【新作ラノベ先読み感想文レビュー】
今回は12月27日に刊行される『たぶん悪役貴族の俺が、天寿をまっとうするためにできること』です。みなさんの感想も聞かせてください!
優しい物語からしか摂取できない栄養がある。そう、心の癒し、である。私は本作を読み、じんわりと心に温かなものが広がっていく感覚を覚えた。
と言うのも、主人公ルーサーの周りは優しく温かい人々ばかりなのだ。愛情たっぷりのルーサーの両親や、姉のように彼を見守るメイドのミーシャなど。皆、裏表がなく読んでいて気持ちがいい。なのに転生者であるルーサーは、生前身につけたラノベ知識のせいで、自分の家が悪役貴族の家系だと心配してしまう。本人は生き延びるために必死なのだが、周りは優しい人たちばかり。そのすれ違いに自然と口角が吊り上がってしまう。次第にルーサーが可愛く見えてきて、つい癒されてしまうのだ。
そんな愉快にすれ違うルーサーも、転生前は他者と一線を引くある種の孤独を抱える人間だった。しかしそんな彼が同年代の友達と楽しく遊ぶ姿は胸を熱くさせる。同じ転生者・イレインとの、肩ひじを張らず本音で語り合える悪友のような関係をみると特にそう感じる。友人に囲まれて楽し気なルーサーの姿は実にまぶしい。
ルーサーが出会う人々の中で、私が特に目を引いたのは魔法の師であるルドックスとの関係だ。ルーサーにせがまれて、自分の得意魔法を見せるルドックスの姿は、完全に孫に甘えられているお爺ちゃん! 好々爺であるルドックスが、ルーサーを教え導くほどに、彼はこの優しい世界の一員になっていく。なるほど、この世界で天寿を全うするためには、世界の敵にならないことはとても大切だ。心から世界に馴染むことが、転生者であるルーサーにとっての真の成長なのだろう。優しさに包まれた成長過程が、これほど心地いいものだとは! 新たな知見を得た気分だ。
文:明日香譲
ざっくり言うとこんな作品
1)ラノベ知識から生まれた勘違いで自分の知識や考えにのめり込む主人公と、その人柄に魅かれる優しい人間交差点物語。
2)前世の後悔で人との関わりに一線を引いていた主人公が、人との関わり方を知り周囲との絆を深める成長譚。
3)主人公の一人称視点の勘違い行動の面白さと、三人視点からの主人公を想うハートフルな人々に癒される、優しいファンタジー。
主要キャラ紹介
▼ルーサー
本作の主人公。伯爵子息に転生したことでラノベの悪役貴族と勘違いしており、暴走してしまう面もあるが、自分より他者のことを想い助ける優しい少年。
▼イレイン
ルーサーの許嫁で口数が少ない知的で可憐な令嬢。しかし、中身は男性というTS転生者。ルーサーと同じ転生者として秘密を共有し、砕けた口調で話すことのできる唯一の悪友。
▼クルーブ
若い冒険者で、賢者ルドックスの弟子。軟派な性格ではあるが卓越した魔法操作の技術をもつため、ルーサーの家庭教師として雇われる。が、ルーサーには少々ナメられている。
作品紹介
『たぶん悪役貴族の俺が、天寿をまっとうするためにできること 1』
著者:嶋野夕陽 イラスト:ふわチーズ
主人公にざまぁされるのは嫌だ、今世は天寿を全うしたい!
不幸な事件に巻き込まれ命を落とした青年は、
見知らぬ世界の伯爵子息、ルーサーに転生して新たな人生をはじめた。
──が、前世知識のせいで自らを破滅エンド確定の悪役貴族と大勘違い!
破滅回避に人間関係の改善や強くなることに奔走するが
それが思わぬ方向へと進むことに!