鳳乃一真先生といえば、不思議な力を持つお宝を求める冒険活劇として人気を博し、2014年にはアニメ化もはたした名作『龍ヶ嬢七々々の埋蔵金』の著者です。当時夢中になって読んだ方も多いのではないでしょうか。
そして、にじさんじライバーを「俳優」として起用し、鳳乃先生がシナリオ・執筆を手がけたメディアミックス作品『Lie:verse Liars』シリーズ(原作:Liars Alliance)も記憶に新しいところ。
そんな鳳乃先生が満を持して世に放つ待望の新作『黒公爵様の恋文代筆人』がこのたび富士見L文庫から刊行されました!
恋文のやり取りが「文化」として息づく王国を舞台としたロマンス×ファンタジーということですが、男子向け作品から女子向け作品へとフィールドを移した著者が描いたのは、はたしてどのような物語なのでしょうか?
そこで今回は作品の魅力をお伝えするために、そのストーリーからキャラクター、そして練り上げられた世界観をご紹介。さらにはエンタメ小説系ライターたちに本作について語ってもらいました。どうぞお楽しみに!
とある王国で繰り広げられるロマンス×ファンタジー
【あらすじ】
恋文代筆人であるユーディの元へ恋文嫌いの貴族男性からの依頼が舞い込んだ。それをきっかけに《黒公爵》ヴィンセントに気に入られたユーディは、半ば強引にお抱え恋人代筆人になり彼の屋敷に住まうことに。
お抱え恋文代筆人としてヴィンセントの元で様々な恋文依頼を解決するなか、噂でささやかれるものとはまったく違う彼の姿にやがてユーディは惹かれていく。しかし彼女もただの恋文代筆人ではなく、重大な秘密を抱えていて──。
主役は特別な力を持つ少女と悪役貴族!
秘密を抱えた少女ユーディと美貌の公爵ヴィンセント。この二人の男女を軸に、脇を支える魅力的なキャラクターたちが豊かな物語の世界を紡いでいきます。

ユーディ
杖をたずさえ眼鏡をかけた凜としたたたずまいの恋文代筆人。文字に込められた真意と裏側を感じ取る能力と、とある秘密を抱えている。
ヴィンセント
王家を影から支える公爵家・ロウワード家の若き美貌の《黒公爵》。ある目的のためにユーディに恋文代筆を依頼する。
リュナ
ユーディの助手を務める貧民出身の少年。ユーディを「先生」と呼び慕い、不器用な彼女を支え孤独を癒やす無二のパートナー。
ミレディ夫人
恋文代筆人・ユーディを後見する社交界の情報通。《黒公爵》でさえ翻弄する策略家だがユーディへの助力は惜しまない。
物語の舞台は恋文のやり取りが「文化」として息づく王国
本作を味わいつくすために、ぜひ知っておきたい世界観を3つのキーワードからひもときました。ユニークな文化が花開く王国において、その裏社会を取り仕切る公爵とヒロインは読者にどのような物語を見せてくれるのでしょうか?
1.恋文文化
グラダリス王国の亡き王妃は敵国の出身であり、現王とは到底叶わぬ恋のはずだった。しかし王が送り続けた7通の恋文が二人を結び、これを機に一触即発だった両国のあいだに平和がもたらされた。
──国民であれば誰もが知り憧れるこの《逸話》を発端に、恋文を交わす独自の文化がグラダリス王国内で生まれ、その流行は貴族の淑女のみならず花街や庶民にまで広がっている。
2.ロウワード家の黒公爵
グラダリス王国に忠義を尽くす公爵家は表向きには4家とされる。しかし、実質上5つめの公爵家が存在している。それがロウワード公爵家である。
ロウワード公爵家は伝統ある貴族でありながら裏社会を牛耳り、所有する領土は小さく王族に冷遇されているものの、国内では王族に次ぐ影響力を持っている。国の暗部を統括する生業より人々から恐れられ、代々の当主は《黒公爵》とあだ名される。
3.ユーディの特別な力と秘密
恋文代筆人ユーディには特別な力がある。文字から書き手が強く抱いた心情を感じ取り、文面にはない真意や隠された想いをひもとけるのだ。
彼女はその力と自分の年齢・素顔を隠しつつ、社交界で評判の恋文代筆人となっていく。素性を隠し偽りの姿を演じてまで恋文代筆人を続ける彼女には、ある秘められた決意があって──。
エンタメ小説大好きライターによる読書感想レビュー
ふだんからエンタメ小説に慣れ親しんでいる人たちは本作を読んでどう思ったのでしょう……? 今回は2名のエンタメ小説系ライターによる読書感想レビューをお届けします。ご参考にどうぞ!
