つぎラノ2024文庫部門2位『魔女と傭兵』超法規的かえる先生スペシャルインタビュー

『魔女と傭兵』スペシャルインタビュー

「次にくるライトノベル大賞2024」文庫部門の2位は『魔女と傭兵』でした! 多くの読者から支持を集めた本作の創作秘話をうかがうべく、著者の超法規的かえる先生にインタビューを実施いたしました。

王道をとことん突き詰めた極上のファンタジーはどのように生まれたのか、その真相に迫ります!

『魔女と傭兵』

──「次にくるライトノベル大賞2024」上位入賞おめでとうございます! まずは今の感想をお聞かせください。

驚きが大きいせいで、未だにどこか他人事のように感じてしまっている自分がいます。元々はランキングの上位に自分の好みの小説がなかったから自分を満足させるために書き始めた作品なのですが、まさかここまで大きくなるとは夢にも思っていませんでした。

──人間でありながら魔女討伐を可能とする凄腕の傭兵ジグと、圧倒的な魔力であらゆる障害を打ち砕く魔女シアーシャが未知の大陸に渡り波乱を巻き起こしていく姿が印象的です。本作の着想をどこから得たか教えてください。

初めは経験と努力で力を得た主人公と、生まれから強さを持っていた魔女という対比の図を思い描いていましたね。ただそのままだと新鮮味に欠けるので、舞台を変えることで歴戦でありながら初心者という場を整えたかったんです。初めはシアーシャをここまで大きく扱うつもりはありませんでした。

『魔女と傭兵』より

──「小説家になろう」のプロフィール欄に「十年以上読む専門だったのが唐突に妄想を書き始めたくなり、執筆開始。」とありますが、何か執筆を始める具体的なきっかけなどはあったのでしょうか?

環境の変化ですね。職場が変わったことで自由な時間が出来て、暇をつぶすために読んでいたんですが、目ぼしい作品がなくなってしまったので書き始めました。元から小説を読みながら、自分ならこういう展開にするな……と妄想することが多かったので。

──本作を書く上で影響を受けた作品はありますでしょうか。また、ゲームがお好きとのことですので、お気に入りのゲームをいくつか教えてください。

私のライトノベルの原点という意味でなら『スレイヤーズ』(ファンタジア文庫)ですね。あの作品もアニメはともかく小説部分は結構ダークなところが多いので。しかし影響を受けた作品となれば最も多いのはゲームです。どれが、と搾るのはとても難しく、今までプレイしてきた数多くの作品からとしか言えません。

強いてあげるなら「ウィッチャー」「SEKIRO」「DARK SOULS」「モンスターハンター」「メトロイド」「装甲悪鬼村正」「うたわれるもの」「ディノクライシス」……キリがありませんね。新大陸という経験豊富な主人公を新しい舞台に連れていく手法は「モンスターハンター:ワールド」に習いました。お気に入りのゲームは……全部だ!

──それなりに社会性がありつつも、いざとなったら知り合いでも迷わず殺めるジグと、普段は世間知らずのお嬢様のような雰囲気を見せつつも、時折、人間離れした価値観が漏れ出るシアーシャ。この特殊な価値観を持つ主人公二人を書く上でどのようなことを意識しているのでしょうか?

主義主張のブレなさです。私が一番苦手なのは場面や相手次第で言っていることがコロコロ変わることなんですが、物語の都合上どうしてもそれを言わせないといけない場面ってありますよね。私はその場合、登場人物ではなく物語を合わせます。物語ありきに主人公たちの発言をいじると操り人形感が強くなりますから。まず登場人物たちありきで、設定という作者の都合に付き合わせない……これに尽きます。

『魔女と傭兵』より

──特殊な武器である双刃剣を使って戦うジグの戦闘シーンにはこだわりを感じます。戦闘描写で意識していることやこだわっていることを教えてください。

程よいリアル感を演出することです。あくまで「リアル感」であって、リアルでないのがキモですね。映える剣捌きや体の動かし方などは剣術の合理を含めて参考にしますが、リアルを追求し過ぎても華がない。がっちりガードを固めて判定勝ち狙いのボクシングなんて面白みがありませんからね。

しかし小説はあくまで文字なので、派手にしすぎればいいというわけでもありません。フィクションとリアルのバランスと緩急が大事だと考えています。あとは単純に、映画やゲームでかっこいいアクションシーンを見て「あれをどうやって文字で表現しようか?」と試行錯誤するのが楽しいんです。

──異大陸でジグたちが戦う魔獣は、飛烏賊や魔繰蟲、三面鬼など、通常のファンタジーに登場するモンスターとは少し毛色が異なる印象を受けます。こうした魔獣はどのような着想を得て生み出されたのでしょうか?

