今年も「次にくるライトノベル大賞」が発表となり、『私の心はおじさんである』が単行本部門で1位となりました!
そこでキミラノでは著者の嶋野夕陽先生にインタビューを敢行! 突然異世界にダークエルフの美女として転移するという主人公が印象的な本作ですが、なんと処女作だそうです。お話を伺ってみました。

──「次にくるライトノベル大賞2024」上位入賞おめでとうございます! まずは今の感想をお聞かせください。
とにかくうれしいの一言ですね。賞をいただけたのも読者の皆様の応援のお陰です。この場を借りて感謝いたします。お話を聞いたときは担当編集さんと、お互い声を上ずらせながら喜びました。『次にくるライトノベル大賞』ですから、期待に応えられるように引き続き頑張って参ります。
──突然異世界にダークエルフの美女として転移したにもかかわらず、本人の自認はあくまで『おじさん』というハルカのキャラクターが印象的です。1巻あとがきで本作が処女作と書かれていましたが、本作を書こうと思ったきっかけを教えてください。
いくつかきっかけが重なって書き始めたのだったと思います。小さなころから物語を読むのが好きで、小説家には憧れがありました。ウェブ小説を長いこと読んできたので、そろそろ自分も何かを供給してみようかな、なんて気持ちもありました。
友人とやっていたTRPGの長いキャンペーンが一段落したというのも理由の一つですね。他にも某SNSでTS小説を書くと約束して10年以上放置していたのを思い出したりと……、本当に色々なことがかみ合いました。
──3年前に『カクヨム』で連載が始まってから現在にいたるまで、毎日更新のペースを保っているのは、時には他の作品の更新もしていることも考えるとかなり驚異的に思えます。作品の執筆を継続するコツなどがありましたらお聞かせください。
私は作品の書き始めから今にいたるまで、普通に社会人として働く兼業作家です。どうしてもしんどい日などもあるのですが、一度さぼるとずるずると駄目になってしまう自分を知っているので、何とか1日1回、2000字程度は書き上げると自分と約束をして書き始めました。
こう説明してしまうとただの根性論なので、記事を見てくださっている方にはあまり役に立たなそうですね……。もうちょっとまともなコツの話をしておきます。それは『自分に無理のない程度に継続する』ことと『完璧を求めすぎない』ことです。継続することで、毎日『今日も頑張った』と自分をほめ、適度なところで切り上げて投稿までいたることで『達成感を得る』のがコツかもしれません。
──小説を書く上で何か影響を受けた作品がありましたらジャンル問わず教えてください。
茅田砂胡先生の『デルフィニア戦記』です。物語が一度完結した後も、後続作品が出ていることを知った時は胸が躍りました。こんな風に長く続く物語が書きたいと思ったのは『デルフィニア戦記』からです。『デルフィニア戦記』発売当時にそんな言葉があったかは定かでありませんが、今思えばこちらの作品もTSしているので、おそらく今自分が思っている以上に影響を受けているのではないかと思います。
ファンタジー世界を書くにあたっては、『ソードワールド2.0、2.5』というTRPGに影響を受けています。一緒に遊ぶ友達を実装するのにちょっと苦労するのですが、とても楽しいので皆さんにもぜひプレイしていただきたいです。
──自分をおじさんとして認識しているため、悩んでばかりでなかなか行動に移れないハルカが、周囲から見るとクールビューティーなお姉さんに見えるという構造がとても楽しいです。元からTSというジャンルは好きだったのでしょうか? また女性化したハルカを書く上で一番意識していることを教えてください。
実はTSジャンルにはそこまで造詣が深くありません。前項で答えました通り、安易に約束をしていたことと、好きな作品の影響によって書くことになったのかなと。ただ、人の目からはこう見えるが実は……という構造は大好物です。
女性化したハルカを書く上で意識していたのは、すぐに馴染ませないことと、周りからはどう見えているかですね。いくら新しい世界で濃い毎日を過ごしているとはいえ、40年余り男性として生きてきたので。見た目というのは本人が意識している以上に、周りからの目が変わるものなんじゃないかなぁというのも意識しています。

──1巻のあとがきで、「ウェブ上では三人称で描かれている場面の多くを、この書籍では一人称に変更しています。」とありましたが、どのような経緯でこのような変更が行われたのでしょうか? また変更するうえで難しかったところ、変更して良くなったと感じるところがありましたら教えてください。