注目すべきは、その『浪漫』ですね。
──勝木弘喜
いやいや『龍ケ嬢七々々の埋蔵金』の鳳乃一真先生が富士見L文庫から新作を出す、というので非常に意外だと思っていました。
記憶の中での『七々々~』はザ・男の子が好きな作品でした。冒険とアクション、謎あり女の子あり、ドタバタわちゃわちゃしたイメージ。そんな作者が女子をターゲットとした富士見L文庫で新作?
しかし実際に読んでみて納得、思い出して納得の内容でしたよ!
まずドタバタ感はありません。むしろしっとりとした雰囲気でした。ポップで楽しさ優先な『七々々~』に対して、本作は黒公爵ヴィンセントと恋文代筆人ユーディの距離の変化を愛おしむように描かれています。
それでいて、ただ甘いだけではありません。マフィアの元締めとも噂される黒公爵が纏う危険な香りと、甘い恋文に秘められたミステリー要素も含まれています。その点は、何者かに殺されて幽霊になった女の子の残した古代のお宝を探す『七々々~』と、どこか通じるものがあります。
そこではたと気づきました。男子の『ロマン』が女子の『浪漫』になったんだ、と。どうりで懐かしくも新鮮で、しっくりしながらもときめきを感じられるのでしょう。
あらためて『七々々~』も読み返してみると、なぜかニヤニヤしますね。この意外性と納得感の同居が、読者にとってはお得な体験なのかもしれませんね。
今後への期待が膨らむ爽快なラストが気持ちいい!
──仲村友巳
ユーディが手がける恋文は、単なる恋物語に留まらない奥深さを持ちます。そこには、力を持たない女性が政治力を持つ男性に影響を与える手段としての側面や、花街の女性が自らの境遇を切り開く可能性、そして庶民の識字率向上に貢献する流行としての側面が描かれているのです。
ロマンチックな逸話に隠された社会的な影響力が、この物語を特別なものだと感じさせます。そして、ユーディとヴィンセント……この二人が抱える秘密が複雑に絡み合い、物語に深みを与えています。
素性を隠したユーディと、恋に不慣れなヴィンセント。なかなか縮まらない二人の距離にやきもきさせられつつ、ふとした仕草や言葉に思わずときめく姿が愛らしくふと笑いが出てしまいました。彼は敵かもしれないと疑うユーディの姿には切なさもあり、揺らぐ心情に二人を応援したくなる……!
明かされる秘密と想いで結ばれた二人。続く困難にどう立ち向かっていくのか期待が膨らむ爽快なラストでした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
いかがでしたか?
鳳乃一真先生の新作『黒公爵様の恋文代筆人』の魅力がすこしでも伝わったら嬉しい限りです。悪役貴族と恋を読み解くロマンス×ファンタジー、ぜひ試し読みしてみてください!
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黒公爵様の恋文代筆人 (富士見L文庫)
鳳乃 一真 (著), カズアキ (イラスト)
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龍ヶ嬢七々々の埋蔵金1 (ファミ通文庫)
鳳乃 一真 (著), 赤りんご (イラスト)
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Lie:verse Liars 俺たちが幸せになるバッドエンドの始め方1 (MF文庫J)
鳳乃 一真 (著), あるてら (イラスト), Liars Alliance (原著)