【レビュー】女王陛下の求婚から始まる、戦争をしないための戦い!? 第36回ファンタジア大賞《銀賞》受賞作!

【新作ラノベ先読み感想文レビュー】
今回はファンタジア文庫から9月20日に刊行された『女王陛下に婿入りしたカラス』です。みなさんの感想も聞かせてください!


 こういう英雄としてのあり方もカッコ良い。そう思わせてくれる作品だ。
 主人公のウィルは剣を振るうわけではないし、魔法の力に優れていることもない。大勢いる官僚予備軍のひとりに過ぎない少年でありながら、政治や経済や産業や外交に関する知識を駆使して一国を立て直してしまう……その姿が実に痛快である。

 立て直す国が、ちょっと前まで自分たちの国を蹂躙していた敵国であるオノグル王国という物語の構図も面白い。ウィルが敵に塩を送るようなまねをしたのはオノグルの女王イロナに頼まれたから。ウィルが自分の国の弱点を丸裸にした論文を読んで、こいつなら対応策も出せると踏んだというのだから彼女もなかなか策士だ。

 イロナに婿入りする形で連れて来られたオノグルで、当然敵国出身であるウィルは嫌われたり恨まれたりして誰の協力も得られない状況に陥るけれど、そこでイロナの権威をちょっとだけ借りつつ言葉を尽くして説得し、協力者を増やしていく手腕がなかなか巧み。こうやって人って動かすのかと勉強になる。あとは特産品の見つけ方。まさかそれが! 現実でも地域振興のネタ探しに使えそうだ。

 それでも気になるのは、ウィルがどうしてそこまでオノグルに肩入れするのかというところ。ウィルの父親はオノグルとの戦争で殺されているから、なおのこと不思議に映るけど、殺し殺されたりするのが戦争の常。それが憎しみの連鎖を生み、不幸になる人を生み続けるなら「なくしたい」と考えるイロナとウィルの頑張りは、読み進めるほど切実に応援したくなる。現実の世界でなかなか紛争が収まらないからこそ、よけいにそう思えてくるのかもしれない。第36回ファンタジア大賞《銀賞》だけあり、骨太で素晴らしい出来だった。


文:タニグチリウイチ

ざっくり言うとこんな作品

1)大学の論文で敵国の弱点を暴いたらその敵国の女王に論文を読まれてしまい、首が飛ぶかと思いきや、女王から婿にしたいと言われ……!? 意外性バツグンのストーリー!

2)敵国の出身ということで、女王の婿でも仕事をボイコットされてしまうウィル。しかし、そこから逆に味方を増やしていく彼の高いコミュ力に感嘆!

3)輸出品になりそうな品物を見つけ出す行動力や、経済封鎖を受けて戦争必至の状況を打開する決断力に新時代の英雄像を感じる。

主要キャラ紹介

ウィル
エースター国にある大学で「家政学」を学んだ少年。敵対しているオノグル王国のイロナ女王に望まれ婿入りして立て直しを始める。


イロナ
オノグル王国の女王で自国の弱点を論文に書いたウィルを婿として連れ帰る。可愛らしいが即位にあたって兄を殺した経歴を持つ。


ドリナ
ウィルについた侍女で全般を取り仕切る実直そうな女性。名家の出身だったが事情があって侍女となった。イロナとは乳姉妹の関係。


ローザ
ウィルの侍女でドリナとは反対にふわふわとした雰囲気。お茶の入れ方が下手で口調もぞんざいで侍女らしくないがそれには理由が。


作品情報
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    女王陛下に婿入りしたカラス

    著者: 逆巻 蝸牛   イラスト: いちかわはる

    女王陛下の求婚から始まる戦争をしないための戦い

    「君、私の婿になる気はないか?」
    国や領地をも家と見なし管理・経営する『家政学』専攻の学生ウィルは、略奪・戦争国家と批判していた隣国オノグルの女王イロナから初対面にもかかわらず突然、求婚される。
    「この国を、戦争以外の方法で飢餓から救いたいのだ」
    イロナの真意を知り、ウィルはオノグルで半年間過ごすことになるのだが、王宮の使用人たちにすら敵国の人間として扱われ味方は一人もいない状況で……。
    家族を殺し、殺され、他国を憎み、憎まれる負の連鎖を断ち切ることはできるのか。
    婚約式から靴や貨幣作りまで、剣を持たない少年の戦争回避術!

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