これは担当さんからお話を受けて「あ、いいですよー」とあまり深く考えずに承諾して変更することになりました。その理由については以下で担当さんに説明していただきましょう。
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担当:タイトル通り、見た目や能力が変わっても、心はおじさんであるというのがこの作品の面白さだと思っております。現実世界の我々は、悩んでいること、思うところがあっても言葉にはできないことも多いと思います。地の文では、感情の見えにくいハルカの心情が多く書かれているので、一人称に変更することでおじさんの心の中の葛藤がより見えて、作品の良さが際立つのではと思い嶋野さんにご提案させていただきました。
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作者として難しかったところは、ストーリーに矛盾が出ないようにすること。変更してよくなったと感じるのは、より主人公の内面に寄り添いやすくなったことでしょうか。ウェブから読んでくださっている方に、新しい楽しみを提供できたことも良かった点ではないかなと思います。
──ハルカが実年齢よりふた回り以上年下の若者たちとパーティーを組みつつも、年長者として彼らを導くのではなく、時には色々なことを教えられ一緒に成長していくのが印象的です。年齢が離れた彼らの関係性を書く上でどのような部分に気を付けているのでしょうか?
互いの長所を表現できるように気を付けています。パーティーの仲間たちには、若いからこそやれること、言えることがあります。逆にハルカには年を取っているからこその諦観めいた、人を受け入れられる余裕があります。いざという時の緩衝役になり得るハルカは、パーティーの安定に寄与しているはずです。とにかく、彼らだからこその冒険や結果になる様、いつも気にしながら物語を綴っています。
──人間を逸脱している特級冒険者から、感じの悪そうな貴族の子息に至るまで、登場人物ひとりひとりにドラマがあるのが本作の大きな魅力だと感じています。書籍化された範囲ではモンタナの過去が好きなのですが、様々な立場のキャラクターを作る上で、一番重要視しているところや、特に気を付けていることがありましたら教えてください。
この世界はハルカが主人公ですが、ハルカがいるから世界が動いているわけではありません。全員が『私の心はおじさんである』という物語に出てくるまで生きてきて、ハルカの目がないところでも生きています。そんな風に考えながら、キャラクターたちの思想や言葉を紡ぐようにしています。
──登場人物の中で嶋野先生が「友達になりたい」「一緒に冒険がしたい」というキャラを選ぶとすれば誰になるでしょうか?
私は単純にモンタナがすごく好きなのですが、諸事情により友達になるとしたらハルカでしょうか。多少変なことを言っても許してもらえそうなので……。
美人だから云々もありますが、おそらく彼(彼女)が元の世界で暮らしていた時に知り合ってもそれなりに仲良くなれると思います。冒険は怖いのでちょっと遠慮したいですが、どうしてもというのならば、無茶のない計画を立ててくれそうなエリかラルフを希望します。
──序盤から複数の国名が登場し、1巻終盤では他国のお家騒動の片鱗が描かれ、2巻では神聖国レジオンの独自の宗教観が語られるなど、作品世界の広がりを感じさせる設定が随所に描かれています。こうした設定は物語を書く前から細かく考えているのでしょうか?
ぼんやりとしたものは考えていました。例えばどのあたりにどんな国があって、こんな感じの思想を持っている、くらいまでです。こまごましたものは書き進めながら決めています。プロットもあまり作らないので、予定とずれていくこともよくあることです。
──今回投票してくださった読者に、そして今回のランキングを機に本作を新たに知った読者へのメッセージをお願いします。
ウェブの長い物語に付き合って下さり、商業作品まで愛し、投票していただいていることに感謝するばかりです。新しく読んでくださる方々には、キャラクターたちと一緒に冒険するもう一人の仲間のような気持ちで楽しんでいただければ嬉しいです。
ぜひとも推しのキャラを見つけて応援してあげてください!
──ありがとうございました!
取材・執筆:マイストリート
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次にくるライトノベル大賞とは
「次にくるライトノベル大賞」は、次世代にブレイクするであろうライトノベルを一般読者自らがエントリーし、またユーザーの投票でその頂点を決めるアワードです。