼はひたすらに魔術滓を観察し続けた果てに、魔術という力を発現させるわけです。
読者と目線をしっかり合わせられた主人公が、誰かに与えられるのでなく自分の努力で未来を拓く──時代性に囚われることのないエンタメ作品の王道、そのど真ん中を貫いているのですよね。

そしてそれを貫かせるものこそはカナタを含めた登場キャラクターで、思わず目を奪われたのは「書き込み」の細やかさと濃やかさ。本作では各人の性格や立場、心情が、台詞や思考、行動として描かれています。
でもそれが個人を表現するだけでなく、キャラクターたちが過去置かれていた、または今現在置かれている「舞台」までもを浮き彫りにして、「世界観」を表現するのです。
普通は逆なのですよ。説明で舞台設定や世界観を語った後、そこへキャラを放り込んで動かす。なのに本作はキャラを掘り下げてその人生を際立たせるという手法で、説明を人物描写の内に練り込んでいるのですね。

キャラを追っていたはずが、気がつけば世界設定を理解させられていた悔しさったらもう! こんな表現方法があるのかと空恐ろしくなりましたよ。書き手の方にはぜひ同じ身震いを体感してほしいですねぇ。
自分の中に揺らがない正しさを据えた主人公の成長物語が最高に気持ちいい! がっつり読み込める密度の高さも魅力です!
文:高橋 剛
ざっくり言うとこんな作品
1)凡人であることを自覚し、死と隣り合わせの戦場漁りをするよりなかった少年カナタが、魔術という翼を得、己の運命を切り開く!
2)孤独だったからこそ他者を思いやり、関係性を大事にするカナタ。彼だからこそ繋ぐことのできる縁の心地よさは絶妙。
3)各キャラクターに“動機”あり! 後悔や過去の経験、意志で動く彼らの心、それによる行動が極上の人間ドラマを魅せる!
主要キャラ紹介
▼カナタ
“戦場漁り”の少年。魔術師が魔術を使った際に出た余剰魔力の塊、魔術滓にロマンを感じ、金にもならないそれを集めて観察していたが、そのことが彼を魔術師として目覚めさせた。

▼ロア
戦場漁りの少女。カナタ入団時から彼の世話を焼いてきた姉的な存在。カナタの魔術で命を助けられるが、彼が自分の手から離れていってしまうような寂しさを感じることに。

▼ウヴァル
カナタやロアの雇い主であるカレジャス傭兵団の団長。理不尽で荒っぽくだいの魔術師嫌いだが、実は身よりのない子供たちを引き取って面倒を見ている、情の厚い男でもある。

-
魔術漁りは選び取る 1
著者: らむなべ イラスト: EEJU
選び取れ。自分の道を。
傭兵団の戦場漁り、少年カナタは生き延びるために戦場で金目のものを漁る生活を送っていた。唯一の楽しみは戦場に落ちている魔術の残りかす――魔術滓(ラビッシュ)と呼ばれる綺麗な小石を拾う事。それは魔術師が魔術を発動した際に生じた余計な魔力の塊。時間が経てば消えるだけの、言ってしまえば何の役にも立たないゴミ。しかし、過酷な環境下でカナタが美しいと感じられるものは、この魔術滓(ラビッシュ)くらいしかなかった。
ある日、高額な報酬を約束された戦火で、傭兵団は何者かの魔術によって執拗に攻撃を受け続けた。その攻撃は雇い主である貴族の魔術師によるものであり、契約を反故にするための裏切りであった事が次第に判明する。傭兵団が悪意の岐路に立たされた時、カナタが選ぶのは――
覚悟と決意を胸に、少年は成り上がる。