ここ十年でネット小説、特にファンタジーが大流行した結果、ゴブリンやオークと言ったモンスターがあまりに記号化され過ぎてしまいました。これは共通認識として詳細説明の不要化など、いい点も沢山あります。しかしファンタジー、つまり空想幻想といった不思議で謎めいた存在からはどうしても遠ざかってしまうという欠点もあります。ゴブリンのみならず、エルフやドワーフなど、それ一言で全ての説明がついてしまう存在は「新大陸での未知」という本作のコンセプトに合わないと判断して避けようと考えました。

全部造語は読む方も大変なので、ギルドなど組織名的な記号は使っていますけどね。魔獣にも生態を作り、彼らもこの世界で生きていることを表現できればと。より「モンスター」らしさと私の好みを考慮した結果、深海魚や昆虫をモチーフにした魔獣が多くなっています。

──叶世べんち先生のイラストは、シアーシャの美人っぷりはもちろん、大変いかついジグの外見もとてもインパクトがありました。超法規的かえる先生が最初に叶世べんち先生のイラストを見た時の感想を教えてください。また既刊の中で特に印象的なイラストはどれでしょうか?

本作の方向性からしても渋めのイラストで、特に男性がカッコよく書けないといけないんですが、叶世先生はそのどちらも十分に満たしていると感じました。実はジグのイラストについては結構難航しまして……主人公が二メートルの大男と言うライトノベルは中々ありませんから、無理ないですよね。渋めのテイストでありながらシアーシャもしっかり可愛く描かれていて、一巻の表紙は私のPC背景にさせてもらっています。

印象的なイラストで言えば五巻表紙ですね。一般的にライトノベル表紙は可愛いヒロインが飾ることが多く、男だけのイラストはあまり見かけない気がします。しかしあのカッコよさを前にしてその当たり前は吹き飛びました。大作ファンタジーのコンセプトアートにしても遜色ないですよあれは!

こちらが『魔女と傭兵』五巻表紙のイラストです
こちらが『魔女と傭兵』五巻表紙のイラストです

──書籍の書き下ろしでは、WEB版では登場しなかったシアーシャ以外の魔女やジグの師匠であるヴィクトールなども登場します。やはり彼らも今後の主人公たちの冒険に関わってくるのでしょうか?

基本的に書籍での書下ろしは本編で描かれなかった舞台裏や伏線を回収するといったコンセプトで書いております。これはWEB版だけを読んでいる読者さんが置いてけぼりにならないためです。ですので、一方その頃、的な世界観やバックストーリーを補完する程度に収めるため、合流して~ということは今現在考えておりません。

書籍化こそ果たしましたが、それはWEBで応援してくれている読者さんあっての賜物です。だからWEBだけでも楽しめて、もっと楽しみたい方は書籍を読んでいただければ、という方針を変えるつもりはありません。それに師匠たちが合流すると、凄腕傭兵三人組が淡々と厄介事を処理する絵面しか思い浮かばないので……。

──本編ばかりではなくマガポケでのコミカライズも好評です。今後の目標や野望がありましたら教えてください。

コミカライズ順調ですよね……とてもありがたいことなのですが、本編のストックががが……いやまさか週刊とは思っていなかったので。物凄い勢いで追い上げられていますので、追いつかれないように本編の更新速度も上げたいですね! 野望は……強いて言うなら作家一本で行けるようになることでしょうか。フルタイムの会社員もやっているので、なかなか時間が大変で。

──今回投票してくださった読者に、そして今回のランキングを機に本作を新たに知った読者へのメッセージをお願いします。

埋もれていた頃から応援して下さった皆様、埋もれていた本作を掘り出してくださった皆様、書籍となってからも支えてくださっている皆様に、心からの感謝を。本作はライトなダークファンタジーをコンセプトに据えており、暗すぎず軽すぎずな物語を心がけております。昔を思い出すファンタジーが読みたいなと感じている方、ダークファンタジーに興味はあるけどちょっとハードルが高いと感じている方、時代に逆行した揺るがぬ主人公を欲している方、良ければ本作を手に取ってみてください。頼れる主人公と可愛らしくも危なっかしいヒロインが、未知の大陸で繰り広げる波乱の物語を見せてくれるでしょう。

──ありがとうございました!

取材・執筆:マイストリート

つぎラノ2024受賞作特集

文庫部門、単行本部門、それぞれ上位5作品をご紹介するとともに、受賞作作家へのスペシャルインタビューを公開中!


次にくるライトノベル大賞とは

「次にくるライトノベル大賞」は、次世代にブレイクするであろうライトノベルを一般読者自らがエントリーし、またユーザーの投票でその頂点を決めるアワードです。

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